【生まれ変わるヒルトン東京】TSUNOHAZUはどのようによみがえったのか?
前倒ししてリニューアルオープン
「【生まれ変わるヒルトン東京】よみがえるTSUNOHAZU、はじまる新宿の食」で、ヒルトン東京の2階フロアがリニューアルされるとご紹介しました。
このフロア「TSUNOHAZU」が、当初予定していた11月よりも少し前倒しして、2014年10月31日にリニューアルオープンしました。レストラン・バー合わせて全4店舗(他に「パティスリー FILOU」)、フロア全てという大規模なリニューアルは、最近ではあまり見掛けられないだけに、とても注目されています。
2013年10月20日にリーガロイヤルホテル東京「ダイニング フェリオ」、2014年6月28日に「【大阪グルメ】総工費1億円以上をかけた人気ブッフェ「ナイト&デイ」のリニューアルとは?」でもご紹介したホテル阪急インターナショナル「ナイト&デイ」、2014年7月1日に第一ホテル「エトワール」、2014年7月4日に「ミシュランシェフは何を考え、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ「彩龍」を選んだのか?」の「彩龍」がリニューアルオープンしています。
しかし、どれも単体のレストランであって、ヒルトン東京のように複数のレストランが同時にリニューアルオープンしたわけではありません。
ヒルトン東京の英断
フロアを全面リニューアルするとなると、費用がかかることはもちろん、営業できない期間も長いので経営的に難しくなります。他のレストランに客が殺到してしまうことで、オペレーションが回らなくなり、客の満足度が低下することもあるでしょう。
そういった中で、この先もトップを走り続けるために、ヒルトン東京が思いきって2階フロアをリニューアルしたことはまさに英断でした。総支配人 マイケル・ウィリアムソン氏をして「これほどの改革はもう2度とないだろう」と言わしめる程の規模だったのです。
こうした決断が下された理由として、1階にあるマーブルラウンジがカフェとしてもダイニングとしても機能し、人気や満足度が高かったことが挙げられるでしょう。また、フロア全てをリニューアルすることで、全体の統一感を生み出せることも重要です。一部のレストランだけをモダンにしてしまうと、他の古いレストランとバランスがとれなくなってしまう場合があるからです。
エネルギーの源がある
TSUNOHAZUをデザインした気鋭の建築家である谷山直義氏は「新宿という街には様々な顔がある。西新宿は整然として真面目な場所という印象」としながらも、「もともとはごちゃごちゃとしており、人々の生活の薫りが宿った場所。それこそにエネルギーがあり、力の源泉となっている」と展開します。
こういったことを受けて「仕切りをなくして1つの空間としてとらえて、カオスにした。様々な場所に、色々な要素を断片的に散りばめている。20程度の空間を創れるアイデアをこの1つの空間に全て織り込んだ。多面的な魅力を持つ新宿をこれ以上に表現しようがない」と渾身の作品であったとします。
谷山氏が現代によみがえらせたTSUNOHAZUのレストラン・バーを全てご紹介しましょう。
日本料理 十二颯
かつて西新宿にあった通りの名前「十二社」と同じ響きにした名前が付けられています。会席料理のテーブルエリア、寿司カウンターのエリア、鉄板焼を提供するエリアに分かれており、しっかりとゾーニングされているようでいて、一体感があります。
料理長 高橋章氏は「十二というのは月をも表している。12あるどの月に訪れても、それぞれの季節の薫りが肌身で感じられる料理を提供したい」と述べます。
鉄板焼
鉄板焼料理長 松崎源次氏は「メトロポリタングリルと差別化を図るために、鉄板焼では和にとことんこだわった」と話し、「4種類の塩だけではなく、4種類の醤油もご提供して和風に食べていただけるようにしている」と説明します。
お勧めするメニューを尋ねると「アワビの炎焼き。タジン鍋の上面に穴を空け、アワビを蒸し焼きにしている。上から炎が出て非常に臨場感がある。柚子のジュースとピールを加えたバターが実によく合う」と述べます。
寿司
寿司シェフ 斉藤淳氏は「シャリには酒粕から作られる赤酢を使っている」と特徴を挙げ、理由を訊くと、「そもそも初期の江戸前寿司には赤酢を使っていたので原点に立ち返った。甘さも加えておらず、よりシンプルにし、ネタが引き立つようにしている」と答えます。
