国の部活動ガイドライン、練習規制はスポ根への挑戦状 ~関係者が今から準備するべきこと~
■部活動のやり過ぎを抑制する、ガイドライン案
スポーツ庁の有識者会議で検討している、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」の案が2月23日に出た。3月中には確定となる予定だ。
筆者もこの会議に関わり、毎回意見を申し上げ、時には提案資料を提出するなど、深く関わってきた。今日は、ガイドライン案のポイントや背景を解説するとともに、校長や顧問、さらには保護者等はどういう準備がこれから必要となるのか、提案したい。
※なお、現時点ではガイドラインは案の段階であり、今後多少の修正はありうる。
まず、このガイドラインのポイントを整理しよう。
- 学校で行われる運動部活動を対象としている。文化部は対象外。
- 中学校も高校も対象である。
- 週当たり2日以上の休養日を設けること(平日は少なくとも1日、土曜日及び日曜日は少なくとも1日以上を休養日)。
- 1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日は3時間程度とし、できるだけ短時間に、合理的でかつ効率的・効果的な活動を行うこと。
- より多くの生徒の運動機会の創出が図られるよう、季節ごとに異なるスポーツを行う活動、競技志向でなく友達と楽しみながらレクリエーション志向で行う活動なども検討すること。
- 大会について、中体連(日本中学校体育連盟や都道府県中学校体育連盟)等は、複数校合同チームの参加、学校と連携した地域スポーツクラブの参加などの参加資格の在り方、大会の規模もしくは日程等の在り方等の見直しを行うこと。
もちろん、さまざまな意見、賛否があろうが、部活動のやり過ぎについて、国が活動時間などの具体的な上限規制を付け、かつ大会の見直しなど相当踏み込んで学校現場と関係者に求めるのは、史上初である。
■部活を長くやりたい子がいるのに、どうして規制するのか?
今回のような規制について、必ず付いてまわる反対意見は、次のようなものだ。
実際、前回も前々回もスポーツ庁の検討会議のなかでも、これに類する発言もあった。
こうした意見も理解できるが、いくつかもっと考えたいことがある。
1つ目は子どもの健康・安全への影響だ。
スポーツへの参加時間が長ければ長いほど、けがや障害になる確率は高くなることが、実証されている。
実際、週16時間以上の場合、ないし“年齢×1時間”より多い場合は、より発生率が高いとの研究が複数ある(スポーツ庁の検討会議、2017年12月18日での報告)。ちなみに、これは体育の時間なども含めての時間だ。こうした研究成果を受けて、先ほどのガイドライン案の練習時間の規制をかけようとしている。
2つ目として、「長くやればやるほどうまくなる」という信仰は教員にも、生徒にも、保護者にも強いと思うが、それはスポーツ科学の知見からは否定されているとのこと。スポーツ庁の検討会議でも、たびたび専門家から発言があったのは、「強くなるためにも、適切な休養は必須」、「試合前だから猛練習するなんて、科学的にナンセンス」ということであった。
つまり、今回の部活動ガイドラインは、「ともかく長くやればやるほどいい」というスポ根への強烈な挑戦状、アンチテーゼだ。
これは、何も部活に限った話ではない。授業時間だって、長いほうが学力向上に役立つと、夏休みを短くするような動きもある。日本全体が生産性を高めようというのに、逆行している。
3つ目として、子どもの学習時間や友達や家族との時間、自由な時間などをもっと認めていく必要がある。たとえば、朝練を7時~8時までしている。夕方も放課後~19時頃まで部活をしているというところはある。そうすると、仮に通学が30分以内で済んだとしても、子どもに残されている時間は約11時間だ。このなかで、睡眠、晩ご飯、朝ご飯、身支度、風呂、トイレなどを除くと、あと何時間残るというのか、想像してみてほしい。宿題などの家庭学習の時間も、友達とラインなどでやりとりする時間も、家族とちょっとは会話する時間も、好きなことで遊ぶ時間もほしいだろうに。
実際、国に先駆けて、また国の基準以上に思い切った部活動ガイドラインを策定した静岡市は、上記のように、子どもの部活以外の時間を確保しようということが大きな理念としてある。Study、Sports、Societyの3つのバランスをもっと取っていこうというコンセプトはたいへん共感する話だ。なお、この話は運動部だけでなく、吹奏楽部など過熱化する文化部ももっとよく考えないといけない。
※静岡市教育委員会資料(スポーツ庁検討会議での配付資料)
4つ目は、顧問の教職員の負担という問題だ。部活以外の時間も大切だよねという話は、教師にも当てはまる話である。教師の自由時間ももっとあってよい。なお、教師によっては、授業準備以上に部活に時間を使っている人も少なくない。本当にそれでいいのか、よく見つめ直す必要がある。また、教師が過労で疲労が蓄積された状態では、いい教育になるはずがない。
■校長や顧問、保護者はどうしていくべきか
では、このガイドラインを受けて、学校はどうしていくべきだろうか?
ひとつは、各都道府県や市区町村教委等は、国のガイドラインを踏まえたその地域のガイドラインや活動指針を出していくことになると思う。それらを参照しながら、学校としてはしっかり守っていくことが大事である。
「生徒がもっと練習したいと言っています」は言い訳にならない。これはさきほど述べた4つの理由からも明らかである。
具体的には、この4月の入学式とその後の保護者説明の場が最大にして、唯一と言ってもいいくらい、重要な場である。なぜなら、これほど保護者が学校に集まり、ちゃんと校長の話を聞いてくれる場はない(PTA総会だって保護者は集まらないのだから)。
通常は、部活動の勧誘のPR合戦が繰り広げられるのが入学式のあとの風景。それも大いにけっこうだが、ぜひ、校長は次のこともお話してほしい。
★部活動は重要な意義があるが、生徒へのけがを誘発する影響や顧問の負担など、深刻な問題もある。
★スポーツ庁も休養日や練習時間の上限を設ける動きにある。
★部活動は、学習指導要領上、設置、実施することが必須のものではない。また、平日は教師の無償労働のもとに成り立っている。
★教職員の人事異動に部活動が重視されているものではない(現実にはそういう地域もあるが、本来の姿ではない)。
去年の顧問はここまでやってくれた、今年の顧問は頼りないなどのクレームは、ナシにしていただきたい。
ぜひ、保護者や地域の方は、ぜひこうした校長や学校を応援してほしい。せめて、多少なりとも理解できることがあれば、「わかるよ」、「先生たちも大変だもんね」と学校側に伝えてほしい。
部活動改革は、いまスタート地点に立ったばかりだ。ガイドラインを単なる紙切れにせず、よりより部活動運営のためにも使っていこう。
◎妹尾昌俊
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