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2千円台ライフジャケット、購入してさっそく試しました

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
2千円台ライフジャケット、浮くのか?(筆者撮影)

 大手通信販売サイトで入手できる2千円台ライフジャケット。いろいろな種類があります。水の中で浮くことができるのか気になりましたので、淡水のプールにて試してみました。細かいことを言い出すとキリがないのですが、とにかく浮けば使い道が広がります。

先に結果を見てみましょう

 大手通信販売サイトで3種類を購入して、さっそく試してみました。3種類とも十分な浮力を持っていたし、その浮力が安定して続きました。

 図1にその様子を示します。いずれのライフジャケットとも、肩が余裕で水面上に出ていました。そして、体の状態が水面に対してほぼ垂直になっていることがわかります。そのため、顔をまっすぐ前に向けることができます。一言で「水中にて腰掛けている」ような雰囲気でした。

 いずれも、しばらく浮いて試験していたのですが、ライフジャケットの浮力は安定して維持されていました。本体から細かな泡が出ている様子も見られませんでした。

図1 3種類のライフジャケットの浮力を淡水プールで試してみた(筆者撮影)
図1 3種類のライフジャケットの浮力を淡水プールで試してみた(筆者撮影)

 強い浮力を持つライフジャケットなら、股下ベルトを使わなければなりません。図1の左と中のライフジャケットには股下ベルトが2本ついていて、それを股に通しバックルでしっかりと固着することで、ライフジャケットがずり上がることを避けることができました。右のライフジャケットには股下ベルトがついていませんでしたが、胴体の部分で胴回りの紐をバックルで締めることでライフジャケットが浮力でずり上がることを避ける構造になっていました。

ライフジャケットの使用目的のおさらい

 ライフジャケットの本来の目的は、「万が一の落水事故時に浮いて呼吸を確保する」ことです。

 例えば、乗船していて突然船から海に投げ出されたとかの船舶事故の非常時に、救助されるために一回使用することを想定して作られています。その一回で、確実に呼吸が確保できないといけないので、船舶用法定備品としてのライフジャケットであれば、細かな検定に合格していないといけません。

 釣りをしている時に岩場から海に落ちたとか、明確なレジャー用途のライフジャケットであれば、自主基準対象品としての要件を満たしているというマークがつけられている製品があります。これらも万が一の落水事故時に利用することを想定しています。

 最近、レジャーにて、ライフジャケットを着用しながら水に入って遊ぶ、常時使用の例も見受けられるようになりました。少し気をつけなければならないのは、多くのライフジャケットでは複数回繰り返して使うことを想定していないことです。多くのジャケットの中には、フォームといって泡をたくさん含んだスポンジ状の樹脂が入っています。これは時間がたつにつれて、水濡れ・乾燥を繰り返すとか、直射日光を浴びるとか、そういった影響でヒビが入っていきます。泡の中の空気が抜ければ、当然浮力は弱くなっていきます。すぐに危ないということではありませんが、やはりライフジャケットは万が一の落水事故に対応する製品です。

2千円台ライフジャケットの活躍の場

 洪水や津波の際に、いわゆる緊急浮き具より、断然使えます。緊急浮き具とは、洪水や津波で自宅などの2階以上に垂直避難せざるを得なくなった時、リュックサックに衣類やタオルなどを詰め込み、2階でも浸水が始まった時に最終手段として浮いて呼吸を確保するための浮き具です。本来はリュックサックですから、目的外使用といえばその通りです。あくまでも緊急的な最終手段ですから、この方法が洪水や津波災害から確実に命を守るかというと、必ずしも確実ではありません。

 次の参考情報は洪水の危険が高まっているさなかに出されています。とにかく身の回りのものでなんとかしたいというご要望に添えるだろうということでお知らせした情報です。

【参考】命を守る緊急浮き具 万が一の浸水に備えたイメージトレーニングを

 もちろん2千円台でも一生に一回使うかどうかわからないものにお金をかけるのはどうかと思います。洪水や津波の災害が迫っているなら、早く高台に避難するのがベストです。ただ、現実にはそれがなかなかできないので逃げ遅れる人がいます。逃げ遅れた場合に、安くても洪水や津波から身を守ることができるのであれば、リュックサックの緊急浮き具よりは、2千円台ライフジャケットに活躍の場があると言えるでしょう。

2千円台ライフジャケットに改良の余地が

 浮力としては十分な性能をもつ2千円台ライフジャケットですが、浮力となる樹脂フォームの配置が改良されるともっと良しです。

 今の配置だと、垂直姿勢で安定するのですが、洪水や津波の中での流れや波の中では、体がうつ伏せになることがあります。自力で元の垂直姿勢に戻るのは、慣れていないと大変です。そこでメーカーや商社に提案です。うつ伏せになった時には自動的に仰向けに戻るように、樹脂フォームの入れ方を胸側に厚めに、背中側に薄めに改良されるとなお良しです。

さいごに

 記事を公開していつも気になるのが、リュックサックを使った緊急浮き具の記事の時には多くの反響があり、読者の皆様の関心が高いことがうかがえ、一方で「ライフジャケットで洪水から命を守ろう」という記事だとあまり反響がないことです。

 この夏から、洪水や津波から命を守るためのライフジャケット着用推進の研究が水難学会で開始されました。これから研究成果を逐次お伝えするために、記事を公開していきます。皆様の興味を少しでも引くことができましたら幸いです。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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