なぜ入社3ヵ月で辞めた社員は100%自己責任なのか?
■なぜ入社3ヵ月で辞めた社員は100%自己責任なのか?
入社して3ヵ月ぐらいで辞めた新入社員に、何人か会ったことがある。4月に入社して、夏には離職してしまった若者たちだ。
それぞれ言い分はあるだろう。だが、基本的にはこういう若者たちに対し、私は強く反省を促したいと思っている。そうでなければ、転職先でもきっとうまくいかないだろうから。
今回は、その3つの理由を書きながら、辞めなくて済むためにはどうすべきだったか。「理解レベルの4段階」という切り口を使いながら解説する。
まず最初に、なぜ100%自己責任だと思うのか。その理由は、次の3つが考えられる。
(1)責任感が足りない
(2)情報感度が足りない
(3)仮説力が足りない
まず「(1)責任感が足りない」について解説したい。入社3ヵ月程度で辞めてしまった新人に対し、
「なぜ、もっと辛抱しなかったのか?」
と言うつもりはない。
「やりたいことをさせてもらえなかった」
「この会社で成長できる実感が湧かなかった」
どんな理由であれ、入社した会社がイメージ通りでなかったのなら、さっさと辞めてしまえばいい。早ければ早いほどお互いの傷は浅くて済む。
だが、その会社を選んだのは自分だ。たとえ誰かに強く薦められたからといって、最終決断をしたのは自分なのから、それなりの責任を感じてほしい。
自分の判断でスマホを買って、期待外れだったからといって
「このスマホのせいだ」
と言う人はいない。ちゃんと調べなかった自分の責任だ。だからこそ、入社してすぐ辞めたのなら、会社の責任にしてはならない。100%自己責任である。
もし「自分の責任だ」と感じているのなら、なぜもっと情報収集しなかったのか。少し考えればわかるだろう。
学生と社会人だったら、どちらのほうが時間があるか。よほど特殊な事情がない限り、学生のほうが自由な時間は多いに決まっている。
それに昔と違って、今ではネットに膨大な企業情報がある。転職に役立つノウハウ、サイト、アプリ、相談窓口等、探したらいくらでもある。ITリテラシーの低いベテラン社員ならともかく、デジタルネイティブと呼ばれるZ世代の人たちが、
「自分にはどんな仕事が合っているのか?」
と仮説を立たうえで知識習得、情報収集に励むことは存分にできたはずだ。
大学生活を送っていくうちに「(2)情報感度」が低くなって、
「そんなに努力しなくても、自分に合った会社ぐらい見つけられる」
と勘違いしたのだろうか。
もしも感度を高くして、在学中に情報収集をしっかりやった、というのなら「(3)仮説力が足りない」のだ。以前、
「超難関大学卒の新入社員が、入社3ヵ月で会社を見切る!」
といった記事を読んだ。超難関大学に受かるような若者なら、地頭力がかなり高いはずだ。
そんな頭のいい若者が、なぜすぐ辞めるような会社を選んだのか。そんなに仮説力が低いのか。
■若者たちの「理解不足」がすべての原因か?
最近、変化のできないベテラン社員への失望が、特にZ世代の若者から強まっている。このトピックは報道でも頻繁に取り上げられている。
若者が早期に離職したり、仕事への意欲をダウンさせる要因になっている――という論調も多い。
ただ本当にそうなのだろうか。それは誰の責任なのだろうか?
事業を成長させることは会社の責任だし、組織の生産性をアップするのはマネジャーの仕事だ。
しかし、若者の早期離職や意欲減退まで背負わされるのは、どうなのだろう。
私は若者たちの「理解不足」も大きな要因の一つ、だと考えている。
会社に就職するということはどういうことか。自分が期待する職場とはどんなところなのか。就職活動をする際に、正しく理解していたのだろうか。
主体的でない、意欲的でないだけで、どれだけ組織に迷惑をかけるのか理解できているだろうか。
「わかっている」
と思っている人は、調べないし、学ぼうとしない。
特に、最近はタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する若者が増えている。映画や音楽鑑賞ならともかく、仕事に関しては要注意である。
理解不足(わかっていない)の状態でタイパを意識すると、損をすることのほうが多い。
では、「理解」するというのは、どういうことなのか。次に「理解」には4つのレベルがあることについて解説していきたい。
■「理解」には4つの段階がある
「わかってます」
と若い部下が言う。しかし、どう考えてもわかっていない。
もちろん理解ゼロとは思っていない。だが、まだまだ明らかに理解不足なのである。どうしたら、キチンと部下は正しく自己認識してくれるのだろうか?
