米主要局CNN看板アナのクリス・クオモ セクハラ問題の兄の援護でクビに
米CNNの著名キャスター、クリス・クオモ氏(51)が同局を解雇されたと、CNNやワシントンポスト紙など主要メディアが報じた。
クリス氏は、前ニューヨーク州知事で数々のセクハラ疑惑により今年8月に知事職を辞任したアンドリュー・クオモ氏の実の弟にあたる。アンドリュー氏がセクハラ問題の渦中にある中、クリス氏は自分の立場をわきまえずに兄の肩を持ち、かなり近しい「側近」の1人として擁護してきたことが問題視されてきた。
同州司法長官により先月29日、クリス氏がセクハラ問題に関与した新たな証拠となるテキストやメールの内容が明かされた。そしてクリス氏の行為は公正であるはずのジャーナリズムの規範に反するものとして、CNNは翌30日、同氏の番組出演を無期限停止としていた。さらに4日、同氏の関与がCNNの擁護できる基準をはるかに超えているとの判断から、同社代表のジェフ・ザッカー氏がクリス氏の解雇を決断した。
アンドリュー氏とクリス氏の兄弟愛は以前から有名だった。
クリス氏は昨年、ニューヨークで新型コロナウイルスが感染拡大した際に陽性判定を受け、自宅隔離をしながら療養していた。その際も、当時コロナ対策において英雄扱いされていたアンドリュー氏の定例記者会見にリモートで出演するなどしていた。
その後、アンドリュー氏のセクハラ疑惑が浮上し知事職の辞任騒動となった際も、クリス氏は自身の番組「クオモ・プライム・タイム(Cuomo Prime Time)」で、「兄に対して意見を伝えはしたがアドバイスをしたことはない」とセクハラ騒動への関与を否定していた。また、兄の辞任が決まってからも、視聴者に対して「この状況は私が想像できたものとは違う」と語り、番組放送は引き続き行われてきた。
CNNの看板アンカー(司会者、キャスター)として、クリス氏のその地位は不動のものだったはずだ。彼はCNBCやABCなどでキャリアを築いた後、2013年よりCNNでのキャリアをスタート。当初は朝の情報番組を担当していたが、3年前より自分の名を冠した「クオモ・プライム・タイム」に抜擢され、頭角を現してきた。この番組は、他局との競争が激しいゴールデンタイムの中でも最高視聴率を記録するなど、ジャーナリズムをリードする大変な人気番組だ。CNNの今回の解雇は断腸の思いで行われたことだろう。
解雇を受け、クリス氏はツイッターで「これは自分が思い描いたCNNの辞め方ではないが、私がこれまで兄をなぜ、そしてどのように擁護してきたかについては皆さんにすでに報告した通りです。残念ではあるが、競争の激しいゴールデンタイムでトップ番組になった『クオモ・プライム・タイム』の制作チームは、自分にとってこの上ない誇りであり、恩に着る思いだ。非常に大切な仕事をしてきた特別な仲間と離れることは寂しい」と発表し、未練のようなものを匂わせた。
これに続き6日には、ラジオ番組シリウスXMの降板も発表した。「今後に備えるため退くことを決めた」とし、苦しい思いを露呈させながらもこれまで受けてきた支援とリスナーへの感謝を表明し、「またいつか皆さまにお目にかかれる日を楽しみにしている」とある。
クリス氏の番組のスタッフはそのまま残り、以前放送されていた「CNNトゥナイト」に名前が変わる。番組の新たなアンカーとして、代理としてこれまでも担当してきたマイケル・スマーコニッシュ氏が引き継ぐ。
クリス氏は複数の弁護士をすでに雇っており、法廷へと持ち込むことも示唆している。どうやらCNNとは昨年、4年に及ぶ雇用契約を更新したばかりだったが、今回の解雇が契約をめぐって法律に抵触する恐れがあるということのようだ。これを受け6日、CNNはクリス氏との法廷闘争にも備えていることが情報筋によって伝えられた。円満に退くのかと思いきや、今後も一波乱ありそうだ。
(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止