『花火師』って「花火を作る人」? それとも「打ち上げる人」? 花火屋さんに聞いた“業界言葉のお話”
夏といえば花火! 各地の花火大会に行かれる方も多いのでは? 花火大会では『花火師』たちが豪快に花火を打ち上げる様子がテレビなどで放送されることもあります。しかし“花火業界”では、『花火師』という言葉に明確な定義はないようです。
今回は『花火師』という言葉の呼び方の“裏話”をご紹介。元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、東京・台東区にある花火屋・株式会社若松屋の広報・竹内直紀さんにお話を伺いました。(構成・文=コティマム)
花火業界の中でも幅広い意味で使われる『花火師』という呼び方
若松屋さんは、愛知県岡崎市若松町で昭和12年に創業した老舗花火会社です。現在は本社を同県西尾市に、東京支社を浅草橋に構えています。家庭で遊ぶおもちゃ花火(手持ち花火)や花火大会で使用する尺玉の他、飴玉や玩具お菓子など多種多様な商材を製造・販売しています。
前回、東京支社の竹内さんに“花火の種類と名前”について伺った際(詳しくはこちらの記事「打ち上げ花火に名前があるって知ってた? 花火屋さんに聞いた“フィナーレ豪華花火”の意外な名前とは?」を参照)、興味深いことをお聞きしました。それは『花火師』という言葉の持つ意味の幅広さです。
竹内さん(以下、竹内):花火を見ている方や、取材などを依頼されるメディアの方から、「花火を打ち上げる人」のことを『花火師さん』と言われるのですが、若松屋では打ち上げる人のことを『花火師』と呼ぶことはほぼありません。どちらかというと、「花火を作っている人」のことを『花火師』と呼びます。
――そうなのですね! 私も「打ち上げる人」のことを『花火師さん』と呼んでいました。何か呼び方について定義があるのでしょうか。
竹内:花火業界の中で何か決まった定義があるわけではありません。「花火を作っている人」のことを『花火師』と呼ぶ会社もあれば、「花火を打ち上げる人」のことを『花火師』と呼んでいるところもあります。また、「花火を作って、打ち上げまでやる人」もいるので、その両方ができる人を『花火師』と呼ぶところもあり、言葉を使う人によって指すものが違うことが多いです。実は『花火師』という言葉は幅が広すぎるんです(笑)
――業界の中でも使い方が違うのですね。
作る人も打ち上げる人もすべて正解 定義がない『花火師』という言葉
竹内;例えば、A社とB社で打合せをしていて、『花火師』という言葉が会話の中に出た際に、A社は「花火を作っている人」のことを指していて、B社は「花火を打ち上げる人」のことを指している、ということもたまにあります。花火屋の人数がそもそもそんなに多くないので、自社の人間だけでなく他のところからお手伝いしてもらうこともあり、お互いの『花火師』の指す意味が違った時は、前後の文脈などから判断します。
――そういった認識違いもあるのですね。
竹内:僕も花火大会の現場にお手伝いで入ることがありますが、例えば「コール&レスポンス」といって、お客さんがライトを振って、花火を打ち上げるメンバーが火を振って応えるような演出をする会場も増えています。そういう時に、僕も含めて現場で準備をしている人も一緒に火を振って応えますが、テレビでは「花火師のみなさんが火を振ってくれています」というような紹介の仕方をします。「花火会場の現場にいる人たち」のことを『花火師』と呼ぶ方たちもいますね。
広報活動をしている時も、よく「花火師の取材がしたい」と依頼されますが、僕は「『花火の作り手』を取材するために工場現場の撮影をする」という認識で、でもメディア側は「打ち上げ花火の会場で『打ち上げる人』を撮影したい」という意味だったということもあり、『花火師』という言葉の認識が違うんだなと感じることがあります。
――現場ではそんな“言葉の裏話”があるのですね!
竹内:そうですね。でも「これが花火師です」という定義があるわけではないので、どれも間違いではないんです。もしかしたら『花火職人』や『花火師』などの言葉で使い分けた方が分かりやすいかもしれませんね(笑)
何気なく使っている言葉でも、使う人によってその言葉が持つイメージが違うことがあります。『花火師』という言葉は、一般人が普段から使う言葉ではありませんが、花火業界の中でもイメージが違うというのは、意外でした。もしニュースなどで『花火師』が紹介されていた時は、「花火を作る人」「花火を打ち上げる人」「その両方の人」、どの意味で使われているのか、チェックしてみてくださいね。
言葉に関する記事については「『関わらず』って書いていませんか? 実は、間違いです!【記者的言葉解説】」もご覧ください。※スマホからご覧の方は、プロフィールからフォローしていただくと最新記事の見逃しがなくおすすめです。リアクションボタンもプッシュしていただけると、励みになります!今後も記者目線で、「ちょ~っとだけタメになる(?)」言葉解説をつづっていきます。
※今回の記事は、若松屋さまに掲載の許可をいただいた上で公開しています。