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攻撃ヘリコプターを廃止する陸上自衛隊

JSF軍事/生き物ライター
陸上自衛隊よりAH-64Dアパッチ攻撃ヘリコプター

 2022年12月16日に日本政府は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安全保障関連三文書(安保三文書)を発表しました。この文書の中では幾つもの驚きの方針が記されていましたが、そのうちの一つが攻撃ヘリコプター(対戦車ヘリコプター)と偵察ヘリコプター(観測ヘリコプター)の廃止です。

陸上自衛隊については、航空体制の最適化のため、一部を除き師団・旅団の飛行隊を廃止し、各方面隊にヘリコプター機能を集約するとともに、対戦車・戦闘ヘリコプター(AH)及び観測ヘリコプター(OH)の機能を多用途/攻撃用無人機(UAV)及び偵察用無人機(UAV)等に移管し、今後、用途廃止を進める。その際、既存ヘリコプターの武装化等により最低限必要な機能を保持する。

出典:防衛力整備計画2022 | Ⅺ 最適化の取組 | 1 装備品 - 防衛省

 攻撃ヘリコプターを廃止して無人攻撃機および輸送ヘリコプターの武装化で代替し、偵察ヘリコプターを廃止して無人偵察機で代替するという方針です。

※ドローンが対戦車攻撃に有効というわけではない

 意外に思われるかもしれませんが、これは対戦車攻撃について攻撃ヘリコプターより無人機(ドローン)の方が優秀だから取って代わられたというわけではありません。例えば現在行われているロシアが侵攻したウクライナでの戦争では、両軍が使用している遠隔操作型の無人攻撃機(宇軍:バイラクタルTB2、露軍:クロンシュタット・オリオン)は戦車をほとんど撃破できていません。

【過去参考記事】

【外部参考記事】

 オランダの軍事OSINT「Oryx」で計測しているバイラクタルTB2無人攻撃機の視覚的に確認された戦果は2022年9月初旬で止まっており、戦車撃破数はOryx英語版ではわずか5両のみです。2022年2月24日の開戦から2023年1月19日の現在まで約11カ月経過していますが、遠隔操作型無人攻撃機は攻撃面では満足に通用できていません。これはお互いに航空優勢が確保できていない環境だからです。

 機体カメラの映像を見ながら操作する遠隔操作型無人攻撃機は戦果の映像を必ず残せる利点があります。活躍しているなら宣伝のためにもっと多く動画が公開されている筈ですが、そうではないので、実際に発表できる戦果がないのでしょう。

 なおロシア軍はオリオン無人攻撃機がほとんど戦果を上げていない中で(戦車撃破はゼロ)、自爆無人機「ランセット」については最近戦果の報告を動画でよく目にするようになりましたが、実際に確認できる戦果を合計してみると多いとは言えず、Oryxの計測ではランセットによる戦車撃破は8両です。(該当記事は2022年11月25日までの計測)

【外部参考記事】

 そもそも自爆無人機は使い捨て運用なので、本来は徘徊弾薬(Loitering munition)という呼び方をする兵器です。これはドローンではなくミサイルの一種、滞空時間の長いミサイルだと考えた方が実態を正しく捉えられるでしょう。

 すると無人攻撃機や自爆無人機では攻撃ヘリコプターの完全な代替はできそうにありません。偵察ヘリコプターは無人偵察機に取って代わられたと言えますが、攻撃ヘリコプターはそうではない。それではなぜ陸上自衛隊は攻撃ヘリコプターの廃止を決めてしまったのでしょうか?

戦場で生き残れない攻撃ヘリコプター

 実はドローンが戦場で広く使われるようになるよりもずっと前から、攻撃ヘリコプター不要論は一部で唱えられていました。戦場に携行地対空ミサイルを持つ歩兵が多く存在するようになったのに、はたして低空を低速で飛ぶ攻撃ヘリコプターが生き残ることが出来るのかという疑問です。それはウクライナでの戦争で真っ先に現実のものとなりました。

ロシアによるウクライナ侵攻では、攻撃ヘリコプターが数多く撃墜されたことから、その終わりが示唆されているとの見方が浮上している。軍事専門家の間では、ヘリの能力そのものの問題なのか、ロシア軍による運用の不手際なのかをめぐり、論争が繰り広げられている。

出典:【解説】ウクライナは「攻撃ヘリの墓場」になるのか | AFP(2022年6月6日)

関連:攻撃機や攻撃ヘリがロケット弾を「斜め上」に発射して遠隔攻撃する戦法(2022年6月15日)

 ロシア軍は攻撃ヘリコプターが携行地対空ミサイルによって多数が撃墜されてしまい、損害を恐れてロケット弾を遠くから斜め上に撃って遠隔攻撃して直ぐ帰る消極的な戦法に追い込まれました。これでは命中精度など全く期待できないですし、遠くからロケット弾を撃つだけなら輸送ヘリコプターの武装型でも同じことが可能です。攻撃ヘリコプターの存在意義が揺らいでしまっています。

