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部活の地域移行は進むのか? 実現するために必要なこと

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 先日、文部科学省は、休日の部活動を従来の学校主体から地域主体にしていくことを柱とした、部活動改革案を示しました(9月1日)。地域主体というのは、スポーツ団体や文化団体、あるいは保護者会、民間企業等が休日の部活動指導を担うことを指します。文科省のプランとしては、2023年から全国で段階的に地域移行したい構えです。

 文科省の資料には、「部活動は必ずしも教師が担う必要のない業務であることを踏まえ、部活動改革の第一歩として、(中略)休日に教師が部活動の指導に携わる必要がない環境を構築」、「部活動の指導を希望する教師は、引き続き休日に指導を行うことができる仕組みを構築」とあります。地方大会などの精選も働きかけていく方針のようです。

 果たしてこの動き、うまく進むでしょうか。「絵に描いた餅」にならないのでしょうか。前回の記事では、地域移行の効果や課題について紹介しましたが、今回の記事では、実現可能性と方策について解説したいと思います。

前回の記事:部活動の地域移行、民間委託の是非 ― 魅力・よさも課題も山積み

(写真素材:photo AC)
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■影響が大きい、国会の決議

 今回の文科省の改革案(「改革」と呼ぶにふさわしいものかどうかという議論はいったん置いておきます)。急に浮上したかのように見えたかもしれませんが、そうではありません。2019年1月には中央教育審議会(中教審)という文科省の審議会で、将来的な地域移行を進めるという提案は出ていましたし、昨年12月の臨時国会での附帯決議(給特法の改正に伴うもの)では、「政府は、教育職員の負担軽減を実現する観点から、部活動を学校単位から地域単位の取組とし、学校以外の主体が担うことについて検討を行い、早期に実現すること」とされていました(衆参両議院とも。強調は引用者)。

 附帯決議というのは、法的拘束力はありませんが、国会からの政府に向けた意見ですので、重たいわけです。しかも、「早期に」と書かれています。文科省の動きも、これを受けて加速したという部分は大きいだろうと思います。なお、今回は休日の部活動に焦点が当たっていますが、ゆくゆくは平日もということだろうと推測します。

 ですが、地域移行を「早期に実現すること」と言われはしても、できるものなのでしょうか?

(写真素材:photo AC)
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■地域移行のハードルはとても高い

 一番の問題は、担い手、受け皿はあるのか、という問題です。

 文科省の案にも担い手としていつも筆頭に出てくるのは、総合型地域スポーツクラブと呼ばれる、地域住民により運営されているスポーツ団体です。

 総合型地域スポーツクラブは、全国に3,461できています(令和元年調査時点)。たとえば、わたしの住む逗子市にもあって、フィットネス、テニス、ヨット、バドミントン、アーチェリー、和太鼓など、多彩な活動を、大人向けあるいは、子ども(親子)向けに行っています(今年は新型コロナウイルスの影響で一部は中止)。

 スポーツ庁の調査によると、アンケートに答えた1,611クラブのうち、「学校で運動部活動を実施できない種目をクラブが運動部活動の代替として実施」しているのは13.3%です(「令和元年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」)。

 仮にこの割合が全団体に言えると仮定すると、全国におよそ460クラブが運動部活動の一部を担っていることになります。おそらくアンケートに回答していない団体は、やや消極的である可能性もあるので、多めに見積もってこの数字です。ただし、このほか、部活動指導員や外部指導者の派遣などの取り組みもあります。

 総合型スポーツクラブが部活動の一部を担っている例としては、愛知県半田市などが有名です。総合型地域スポーツクラブは、生徒や地域の方たちの多様なニーズに応える優れた取り組みも多いようですし、広がってほしいと思いますが、上記の数だけを見れば、部活動の受け皿としてはまったく十分とは言えません。全国で中学校だけで約1万校もあるのですから(高校も合わせると、約1万5千校です)。

 かれこれ20年以上国、自治体が振興している総合型地域スポーツクラブでもこうした状況であることに鑑みれば、部活動の地域移行は、言うほどまったく簡単なことではないことが容易に想像できるかと思います。

(写真素材:photo AC)
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■欲張らない

 もっとも、「鶏が先か、卵が先か」という部分もあるかもしれません。これまでほぼ学校丸抱えだった部活動が地域に開いていくことが強力に押し出され、支援策も充実してくれば、総合型スポーツクラブや他の担い手も増えていく可能性はあるでしょう。現に、小学生の学校外でのスポーツや文化活動では、地域の団体や習い事などが支えています。

 とはいえ、あまりにも、中高の部活動は、活動量(時間の比重)としても、生徒や保護者の期待(学校生活での重要度)としても、大きなものになっています。簡単に小学校のようにいくとは、楽観視できません。今後に向けて、試案ですが、2点提案したいと思います。

 第一に、いまの部活動をほぼそのまま、地域移行する発想では、うまくいかないと思います。各中学校、高校にたくさんの種類の部活動を抱えたままで、かつ、活動日も週5日など多いままで、地域に担い手を探す、育成すると言っても、ほとんどの地域では、やはり無理が生じるでしょう。

 必要なのは、各学校の部活動の種類・数を精選していくこと、また活動日も国のガイドラインなど以上にもっと休養日を増やす部活動を増やすことが必要ではないでしょうか。つまり、肥大化した部活動をダイエット、あるいはシェイプアップしていくことが先決です。