続けて「大間のマグロが入ることもあったり、ガリに新生姜を使ったりしている」と自信を持って話します。
他にも「藁を使ってカツオやサワラを燻したり、青森県産の赤ウニと北海道産のバフンウニの食べ比べを行ったりしている」と、他では中々体験できない楽しみ方を案内してくれます。
中国料理 王朝
王朝は2階フロアの中で唯一ブランドが残ったレストランです。料理長 柳谷雅樹氏は「よいところは残しつつも、新しいことに挑戦した」として、具体的には「北京ダックは、一度に8羽を焼き上げるオーブンを新設し、皮だけではなく肉も堪能できるようにした。点心師を招聘し、本格的な飲茶を楽しめるにした」と説明します。
北京ダックには、甜麺醤にガーリックパウダーを加えたオリジナルのソースを包んだり付けたりして食べます。
「旬をとても大切にし、今の時期では上海蟹をコースに入れている」と季節感をこれまで以上に表現するとし、お酒についても「中国のワインにも力を入れている。もちろん、どのワインも中国料理との相性は抜群」と太鼓判を押します。
メトロポリタングリル
総料理長 フィリップ・エガロン氏がアイデアを振り絞り、シェフ 野瀬好進氏が腕を奮うグリルレストランです。ガラス張りのグリルカウンターや熟成庫内に吊り下げられた肉の塊、床に重ねられた薪が目を引きます。
肉を食べ易くするように新しく取り揃えられたサンボネのナイフは、ハンドルに厚みがあって握り易く、切れ味もよいので、全くストレスがありません。
野瀬氏は「アトランティックサーモン、ブルーロブスター、穀物飼育の和牛、穀物飼育したブラックアンガスの熟成肉、黒豚、オーストラリア産ラムラックの熟成肉など、様々な厳選した食材を取り揃えている」とこだわりを述べます。
他にも特徴があるとして、「グリル料理には8種類のソースをご用意している。それだけではなく、ペッパー、マスタード、塩など20種類以上ものスパイスを載せたワゴンの中から、スパイス・コンシェルジュが最も相応しいスパイスをお選びする」と、斬新な試みをさらりと説明します。
バー&ラウンジ ZATTA
マーケティング コミュニケーションズ マネージャー 五戸若茂子氏が「エレベーターから足を踏み出すと、いきなりバーに降り立ち、日常から非日常へと誘われる。通常、バーは一日の最後に訪れるが、最初に訪れることになる。アルファベットの最後であるZから始まる名前を付けたのには、こういう意味があった」と説明します。
ZATTAのメニューはiPadで提供されており、スタイリッシュな内装と重なって、近未来的な印象を受けます。酒という枠を取り払ってスパイスをふんだんに使い、どのカクテルも非常に独創的です。お茶漬けをイメージしたり、ハンバーガーのエッセンスを感じられたり、パンケーキをなぞらえたりと、他ではまず味わえない珍しいカクテルばかりです。
添えられるプティフールにも力が入れられています。クミンやターメリックで味付けされたピーカンナッツはほんのり辛くて、お酒がよく進みます。
よみがえったTSUNOHAZU
TSUNOHAZUが時を超えて、ようやくここヒルトン東京によみがえりました。ヒルトン東京は、世界中にあるヒルトンの中でも非常に重要なホテルの一つです。従って、今回のリニューアルでも、もちろんヒルトン本体の意向は強く反映されていることでしょう。こういったグローバルな視点を交えながらも、新宿に1978年まであった昔の地名に過ぎない「角筈」がよみがえったことは感慨深いものがあります。
実は新宿には角筈の名残がまだいくつかあります。その中でも、JR線路の下を通り、新宿駅の東側と西側をつなぐ役割を果たしている「角筈ガード」が有名です。東側と西側をつないだこの角筈ガードのように、過去と現在をつないだTSUNOHAZUは今後、以前フィリップ氏が語ったように「誰も見たことがなく、食べたいことがないもの」とヒルトン東京へ訪れる人をつないでいくでしょう。
そうしていくことによって、角筈という新宿の地名はなくなりましたが、TSUNOHAZUという食の空間はこれから先もずっと、<食のヒルトン>に残り続けていくはずです。
情報
詳しくは公式サイトをご確認ください。
参考
TSUNOHAZUについてはレストラン図鑑で詳しく紹介していますので、ご参考にどうぞ。