 攻撃ヘリコプター不要論は現実の戦争での大損害を目の当たりにしてさらに議論が活発化している状況です。ただし現在でも攻撃ヘリコプターが必要だとする反論の声もあります。世界の方向性はまだ定まったとは言えません。

 しかし日本はあっさりと攻撃ヘリコプターを捨てる決断をしました。もともと日本がこれからの主戦場と想定している島嶼での戦いでは、航続距離の短い攻撃ヘリコプターは活用し難いと見られていましたが、その上にウクライナのような地続きの大地での正規戦で攻撃ヘリコプターが大損害を出して満足に活用できていないとなると、維持しても活用できる見込みがないと判断されたのでしょう。

 ロシア軍の攻撃ヘリコプターが大損害を出してしまったのはロシア軍の使い方が悪かったのだという説もありますが、ウクライナ軍の攻撃ヘリコプターも満足に活用できていない以上(同じようにロケット弾の斜め上向き発射をしている)、攻撃ヘリコプターという機材の弱点が露呈したと見るべきです。

 携行地対空ミサイルを避けるには飛行高度を6000m以上に上げれば届かないのですが、ヘリコプターでは高い高度を巡航できません。また仮にそれが出来たとしても今度は大型の防空システムに狙われてしまいます。戦闘機ならばステルスという技術的な解決手段がありますが、ヘリコプターは巨大な回転ローターを持つ以上は防空システムのレーダーの探知から逃れるステルス化は無理です。それではレーダーの探知から逃れるためには低空飛行をしなければならず、やっぱり携行地対空ミサイルに狙われてしまうことになります。

 つまり攻撃ヘリコプターには居場所がありません。しかし攻撃ヘリコプターは攻撃に行く以上、敵の脅威の高い場所に乗り込む必要があります。輸送ヘリコプターなら敵の脅威の低い場所に歩兵を降ろして作戦を行うこともできますが、攻撃ヘリコプターはそういうわけにもいきません。輸送ヘリコプターの護衛任務(着陸場所周辺の掃討)だけならば輸送ヘリコプターの武装型でも間に合います。

 攻撃ヘリコプターは対戦車ヘリコプターとも呼ばれるように、積極的に戦車を狩りに行かなければ存在意義が失われてしまうのですが、ロシア-ウクライナ戦争という最新の大規模な戦争で実際にその存在意義が問われています。

 これはドローンがどうこうという話ではなく、攻撃ヘリコプターの物語なのです。

AH-64Dアパッチ調達に失敗していた陸上自衛隊

 日本が世界でいち早く攻撃ヘリコプターの廃止を決めたのは、おそらくロシア-ウクライナ戦争の影響も大きかったのだとは思われますが、前述の島嶼戦では攻撃ヘリコプターが活用し難い環境であることや、2001年に購入決定した陸上自衛隊のAH-64Dアパッチ攻撃ヘリコプター調達事業が失敗していたこと(2008年度予算で調達中止を決断、62機調達予定が最終的に13機で中止)などの影響も大いにあります。

 もしもAH-64Dアパッチ調達事業が成功していたら、あるいは競合機だったAH-1Zヴァイパーを調達して成功していたら、攻撃ヘリコプターの廃止は勿体なくて決断できていなかった筈です。

 日本はアパッチの調達失敗から代替を15年近く決めておらず放置していたので、陸上自衛隊は攻撃ヘリコプターそのものへの熱意を失ってしまったとずっと噂されていました。だから2022年12月16日の安保三文書の発表で攻撃ヘリコプターの廃止は非常に驚きではありましたが、同時に「案の定か」「とうとうこうなったか」という反応も大きかったのも事実です。

戦車を絶滅させると思われていた対戦車ヘリコプターの終焉?

 攻撃ヘリコプターは1960年代から1970年代に対戦車ヘリコプターという役割で登場し、当初は戦車という種類の兵器を絶滅させてしまうのではないかとすら言われていました。しかし今や携行地対空ミサイルや自走式短距離地対空ミサイルの脅威の前に、戦車より先に絶滅しそうな皮肉な状況となっています。

 それでも、おそらくですが攻撃ヘリコプターは完全には無くならないでしょう。輸送ヘリコプターの武装型まで含めれば決して無くなったりはしない筈です。

 また戦車を廃止していた国が新たな脅威に備えて戦車を復活させた例があるように、攻撃ヘリコプターを廃止した国が後から復活させる可能性も有り得ます。

 世界に先駆けて攻撃ヘリコプターを廃止した日本に続く国は出るのでしょうか? それともまた何時の日か復活するのでしょうか? 

2023年5月21日追記:ドイツが続きました。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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