 たとえば、複数の運動部を統合して、エクササイズ部(あるいは軽運動部)をつくる。大会等を目指さず、運動不足を解消するためにシーズンに応じた種目やトレーニングを週3日程度行う。技術的なアドバイスができる指導者がいることにこしたことはないが、必須ではなく、大人の役割は安全管理など見守りを中心にする。あるいは、大人も一緒に活動してもいい。これなら、担ってくれる地域団体等も出やすいのではないでしょうか。

 また、いまはよほど少子化している学校を除き、多くの中学校、高校等では、ひととおりの部活動の種類をそろえているところが多いと思います。これを近隣の複数校で分担することで、各校の部活動数を減らすことはできないでしょうか?たとえば、A中、B中、C中がおのおのサッカー部、野球部、テニス部をもつのではなく、A中はサッカー、B中は野球、C中はテニスというふうにです。拠点校方式ないし、合同部活動にしていく発想です。

 こうした案にも当然、功罪があります。部活動をめぐって人気の中学校とそうではない中学校の差が大きくなったり、近隣校と合同でやると言っても、移動手段がない地域では、保護者の送り迎えなどがないと難しいといった問題も生じます。

 地域差もあることなので、一概にこうしたらいいという正解はないと思いますが、上記のような選択肢を含めて、各地域、学校でよりつっこんだ対話と議論をしていかないといけない、と思います。

 地域においては人口減少、中学校、高校では少子化しているのですから、これまで通りを維持したい、というのは、やや欲張りな発想であり、限界があります

 よく聞く反論は、「部活の統廃合で、サッカー部がなくなりそうだ。うちの子はとても楽しみにしていたのに。学校は、子どもの夢、希望をないがしろにするのか」といった意見です(当の先生たちからも似た反論を聞きます)。わたしも保護者ですから、こう言いたくなる気持ちも分からないでもないのですが、こういう方には、こう申し上げています。

 「たとえば、羽生結弦くんに憧れて、フィギュアスケーターになりたいという子は全国にたくさんいると思います。ですが、じゃあ、中学校でフィギュアスケート部をつくろう、ということには普通なりませんよね。だって、場所もないし、指導者もいないし。将来の夢はプロのオーケストラに入りたいという子の場合なども同じです。つまり、いまでも学校で担える部活動というのは、限界があって、一部の生徒には我慢してもらっているわけです。部活動は、学校や地域の状況、それから生徒の希望などを勘案しつつ、できる範囲でしか、できないものです。」

(写真素材:photo AC)
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■担い手への処遇と、困窮世帯への支援

 第二に、指導者等への十分な処遇と、経済的に困窮する家庭等への支援です。

 いまの部活動は、教員の実質ほぼ無償労働で支えられています(休日は多少の手当は出ますが)。習い事ならかかる月謝なども、かかりません。地域移行すると、保護者負担を大幅に増やすわけにはいかないといって、薄謝や無償ボランティア依存では、指導者や運営団体が持続的に活動できなくなります。

 休日でも平日でも、子どもたちの活動を支えてくださる方には然るべき処遇を保障するべきで、利用者負担、受益者負担として、家庭負担が増すのは、やむを得ないと思います。そうしないと、担い手も増えていきません。ただし、困窮世帯等には別途支援が必要です。

 松岡亮二先生の『教育格差』(ちくま新書)がベストセラーになっていますが、家庭の経済状況や親の学歴が子どもの学力等にも影響することは広く知られるようになってきました。スポーツや文化の課外活動でも、家庭による格差を拡大していいものか、という点はよくよく考えねばならないと思います。

 いまの部活動の体制でも、ユニフォームや靴に、あるいは楽器代、遠征費などで、保護者負担は相当重いものがあります。競技等にもよりますが、一部の家庭の子を排除している側面はないわけではありません。部活動を地域移行することで、この傾向がより強くなるようでは、望ましいとは言えないと思います。

 では、どうするか。ひとつは、先ほどの1点目とも重なりますが、大会等を目指さない部活動を増やすことで、時間の負担だけでなく、経済的な負担も軽くすることはもっと考えるべきだと思います。もうひとつは、文科省の改革案にも言及されていますが、国・自治体による経済的な支援策を講じることが必要だと思います。あるいは企業等からの協賛金を募るなど、社会への働きかけも必要かもしれません。

 以上2点提案しました。いずれにしても、いまの部活動をほぼそっくりそのまま、地域にスライドさせようという発想では、おそらくほとんどの地域で頓挫するであろうことは目に見えています。結局、受け皿ができないし、「生徒のため」ならばと、顧問を希望しない教員であっても引き続きやらざるを得ない、という事態になることは予想できます。

 文科省の改革案にはこういう強い表現もあります。「部活動は生徒にとって教育的意義の高い活動である一方で、教師の献身的な勤務に支えられており、もはや持続可能な状態にあるとは言えない。」

 一部、痛み、あるいは我慢することも伴いますが、部活動をどうしていくか、目的を常に確認しながら、大きな戦略と細かなステップを刻むことが必要であると思います。

★本稿の作成にあたっては、先日9月5日に学習院大学・長沼豊先生の研究室で開催された公開研究会での議論を参考にしました。長沼先生をはじめ、関係者のみなさまにお礼申し上げます。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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