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津波・洪水防災教育の新たな模索 シン・ういてまて 救命胴衣を活用した命の守り方

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
ハドルポジションの様子。洪水や津波で流された人がこの姿勢で救助を待つ(筆者撮影)

 津波・洪水を想定した新たな防災教育の模索が始まっています。その名はシン・ういてまて。津波や洪水に流されても救命胴衣を活用して自分の命を守り抜きます。小中学生向けのプログラムの策定が始まりました。

シン・ういてまて

 津波・洪水を想定した新たな防災教育の模索が始まっています。水が迫り、自宅の2階以上や屋根の上に逃げても逃げ切れない場合、最終手段として浮いて自分の命を守ります。

 この時、救命胴衣や緊急浮き具を活用した命を守る手段を水難学会では「シン・ういてまて」と呼び、令和4年度から全国の小中学校を中心に普及を開始すべく準備しています。

 カバー写真はシン・ういてまての実技の一つである、ハドルポジションです。体力の比較的ある子供が低学年の子供たちを囲み、手をつなぎながら輪を作って浮いています。このようにすることによって、呼吸を確保することができます。水の上に集まった人同士ではぐれることなく一か所にかたまることができますし、水面に波があってもハドルの中心に近い人にはその影響が軽減できます。上空からヘリコプターで容易に発見されるため、比較的早期に救助されるという利点もあります。

 救命胴衣を着装することによって、浮力が得られますので、様々な実技を水の上で実践することができます。小中学校においては、実技を工夫することによって児童・生徒が楽しく、かつ自分の命を自分で守り抜く実技を身に着けることができます。

実技の種類

 水難学会と北海道ウオーターセーフティー協会との合同指導会の様子を示します。実技の監修は田村祐司(東京海洋大学准教授でシーサバイバルなど海洋実習のスペシャリスト)、実技指導は安倍淳(東京海洋大学で海洋実習講師を務める)などが担当、北海道ウオーターセーフティー協会はすでにこのプログラムを現行のういてまて教室を通じて小中学校にて実践しています。以下に主な実技について説明します。

救命胴衣の着装

 手軽に着装できるのですが、図1のようにバックルを締めてからベルトを適切な長さに調整する必要があります。ここは訓練を受けた指導員が適切な装着法を指導しないといけません。救命胴衣が緩んでいると着装している本人が思わぬ怪我をしたり、身体がずり抜けて溺れたりする原因となります。

図1 救命胴衣のバックルを締めてベルトの長さを調整している様子(筆者撮影)
図1 救命胴衣のバックルを締めてベルトの長さを調整している様子(筆者撮影)

入水

 陸から背中をプールに向けて足からゆっくりと入ります。水底の深さを確認しつつ、救命胴衣の浮力を徐々に体感します。救命胴衣の浮力は強力ですから、入り方を間違えるとその浮力によって思わぬ怪我をします。

 慣れてきたら、足から飛び込みます。この時、着水と同時に救命胴衣がずり上がる危険があります。緩んだ救命胴衣が顎にぶつかって怪我をしないように図2のように自分の顎を保護しながら飛び込みます。対衝撃姿勢と言います。口を一方の手で覆い、他方の手で救命胴衣の肩口を掴んでいる様子がわかります。

図2 足から水に飛び込む様子(筆者撮影)
図2 足から水に飛び込む様子(筆者撮影)

背浮き

 救命胴衣を着装すると簡単に浮きことができます。ただ、むやみに身体を動かしたりすると安定せずバランスを失いかねません。そのため、「静かに浮く」ことを意識した背浮きの練習をします。

ハドルポジション

 背浮きが安定してできるようになったら、ハドルポジションを取ります。ポジションの取り方にはいろいろな種類があります。まるで水に浮いた花のようです。見た目から、この実技を「フラワー」と呼ぶことがあります。 

 図3はそのうちの一つの実技を示します。お互いの救命胴衣を手でつかみながら輪を作って浮いています。

図3 ハドルポジションの一例(筆者撮影)
図3 ハドルポジションの一例(筆者撮影)

這い上がり

 プールの水面にフロートを浮かべて、その上に這い上がる練習です。フロートの水面からの高さはおおよそ10 cmです。身のこなし方によって、這い上がれる人と這い上がれない人にわかれます。そのため、先に這い上がれた人は這い上がれない人の這い上がりを手伝います。

 手伝い方にも正しいやり方があります。這い上がれない人の腕をつかむとフロートが揺れた時に腕を痛めることがあります。そのため、図4のように救命胴衣をつかんで引き上げます。

図4 フロートへの這い上がりの様子(筆者撮影)
図4 フロートへの這い上がりの様子(筆者撮影)

どうのような予定で普及が進むか

 ここで示した実技は、実技そのものの安全確認がすでに終わった一部です。これまで20年以上におよび全国に普及してきた背浮きを中心とする実技「ういてまて」は、安全がしっかり確認された実技からなっています。シン・ういてまてについても同様に安全に教室が進められるように、小さい子供から大人までを対象に多角的に安全確認を行っています。

 水難学会では、本年度中に小中学校で行うことを想定した45分あるいは50分プログラムを策定します。それに続き指導員養成講習会を学会会員向けに急ぎ開催し、令和4年度から全国の数か所程度の学校からシン・ういてまて教室として試験的に実施します。

 また学校ばかりでなく、成人向けの防災教室でも順次実技ができるように準備をしていきます。

 このようにして、いつ来るかわからない津波や洪水などの大規模水災害に備え、自分で自分の命を守り抜くシン・ういてまてを社会に普及していきたいと考えています。

【参考】 命を守る緊急浮き具で緊急安全確保の具体的方法 動画付き

【参考】 2千円台ライフジャケット、購入してさっそく試しました

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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