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学校の働き方改革、どこ行った? コロナ禍で増える先生たちの負担、ビルド&ビルドをやめよ

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 授業は1日7コマ、授業のあいまの短い休み時間と放課後に大量の丸付けと添削。気になる子の保護者と電話でも相談。

 勤務時間前からの消毒作業が当然のことのように入り、放課後も職員みんなで手分けしても広い校舎を掃除して消毒、30分はかかる。

 「感染症対策やってますよ」とアリバイをつくりたいのか、書類作業も増えた。

 部活動はコロナ前の熱血指導に回帰。「土日どちらかは休みにせよ」と自治体のガイドラインにもあるけれど、保護者主催の体にして、両日やるときも。

 夏休みは言えば、大幅短縮で1週間ほどになり、疲れが抜けない・・・。あるいは名目上は2週間の夏休みだが、補習や模試などもあって、実質休めるのは1週間もない。生徒は休みでも、先生はGo To Schoolですか。

 ひょっとすると、読者の近くにいる学校(小中高)の先生のなかには、このような日々を送っている方もいるのではないでしょうか。もちろん全国さまざまですし、校種によっても異なりますが。

■働き方改革、どこ行った?

 多くの学校で共通していることとして、コロナ前はあれほど「働き方改革」と言われてきたのにもかかわらず、「災害時だから仕方がない」、「児童生徒のために、やらざるを得ない」、「休校中の遅れを取り戻せ」ということで、なし崩し的に、教職員の業務負担が増え、健康・福祉がなおざりな状態になっています

 わたしは、数多くの先生たちの過労死や過労自死、メンタルヘルス不調を調査、取材してきましたが、コロナ禍でさらに事態は悪化している、と見ています。とても心配です。

 もともと(コロナ前から)学校や教育行政は、スクラップ&ビルドがとても苦手です。「子どものために」という殺し文句のもと、ビルド&ビルドで、仕事が増えています(次の図)。諸外国と比べても、日本の先生ほど、多種多様なマルチタスクにこなしている人たちはそういません。たとえば、外国もいろいろありますが、部活動や進路相談、カウンセリングは別のスタッフだったりします。日本の先生たちは、授業だけしておけばいい、なんてことはありません。しかも、土曜授業をはじめとして、その授業に関連する負担も増えています。

(筆者作成)
(筆者作成)

■先生の仕事にトイレ掃除も入る?

 一度、県庁や市役所の職員さんにもお尋ねください。「新型コロナで日々の業務が増えて、大変ですよね。で、トイレ掃除はやられていますか?」

 おそらく、よほど財政難など理由がある自治体を除いて、県庁等の職員がトイレやエントランスなどまで掃除をしている例は少ないだろうと思います(データを取って確認できているわけではありませんので、断言はできませんが)。おそらく、コロナ前から専門業者やシルバー人材センター等にアウトソーシングしていたものが、今回も拡充されて、回数を増やしたり、消毒もお願いしたりしているところも多いだろうと思います。

 学校だけです。教職員(教員だけの問題ではありません、学校事務職員などほかのスタッフも含めて)にトイレ掃除や消毒作業までさせているのは。わたしは、コロナ前からも児童生徒を使って掃除させているのも、どうかと思って、見直しを提案しておりましたが。

 次のデータは参考になるかもしれません。学校再開後の6月にわたしのほうで教員向けアンケート調査を実施した結果です。

出所)妹尾昌俊「with/afterコロナ時代の学校づくりと働き方に関する調査」
出所)妹尾昌俊「with/afterコロナ時代の学校づくりと働き方に関する調査」

 公立小中高では、8割以上の先生が、消毒や清掃に従事しています。とりわけ、国の制度で児童生徒数のわりには教員数が少ない小学校では、「従事していない」という回答はわずかですし、消毒に30分以上かかっている小学校も約3割にも上ります。知人のある小学校長は、自身もトイレ掃除をしている、と言っていました。

 小中では、事務作業もかなりありますし(コロナ前より増えたかはこの調査では判明しません)、登下校指導に付き添っている例も多いです。

 小学校の先生の典型的な1日をお伝えします。

 仮に、消毒、清掃、事務作業、登下校指導に1日それぞれ30分かかっていたら、合計で2時間になります。それとは別に、朝の会や帰りの会(学級活動)、それから、もちろん授業もありますので、担任の先生たちは、だいたい朝8時過ぎ~15時か16時くらいまでは、子どもたちに付きっきりです。

 勤務時間の終わりまで、1時間~1時間半くらいしかありません(ほんとはいけないことですが、休憩時間を取らないとしても)。1時間~1時間半で、さきほどの2時間は収まりませんね。しかも、プラス授業の準備や宿題等のチェック、コメント書き、気になる子や保護者のカウンセリング、行事等の準備などなど、仕事は山積みです。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 そもそも、勤務時間のなかで、収まる仕事量ではないのです。簡単な算数の問題です。ここがコロナ前からも学校の働き方の大問題でした。が、前述のとおり、コロナ禍のなかで、事態はさらに悪化している学校もあります。

■残業の見えない化

 さらによくないのは、「時間外は月45時間以内にしないといけないから」とか「時間外が多いと、教育委員会から怒られるから」と言って、タイムカードを押したあとも、時間外や持ち帰り仕事が続いたり、校長や教頭から早く帰れというプレッシャーばかりが強くなったりする始末。

