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コロナ禍で巣ごもり消費が急増する中、自粛ご飯のSNS映えに疲れる人も?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

緊急事態宣言が全国で解除

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍晋三首相が2020年4月7日に発令した緊急事態宣言も、5月25日をもって日本全国の都道府県で解除されました。

ただ、新規の感染者数が福岡県北九州市で激増したり、東京都で上下したりするなど、予断を許しません。引き続き不要不急の外出は控えるように、三密を回避するようにと指針を示されているだけに、自宅で過ごす時間は多いのではないでしょうか。

新しい生活様式の提言によって食のあり方もだいぶ変わってきたように思います。

朝食であればオフィスでコンビニのおにぎりやサンドイッチをつまんでいたのが自宅でしっかり食べるようになったり、昼には会社近くの定食屋のランチセットが自宅での軽食や冷凍食品となったり、ディナーではファインダイニングでのコースや居酒屋の酒肴で済ませていたものが自宅での食事となったりしているのではないでしょうか。

巣ごもり消費が増えている中で、自宅における食の消費も増えているのです。

自宅でご飯を作るストレス

自宅で毎食、食事を作り続けていることから大きなストレスがあるということも記事になっています。

この記事はYahoo!ニュースのトピックスにも取り上げられて話題となり、私もオーサーコメントを投稿しました。

自宅で食事をとることが多くなった影響で、Googleでも「おうちごはん」「おうちご飯」といったキーワードが急上昇しています。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、自宅でご飯を作るというキーワードが、急激に増えていることは、グラフを見ればよく分かることでしょう。

Instagramでもタグが多い

自宅に巣ごもりしていながらも、InstagramをはじめとしたSNS映えが流行しているという記事が見かけられています。

その証左に自宅での食事に関連するタグが大きなボリュームを占めるようになりました。

「#おうちごはん」1561万件が非常に多く、「#おうちカフェ」437.8万件や「#おうちごはんlover」148.6万件が100万件を超えており、「#おうちご飯」99.4万件、「#おうちパン」64.1万件、「#家ごはん」55.1万件と50万を超えています。

さらには「#おうち居酒屋」37.5万件、「#おうちおやつ」29.7万件、「#おうちランチ」26.3万件、「#おうちスイーツ」14.4万件。

持ち帰りに関するものでは「#テイクアウト」185.1万件、「#テイクアウトランチ」10.1万件、「#テイクアウトグルメ」8.5万件、「#テイクアウト弁当」4.8万件、「#デリバリー」が21.7万件となっています。

2019年3月時点で、日本におけるInstagramの月間のアクティブユーザー数は3300万人といわれているだけに、このタグ数は非常に多いといえるのではないでしょうか。

自粛ご飯のSNS疲れ

自粛ムードが続く中、キッチンで調理したり、飲食店でテイクアウトしたり、デリバリーを注文したりと、自宅でのご飯に大きな関心が寄せられるようになりました。

その一方で、自粛ご飯のSNS映えに疲れたということも、私の周りで聞かれるようになっています。これまでにもSNS疲れが社会問題となりましたが、コロナ禍における食事でも同様のことが起きているようなのです。

自粛ご飯のSNS疲れは、いわゆるコロナ疲れとは違います。

自粛要請の影響で、自宅にこもらなければならなかったり、食べたいと思っていても行きたい店が閉まっていたり、外出してもソーシャルディスタンスに気を使ったりして、ストレスを受けているのではありません。

コロナ前と同じようにSNS映えを意識するあまり、巣ごもりご飯においてもSNSの投稿を頑張りすぎて、消耗している人が現れているのです。

自宅にいる時間が多くなったので、在宅中の食事をより豊かなものにするべきだというようなテレビの番組やYouTubeの動画、インターネットや雑誌の記事が多くなっていることも影響していると考えています。

手作り料理

大人だけではなく子供たちが自宅で過ごす時間が増えていることで、自宅で料理を作る機会が増えました。これまでであれば、毎日夕食だけを考えて作っていればよかったのが、毎日三食とも作らなければならないとなると、その負担は数倍にも膨れ上がります。

なぜならば、ただ単に毎食同じものを提供していればよいわけではないからです。飽きないように配慮しながらも、出来合いのものではなく、栄養バランスを考えて料理を作るのは非常に手間がかかります。

献立やレシピを探したり考えたりして決定し、その時点から食材を購入。ご飯の開始時間に合わせて仕込みを行い、適切な時間に提供できるようにするのは、手間隙がかかることでしょう。

