司法取引ででっち上げられたロッキード事件
フーテン老人世直し録(90)
文月某日
司法取引の導入や通信傍受の拡大などを柱とした刑事司法改革案を法制審議会がまとめた。フーテンはまた日本から民主主義が遠のくという感慨を持った。冤罪をいかに防ぐかという目的で始まった議論が逆に「警察国家」への道を切り開いたように見える。
そもそもの目的であった取り調べの可視化は適用対象が全体の3%にとどまり、被疑者が容疑を否認し続ける限り保釈されない「人質司法」も継続されることになった。「推定無罪」の原則は無視されるようだ。捜査当局はわずかばかりの可視化の見返りに、被疑者を脅してうその自白を強要する道を確保した事になる。
ロッキード事件を担当した検察OBが「司法取引が認められたことで日本も先進国並みになった」とコメントしたのを見て、よくもまあ白々しい嘘がつけるものだと驚いた。先進国と日本の司法とではそもそも月とスッポンの違いがある。
警察も検察も行政機関であり、行政府から完全に独立している訳ではない。そして有名な話だが日本の有罪率は99.98%と世界一で、1万件の中で無罪になるのが2件だけという事実がある。それには警察が摘発しても有罪になる見通しがなければ検察が起訴しないためだという説明がある。だとすれば日本では司法手続きを経る前に、ほとんどの事件が行政府内部で結論が出されている事になる。
つまり刑事司法と言っても日本では司法ではなく行政府の論理でほとんどが処理されているのである。近代刑事訴訟法の大原則である「推定無罪」は、司法の立場の原則だから、事件を捜査する警察や検察には縁遠い。今回の検察審議会の結論はそちらが優先された。つまり日本は司法が行政より従属的立場に置かれている。そしてそれが三権分立の実情なのである。
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