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平和国家のお題目を唱えているだけでは駄目

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(192)

極月某日

「軍事では日本は守れない。といって平和国家をお題目のように唱えていては駄目である」。これが瀬戸内寂聴さんが生前の野坂昭如さんから受け取った手紙の最後の文章だという。瀬戸内さんはそれを「野坂さんの遺言」として弔辞の中で紹介した。

軍事で日本を守る事ができないのは確かである。明治以来の「富国強兵」は日清・日露・第一次大戦で勝利をもたらすが、その勝利は日本を第二次大戦での壊滅的な敗戦に向かわせる。身の丈を知らない軍事信仰が日本民族を破滅の淵に追いやった。

日清戦争の勝利で日本は清国から国家予算の4倍以上の賠償金と台湾などの領土を得た。それが日本をさらなる「強兵」に向かわせ軍事予算を膨張させる。それまで国家予算の3割弱であった軍事費は日清戦争を契機に7割に膨らみ、日露戦争では8割を超えるが、しかしロシアからは賠償金を獲ることが出来なかった。それどころかロシアの報復を恐れて日本は更なる軍拡に向かうしかなく、米国からも仮想敵と看做されるようになる。

人類史上初めての世界大戦で日本は連合国側に付き、その勝利で世界の大国の仲間入りを果たすが、片山杜秀著『未完のファシズム』(新潮社)によれば、この戦争を検証した日本の陸軍は総力戦の勝敗が鉄の生産量によって決まる事を知った。

つまり日本が総力戦に勝つ見込みはどう考えてもない。日本は大国となる事をやめて中流国として生きるか、背伸びをして大国になるかの選択を迫られた。国際連盟の常任理事国として五大国の一つとなった日本は後者を選び、陸軍内部には二つの考えが生まれた。

奇襲戦法を使って緒戦を制し直ちに講和に持ち込む戦術を考える一派は「皇道派」となり、天皇に絶対的忠誠を誓う精神主義強化を目指す。一方で戦争の前に国力を強化しようと考える一派は「統制派」となり、満州国を建設して日本の重化学工業化を進めようとした。しかし背伸びは背伸びである。日本は身の丈を見ずに戦争をして敗北する。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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