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今年も死刑執行なし…なぜ?来年どうなる #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

昨年に続き、今年も死刑の執行がありませんでした。土日祝日と12月29日から1月3日までは執行できない決まりなので、次は月曜の来年1月6日以降になります。すでに2年半近くも執行がなく、ネット上では「死刑が確定している以上、執行するのが法治国家としての筋だ」という意見が示される一方で、「再審無罪の可能性を考慮し、慎重に行うべきだ」といった声も上がっています。問題の背景を含め、理解の参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「静岡県一家4人殺害事件で確定死刑囚だった袴田巌さん(88)の再審無罪や、元法相の失言が影響したとみられる」
出典:共同通信 2024/12/27(金)

「死刑執行は、死刑囚への再審無罪判決が4事件続いた直後の1989年11月を最後に約3年4カ月にわたって『中断』した」
出典:毎日新聞 2024/12/27(金)

「死刑制度の見直し論が再燃」「法務省の有識者協議会も(中略)再審請求中の死刑執行停止を含めた再審制度の議論を始めた」
出典:時事ドットコム 2024/11/25(月)

「死刑執行は年末年始を除いて平日に行われる。確定死刑囚たちは平日の朝、執行の恐怖におびえながら起床する」
出典:PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) 2021/12/19(日)

エキスパートの補足・見解

刑事訴訟法は死刑の確定から6カ月以内に法務大臣が執行を命じなければならないと規定しています。しかし、再審請求や恩赦出願などが行われて手続が終了するまでの期間は算入されない決まりなので、これらを繰り返すと、判決確定後、なかなか6カ月にみたないことになります。

そうでなくてもこのルールは守られておらず、死刑確定から執行までの平均期間は8年程度に上っています。裁判で問題となったこともありますが、裁判所は法務大臣の職務上の義務ではあるものの、この規定に反したからといって違法とはならず、法的拘束力もないと判断しました。執行すれば取り返しがつかず、慎重を期す必要があることから、政府も同様の立場です。

2年半近くにわたる死刑執行ゼロは袴田事件に対する再審無罪などが影響しているとみられますが、過去にも死刑囚への再審無罪が4件続いたあと、約3年4カ月にわたって執行がありませんでした。

袴田事件では47年7カ月の拘束に対して2億円超の刑事補償が見込まれていますが、弁護団はさらに国賠訴訟の提起も視野に入れています。その影響を踏まえると、来年も当面は死刑の執行に対する慎重な姿勢が続くのではないかと思われます。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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