このような大変な状況にあって、いや、このような大変な状況であるからこそ、わざわざSNSに投稿して見てもらおうという機会が増えています。

自宅にいる時間も長くなっているだけに、入念にテーブルセッティングを行い、光の加減も調整することが可能です。手の込んだ料理に美しいテーブルウェア、計算された構図とぴったりのライティングによって、すごい手作り料理の写真が投稿されています。

SNS映えのために、わざわざ新しくテーブルウェアを購入したり、ライティングを新たに設置したりといった人も少なくありません。

高級ホテルや人気レストランの料理人が門外不出のレシピを投稿しています。そのようなレシピを用いて、家庭レベルではない料理やデザートを作ってSNS映えを狙っている人もいるのです。

毎日三食を作るだけでも大変なのに、SNSでも存在感を示さなければならないということで、疲れがみえてきています。

デリバリーの配送範囲内

自宅にいることが増えてきて、毎食作るのが大変ということで、デリバリーを注文する機会も増えてきました。

新型コロナウイルスの感染が拡大する前にも、出前専門の業態が存在していたことは、多くの方が認識していることでしょう。ピッツァや寿司、弁当や惣菜などで、すぐに頭に思い浮かべられるチェーン店があるかと思います。

しかし、そのような既存のデリバリーではなく、新型コロナウイルスの影響を受けて、これまでデリバリーを行っていなかった飲食店が、デリバリーのプラットフォームを用いて商品を配送するようになりました。

消費者にとってデリバリーは、わざわざ取りに行かなくてもよかったり、自粛で時短営業している飲食店の料理を味わえたりして、非常に便利です。

ただ、デリバリーには配送範囲が限られています。同じ東京都であっても、住んでいる区によって、配送が可能となっている飲食店はだいぶ異なるもの。ファストフードやデリバリーを主とした業態であれば、多くの地域で注文できますが、コロナ以降からデリバリーを始めたような個人事業主が営む飲食店では配送範囲が限られています。

都心にある有名な個店のデリバリーをオーダーできるのは、よい場所に居住していることを暗示しています。したがって、都心にある有名店のデリバリー商品を投稿するだけで、SNS映えするのです。

しかし、デリバリーを行う名店はそれほど多くありません。毎日のようにSNS映えする商品を探してオーダーするのも大変なので、疲弊してきてしまうのです。

高級なテイクアウト

新型コロナウイルスが感染拡大してから、デリバリーだけではなく、テイクアウトを行う飲食店も増えました。むしろ手始めにデリバリーではなくテイクアウトに着手した飲食店がほとんどです。

基本的に飲食店営業許可を取得していれば、テイクアウトの商品を販売することは可能。加えて、配送システムも必要ないので、始めやすいことでしょう。

デリバリーで料理が丁寧に配送されるかどうかと、不安を覚える料理人も少なくありません。しかし、テイクアウトであれば客に手渡しできるので、乱雑に扱われる可能性も低くなるのです。

テイクアウトでは配送によるダメージがないので、よりレストランに近い本格的な味を提供できます。デリバリーであれば2000円前後が圧倒的なボリュームゾーンとなっていますが、テイクアウトであれば優に2万円を超える贅沢な商品も少なくありません。

それだけに、テイクアウトの商品は食味がよいだけではなく、見た目もSNS映えする傾向にあるのです。

また、購入者は飲食店に足を運んで料理を受け取ることになりますが、その際にオーナーやシェフ、スタッフと写真を撮影することもあります。その写真は有名店との親密さを示すことになるので、SNS映えすること間違いなしです。

テイクアウトの商品をSNSに投稿することは、商品それ自体の映えに加えて、飲食店との親密さも競うことになるので、より消耗しているといいます。

SNS映えに依存しないようにする

自粛生活が続く中でも、充実した食生活を送ることによって、心身を健康に保つことができれば、大変素晴らしいです。飲食店を助けるために、レシピや商品をSNSに投稿してPRしてあげたいという気持ちも、非常によく理解できます。

ただ、食体験の素晴らしさが、過度にSNS映えに依存してしまうのはよくありません。SNS疲れにつながり、健康が損なわれてしまっては、本末転倒になってしまうからです。

自粛中はストレスがかかるだけに、SNS映えに固執せず、自分なりのペースで食事に幸せを見出すことができればよいのではないかと考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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