 これでは、見かけだけの、やったフリをする働き方改革ですよね?だれも楽しくないですし、「残業の見えない化」が進むことで、教育委員会や校長は変に安心しちゃうわけです。「本校は働き方改革を進めまして、以前は21時過ぎても明々としていましたが、いまは20時前にはみんな帰っています」と胸をはる校長等が出てきます。問題を過小評価させてしまいます。

■労基法違反が当たり前

 先日の毎日新聞(7月7日)では、ある小学6年生の担任に密着した記事が載っていました。多忙に拍車がかかった様子をよく描いていて、放課後に消毒作業を終えたその先生がつぶやいた一言が「僕、きょう、水分取りましたっけ?」。休憩、休息もほとんどない状況なのです。

 公立高校に務めるわたしの知人も、昨日は夕方にやっとおにぎり(お昼ご飯)をほおばったと述べていました。

 長時間労働も大問題ですが、労働の長さだけでなく、質にも注目していく必要があります。過密労働も深刻です。

 2016年の教員勤務実態調査という国の大規模調査でも、教諭の休憩時間は1日3~4分程度しかないことが確認されていました。実は2006年調査のときも休憩がほとんど取れていないことは判明していました。この15年あまり、この状況はまったくと言っていいほど、改善されていません。しかも、コロナ禍で悪化している可能性も高いです。

文科省も教員に休憩が取れていない問題は認識しているはずだが、ほとんど有効な策を講じていない(筆者撮影)
文科省も教員に休憩が取れていない問題は認識しているはずだが、ほとんど有効な策を講じていない(筆者撮影)

 学校はノンストップ労働が当たり前になってしまっているのです。これは明らかに労働基準法違反でもあります。(ちょっと専門用語を入れますが、ここの労基法の規定は、給特法は関係ないので、公立学校の教員にも適用されます。)

■ビルド&ビルドはやめよ

 こうした「過密過重労働」の日々で、なおかつ、新型コロナのことや熱中症のこと、あるいは、いじめ問題などで先生たちの気は張り詰めたままでは、近いうちに「ぶつん」と切れてしまう人が出てきても、不思議ではありません。

 文科省は6月下旬にメンタルヘルスについて注意喚起する通知を発出しましたが、内容は、はなはだ踏み込み不足だと思います。

 国も教育委員会も、過密過重労働に耐えてきた人たちが幹部になっているからかもしれませんが、人間はサイボーグではないし、もっと繊細でフラジャイルです。

 文科省の支援と働きかけについても言いたいことは山ほどありますが、教育委員会や学校にぜひ行動してほしいことがあります。ここでは3点に絞って提案します。

 第一に、教職員の専門性等が関係ない業務は、手放せるようにしたいです。本稿で述べた、消毒、清掃、登下校の見守りなどです。部活動も部活動指導員さんに来てもらったり、地域主体にしていく方向を模索したり、あるいは大会等を目指さない、ゆるい部活動運営にしたりする(「ゆる部」と呼ばれています)のも、選択肢です。

 こうした業務は専門業者や地域の方等にお願いして、教職員は本来業務にもっと集中できるようにしていくべきですし、先生たちの空き時間を少しでも確保していくことが肝要と考えます。

 掃除などについては、学校だけが予算を取らずに、教職員と児童生徒の「無償労働」に甘えていいわけがありません。教育委員会はぜひ予算獲得に動いてほしいですし、首長や議会の関係者はぜひ応援してください。

 外部や地域の人を入れると、感染リスクが高まるという声も聞きます。地域の感染状況が危機的ならその心配はまだ理解できますが、教職員が掃除等をしているから、感染リスクがない、なんてこともありません。むしろ、疲れて免疫力の落ちた人が集まる職員室なら、感染リスクは高いのではないでしょうか。できうる感染対策は講じたうえで、外部の力を借りるべきです。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 第二に、わざわざ、教職員の仕事を増やす施策はやめてもらいたい。必要性が高いものがあるなら、別のものをスクラップしてほしい。

 1日7限目までとか、土曜授業はよく考えてほしいと思います。かたや、教員採用では教職の魅力をPRしようとして、その一方で、土曜も休みなく働かせ続けるのは、矛盾していませんか?子どもたちも疲れています。

 学校によっては、授業動画づくりを再開後も課しているところがあります。ICTの活用はどんどん進めてほしいのですが、ICT活用は通常の授業や家庭学習で推進すればよいのであって、放課後に動画づくりをすることに優先度が高いとは思えません。その時間があるなら、授業準備を深めたほうがよいと思いますし、たまにはリフレッシュできる休養を取りましょう。あまり負担のないかたちであれば、授業風景を撮影して、不登校の子向けに配信したりすることはできればよいと思いますが。

 第三に、児童生徒向けの相談窓口の周知を徹底してほしい、と考えています。子どもたちの悩みにしっかり耳を傾けてくれている先生は多いとは思いますが、はっきり申し上げて、忙しく見える人には相談しづらいもの。躊躇する子もいるのではないでしょうか。

 コロナ禍で子どもたちのストレスも高まっています。SOSをキャッチできる仕組みは重層的に用意しておくべきです。

 ほかの政策、支援も申し上げたいですが(よかったら、参考文献などをご覧ください)、最低限、この3点は検討されてはいかがでしょうか。子どものためといって、教職員の負担を増やす一方では、倒れる先生が出る可能性が高いですし、授業準備が十分にできない先生が増えます。そうなると、子どもたちに影響します。このままの学校では、子どものためにならないかもしれない、そこを忘れないでいてほしいと思います。

(参考文献)

神林寿幸『公立小・中学校教員の業務負担』(大学教育出版)

妹尾昌俊『教師崩壊』(PHP新書)

妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)

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●妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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