「大阪都構想」否決後、大阪府と大阪市は新たな歩みを始めた
12月28日、大阪府・大阪市は、副首都推進本部の第21回会合を開催した。副首都推進本部は、本部長が吉村洋文大阪府知事、副本部長が松井一郎大阪市長で、大阪府と大阪市における新たな大都市制度の再検討や広域行政についての司令塔となっている(堺市に関わる案件には堺市長も副本部長として参画する)。
副首都推進本部の第21回会合では、府市一体化・広域一元化に向けた条例の検討が議題となった。
府市一体化といえば、「大阪都構想」を想起する。2020年11月1日、「大阪都構想」に関する住民投票の結果、僅差で否決された。その結果を受けて、吉村知事は、「大阪都構想」には再挑戦しないと明言した。
「大阪都構想」、つまり大阪市を廃止して特別区を設けることは、今後行わない。とすると、大阪府と大阪市は、今後どのように行政を進めてゆくのか。その方針が、12月28日の会合で示された。
11月の住民投票の結果をより細かく分析すると、大阪市を廃止することには反対する住民が半数を超えたものの、大阪府と大阪市の二重行政の解消は高く評価されていた。現在の首長は、大阪府知事と大阪市長がともに同一の会派で、人間関係によって二重行政を行わないようにすることはできている。しかし、二重行政の解消を担保する制度的な仕組みがないと、首長が代わって知事と市長が張り合うと二重行政の復活も起こりえる。
二重行政の根本的な原因は、政令指定都市には道府県が持つ権限を大半を移譲されていることにある。つまり、道府県は、政令市以外の市町村の区域にはその権限を行使できるが、政令市の区域内では行使できず、政令市がそれを行使する。
行政区域できれいに区分けされて行政に混乱が生じないなら、二重行政は起きにくいだろう。しかし、ともに同じ行政権限を持ちながら、道府県は、政令市の区域外すれすれの地域までは行使できるのに対し、政令市の区域内に入ればたちまち行使できなくなる、といったイメージである。それでも、地理的な関係で、政令市域をまたいで政令市域外の地域に、行政を行う必要がある場合も多い。
他方、政令市は、その市域外にはその権限を行使できないし、選挙権や課税権等との関係からして市域外に権限を行使する義理も責任もない。極言すれば、政令市は自らの市域のことだけ考えて、政令市以外では道府県が有する権限を行使すればよい。
だから、道府県と政令市が密に連携しないと、両者が同じ権限を持つ行政分野で、方針の食い違いに起因する行政の無駄や重複が、起きても不思議ではない。
こうした問題が生じやすい行政分野が、広域行政である。特に、インフラ整備やまちづくり、産業振興がそうである。
ところが、道府県と政令市が密に連携する制度が、ほとんど機能していないのが現状である。地方自治法では、2016年度から、指定都市都道府県調整会議が設けられるようになったが、政令市制度は1956年からあるのだから、それまで制度的に道府県と政令市の連携を担保する仕組みがなかったことを物語っている。しかも、今日においても、指定都市都道府県調整会議を積極的に活用している道府県は、大阪府を除いてあまりない(前掲の12月28日の会合の議題も、指定都市都道府県調整会議としての議題と位置付けられている)。しかも、その積極活用は、大阪府知事と大阪市長の人間関係に依存している。
こうみれば、「大阪都構想」が否決されたからといって、大阪市における広域行政の問題は、何も解決していないことがわかる。
そこで、副首都推進本部の第21回会合の議題に戻ろう。大阪府と大阪市は、府市一体化・広域一元化に向けた条例について、次のような方針を打ち出した。
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