ミシュランシェフは何を考え、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ「彩龍」を選んだのか?
横浜の食
横浜の食といえば、何を思い浮かべるでしょうか。
吉村家や六角家といった家系ラーメン、ホテルニューグランド発祥のナポリタン、横須賀と共に発祥地だと言われているカレーライスから連想される洋食を挙げる人も多いでしょう。
しかし、最も多く思い浮かべる食は横浜中華街から連想される中国料理ではないかと思います。
ホテルの中国料理も人気
横浜中華街の中国料理はコストパフォーマンスが高いので人気がありますが、ホテルの高級中国料理はゆっくりと優雅に寛げるということで人気が高いです。
特に横浜駅のランドマークとして存在感を示す横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ「彩龍」は駅前という利便性の高さもあって、多くの人に利用されています。
彩龍がリニューアルオープン
この彩龍が2014年7月4日にリニューアルオープンしました。さらに注目するべきところは、リニューアル少し前の5月に、陳啓明氏が中国料理および彩龍の総料理長に就任したことです。
陳氏といえば、1996年からウェスティンホテル東京「龍天門」で料理長を務め、2010年から2012年まででミシュラン1つ星を獲得した中国料理界の重鎮ともいえる存在です。
しかし、2012年に龍天門を辞め、それからは一切の表舞台から遠ざかっていました。ファンはもちろん、他の料理長やグルメジャーナリストから動向を注目されていました。
陳氏に一体何があったのでしょうか。
面白い仕事だと思った
陳氏は「龍天門を辞めた後、色々なところから声を掛けられた。名義貸しのオファーもあり、どこも看板が欲しいだけで、面白い仕事だと思えなかった」と振り返ります。ミシュランシェフがいるというだけで、レストランのグレードは上がり、メディア露出も格段に増えるだけに、陳氏に様々な外食関係から声が掛かったというのは想像に難くありません。
では、何故、今回は引き受けたかを問われると、「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズの比留間氏から、年間4億円を売り上げれば、あとは好きにしていいと言われた。目標は非常に高くてやりがいがあるし、思い切り自由にできる。これは面白い仕事だと思って引き受けた」と、チャレンジ精神旺盛な陳氏らしい回答をします。
彩龍には陳氏が必要だった
総支配人代理 兼 人事部長 比留間英司氏は「彩龍は少し元気がなかったので、何とかして活気づけたった。それには龍天門を一躍トップの中国料理店へ押し上げた陳氏の力がどうしても必要であった。ホテルを挙げてバックアップすると約束した」と、陳氏に対して並々ならぬ想いをぶつけて、三顧の礼を尽くした話します。
比留間氏の言葉に嘘はなく、全面リニューアルを施してより快適な空間にしたり、香港への視察を促して最新の料理を吸収できるようにしたり、什器を購入して新しいプレゼンテーションを行えるようにしたりと、陳氏の才能をいかんなく発揮できる環境作りに励みました。
最高の中国料理店に
このように環境が整ったことを受けて、陳氏は「最高の中国料理店にしたいという想いが十二分に伝わってきた。妥協のない本格的な料理を提供し、日本の広東料理をリードしていきたい」と力強く述べます。
マーケティング部 広報マネージャー 大川真実氏は「陳氏が最も得意とする広東料理を中心に提供しながらも、チャイニーズ アフタヌーンティーやスイーツに力を入れたり、サンデーオーダーバイキングを実施したりと、お客さまがより楽しめるように考えている」と構想を話します。
さらにグレードアップした料理
総料理長に就任する時期について問われると、陳氏は「リニューアルオープンする7月に総料理長に就任する話もあったが、それではよくないと考えた。5月から総料理長になり、自分自身で現状を確認してから新しいものを作りたかった」と答えます。
続けて「これまでは忙しくて時間がなかったが、よい機会なので日本全国を回った。築地で魚を吟味したり、福岡まで蟹を食べに行ったり、新橋で話題のナポリタンを食べたりした。フレンチもイタリアンも様々な料理を食べた」と、来たるべき時に備えて、充電していたと話します。
新しくなった陳氏の料理をご紹介しましょう。
おすすめ点心
左下から時計回りの順番に、海老焼売、蒸し焼売、にら焼売です。蒸し焼売は肉感があるだけではなく、シイタケもふんだんに使われているので旨味があります。にら焼売は翡翠色の皮で、ニラが香り高いです。
広東風焼き物
左から順番に豚叉焼、豚トロ、腸詰め。豚叉焼は独特の風味があり、豚トロは脂がたっぷりです。腸詰めは独特の香りを生かしつつも、嫌み味のない味です。
蟹爪ときぬがさ茸 冬瓜の上湯蒸しスープ
陳氏は「毎朝来たら、真っ先にスープを一人前飲む」と言うほどスープを大切にしています。その言葉通り、実に品のよい澄んだスープです。蟹爪は大きくて、身は繊維一つ一つに味わいがあります。冬瓜はなめらかで甘く、きぬがさ茸はスープを吸って一層食味が高められています。
北京ダック
ワゴンで運ばれてきて、目の前で調理されます。陳氏が「北京ダックは専用オーブンで焼き、お客さまの前で手際よく巻いてご提供している」と説明する通り、皮がパリっとしていて最高の状態です。皮を切る時に、脂が付きすぎても、付かなさすぎてもいけないので、熟練を要する技です。
活あわびとホタテ 野菜の炒め
軽い塩味でアワビとホタテの素の味を生かしています。ショウガも効いていて、心地よい余韻が残ります。最後の料理を前にして、バランスが取れたコース構成であるといえるでしょう。
冷製坦々麺
陳氏秘伝の逸品。スープは冷製でも、甘味と旨味がしっかりと伝わってきて、実に味わいが深いです。あまりにもおいしいのでスープをごくごく飲めてしまいます。完成された料理ですが、「麺もさらによくしていきたい」と陳氏は妥協しません。
マンゴープリン
陳氏が香港で見付けてきたという金魚型で作ったマンゴープリンです。中にはライチと紅茶のジュレが入っています。見た目のインパクトとは違い、マンゴープリンは甘さ控えめで、繊細さを楽しむデザートに仕上げています。
デザートの盛り合わせ
白玉粉の饅頭、桃饅頭、胡麻団子の3品です。カラっと揚げられており、フィリングのあんがおいしい、黒白の胡麻を使った胡麻団子が出色です。
陳氏が「デザートにも力を入れている。香港に行った時、デザートは特に入れて研究したので、女性のお客さまには是非食べに来ていただきたい」と説明する通り、デザートにも力を入れています。
エリート人生を歩む
陳氏の料理人生は名門の京王プラザホテル「南園」から始まり、新横浜プリンスホテル「胡弓」、ウェスティンホテル東京「龍天門」、そして横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ「彩龍」に至ります。まさにホテル中国料理のエリート人生を歩んできたと言えるでしょう。
その陳氏が、町場の中国料理としては日本屈指の横浜中華街近くで、腕を奮うことになるとは、感慨深いものがあります。
本音を聞かせいただきたい
「ミシュランで星を獲得するのであれば、もっとワインを充実させて、ソムリエも増やしたい」と構想を述べる一方で、「お客さまには本音を聞かせていただきたい。忌憚なく悪いところを教えていただいて、よりよく改善していきたい」と、陳氏はミシュランシェフにしては非常に謙虚です。
奔放さと謙虚さを併せ持った稀代の中国料理人である陳氏は、その腕一本で彩龍をどのように彩っていくのでしょうか。ミシュランで星を獲得できるかどうかも含めて、今最も注目するべき中国料理店です。
情報
詳しくは公式サイトをご確認ください。