そんなときは「理解レベルの4段階」を使って頭を整理すればいい。まずは、理解には4つのレベルがあり、一足飛びに理解が進むことはない、と捉えよう。
それぞれの理解レベルは次の「4段階」がある。
・理解レベル(1) → 「○」か「×」など印象でしか理解できていない
・理解レベル(2) → 多様なインプットを通じて要点を整理できている
・理解レベル(3) → 知識と経験とが点と点で繋がり、腹に落ちている
・理解レベル(4) → 自分の言葉で人に教えられる
■動画やネット記事だけだと理解不足は解消されない
まず理解レベル(1)について解説しよう。
学ぶ意識が低かったり、ネット記事やブログ、動画といった断片的な情報のみに触れているだけだと、表面的な知識しか手に入らない。理解どころか正しい知識習得もできないだろう。
多角的な視点が手に入らないので、「参考になった/参考にならなかった」程度の印象しか残らない。これがレベル(1)である。
「この本を読んでどうだった?」
と質問されて、
「まあ、参考になりましたね。よかったです」
この程度の答えしかできないのなら、ほぼ理解していないと捉えたらいい。
就職活動するときも、その会社を「印象」で捉えていないか。業界のこと、扱っている商品のこと、職場の雰囲気なども「印象」で受け止めている限り、
「わかった」
ということにはならない。入社したあとのこともそうだ。
「この会社では成長できない」
と言う人がいるが、本当にそう理解できたのか。印象で語っていないか、自問自答してみよう。
次に理解レベル(2)だ。
多様なインプットを通じて、多角的な視点で物事を見られるようになっている状態だ。
全体像を理解したうえで、何が論点で、何がトピックで、何が具体的なコツかも整理できる。
そのためには、体系的に書かれた複数の書籍や研修からのインプットが必要。ネット記事やブログ、動画といった断片的な知識習得だけで、このレベルに達することはない。
「上司が言っていることが、よくわからない」
と言う若者がいるが、私はそういう人に問いたい。
「あなたは、わかろうとしたか?」
と。上司は学校の先生ではない。部下育成の専門家でもない。だから一般的に「教える技術」は高くないという事情も加味したか。
「そんなこと知るか」
「上司なら、部下をキチンと育てろ」
と言うのなら、大人げないとしか言いようがない。日本企業の歴史、文化、メンバーシップ型雇用の特徴など、多角的な視点で捉えれば、
「なかなかそういうわけには、いかないか」
と理解できるはずだ。体系的に理解する、というのはそういうことだ。経験ゼロでも、ちゃんと本を読んだり、専門家から知識を吸収すればわかるはずなのだ。
■「腑に落ちる」状態が理解レベル3
次が理解レベル3だ。
体系的に知識を身につけても、理解は進まない。実際に経験し、安定して成果を出さないと腹に落ちることがないからだ。
「理解=言葉×体験」である。
知識に基づいた実践を繰り返す。知識と経験をドンドンと資産化していく。そうすることで、いずれ点と点が繋がってくる。
まさに、スタンフォード大学の卒業式でスティーブ・ジョブズが使ったこの言葉、
「コネクティング・ザ・ドッツ(Connecting the dots)」
を体現することになるのだ。「コネクティング・ザ・ドッツ」とは、過去の経験が、当時は思いもよらなかったことで繋がり、新たな発見や気付きがあることを指す。
「あのとき部長から学んだことが、まさかここで活かされるとは思わなかった」
「最初の部署で厳しく教えられたからこそ、今の仕事に役立つんだ。ようやくわかった」
いわゆる、
「そういうことか!」
「やっと繋がった」
という体験だ。
しかし、点と点が繋がるのは偶然だ。計画してできることではない。それに数日間、数週間では難しい。数カ月、数年経ってはじめて味わうことも多い。
この点と点が繋がり、一本の線になる体験。その線が折り重なって面となって理解できるようになると、べき乗に理解レベルが上がっていく。
まさに「腑に落ちる」というのが、この状態だ。こうなって初めて理解レベル3なのである。
大事なことは、知識に基づいた経験が増えることだ。自分なりのやり方で経験を積んでも、点と点が繋がることはない。
腹に落ちるだけでなく、膨大な知識資産、経験資産によって、借り物の言葉ではなく、自分の言葉で人に教えられる状態が、(4)理解レベル4の状態だ。
大量の試行錯誤を重ねているため、センスが磨かれている。何がいいか、悪いかを一瞬で見抜くことができる。知識や知恵のみならず知性も身につけられている。
自分にはどんな職場が合っているのか。どんな仕事だと意欲的になり、職場に貢献できるのか。理解できるようになるには「理解レベル3」ぐらいまでには達していたい。
そう考えると、会社を選ぶときは「理解レベル2」。転職するときは「理解レベル3」ぐらいになっているべきであろう。
そうでないと、また同じ過ちを繰り返す。
若い部下を持つマネジャーは、ぜひ「理解レベルの4段階」を活用してほしい。この切り口で整理すれば、部下が何をどこまで理解できるようになっているか「モノサシ」を持つことができる。
本人の頭を整理させるのにも、とても役立つ「モノサシ」である。
<参考記事>