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大人の日帰りウォーキング 穏やかな春の1日、景色やお寺を楽しみながら1日20kmを歩くひとり旅

わか子ライター
秩父三十四観音霊場33番菊水寺

ようやく戻ってきた。
歩く旅に出て早々に道を間違えてしまい、気付いた時には20分間も歩き進んでしまっていた。仕方がないので引き返したけれど、約40分間のタイムロスと、体力ロスになった。ま、良いか。ひとり旅の気楽さを感じた。誰に気を使う必要もない。

子育てを卒業するころより歩く旅を始めた。何故歩く旅?と聞かれることも多いけれど、これと言った理由はない。何かきっかけになる事があったかなと脳内を探してみると、昭和の頃に観たテレビの水戸黄門の中で、うっかり八兵衛さんが旅の途中でお団子を美味しそうに食べる姿が印象に残っていた。
人間が電車や車で移動するようになったのは明治時代以降であり、それ以前は歩くしか方法は無かった。実際に歩いて旅をしてみると、結構という言葉以上にお腹が空く。だから、食べ物がいつも以上に美味しく感じる。空腹は最強の調味料かもしれないと、実感した。今の世の中は美味しい物であふれているけれど、美味しく食べるには空腹が大きな要素の1つだと学んだ。

日本全国にある霊場巡り。その中の埼玉県にある秩父三十四観音霊場巡りをしている。秩父三十四観音霊場巡りは西国三十三か所、坂東三十三か所を合わせて日本百観音霊場でもあり、結願すると信州の善光寺にお参りをするのが慣例になっている。都内に住んでいるので日帰りで歩き続けてきて今回で6回目。最後になる今日は33番と34番の札所にお参りする予定にしている。
霊場巡りでは、所々に江戸時代より残っている巡礼道がある。県道より古道である巡礼道へと歩き進むと立派なお寺があり、その先で荒川の支流である赤平川を渡り、三十三番の札所を目指す。江戸時代では川に降りて渡っていたとあり、当時は川を渡るにも一苦労だったけれど、現在では橋で渡れるようになっていた。
道路脇に咲き誇る菜の花を眺めて、黄色と黄緑色がきれいだなと感じる。何かと忙しい日常から離れて歩く旅をすると、時がゆっくりと流れて景色の中をじっくり歩き進むのも楽しみの一つである。

埼玉県秩父市下吉田
埼玉県秩父市下吉田

お堂の中はひんやりしている。軽く汗ばみながらここまで歩いてきたので、ひんやりした空気に包まれるのは気持ちが良い。三十三番札所である菊水寺のお堂は土間になっている。このお堂はいつ頃に建てられたのだろうか。歴史を感じるお堂の中で、足元を再度ながめてお堂の土間に立っている自分を確認し、天井を見上げた。天井には沢山の絵があり、絵の鮮やかな色合いが美しく、そのまましばらく天井を眺めた。
入り口から外の光が少し差し込むだけのぼんやりと暗い室内に、眼がようやく慣れてくる。物音が全くない静かなお堂の中、ひんやりと落ち着いた空気に包まれ、建物の匂いやお線香の匂いを感じて心地よい。旅に出ると非日常を感じるが、それを通り越して別世界と言うか、異次元の世界に来たように感じる。そして、ひとり旅の私は、この異次元を感じる空間に自分1人だけで存在しているように感じた。
孤独感や寂しさはない。むしろ、面倒な人間社会から離れて自分の気持ちが入れ替わるような気がした。そして思う。人間なんてちっぽけなものだと。目先の出来事に一喜一憂して振り回され、疲れ果てている自分の姿が脳裏に浮かび、自分もちっぽけなものだと思い直す。
ふーっと息を吐いた。

秩父三十四観音霊場33番菊水寺
秩父三十四観音霊場33番菊水寺

再び巡礼道を歩きはじめる。しばらく歩いて赤平川を渡ると巡礼道から脇道にそれる。今回は、計画していた寄り道である。
川沿いにある目の前の崖に巨大な地層が現れているこの場所は、取方の大露頭と言う。約800mもある巨体な地層が現れている場所であり、国指定天然記念物にもなっている。約1600万年前の地層であり、海底の地滑りで起こった湾曲(スランプ湾曲)や、海底で堆積する地層が一時的に陸になって侵食を受けた後で川になり、再び小石や泥が堆積した地層(不整合)も見られるとある。詳しい地層は見慣れないとなかなか理解しづらいけれど、ミルフィーユ状に重なっている地層は良く分かる。(参考:ジオパーク秩父HP取方の大露頭

取方の大露頭(埼玉県秩父市下吉田)
取方の大露頭(埼玉県秩父市下吉田)

1600万年前に起こった大きな大地のエネルギーの痕跡が目の前にある。大迫力の地層の崖を眺めながら川沿いをぐるりと歩いてから元の巡礼道に戻った。
しばらく歩くと、私のようにリュックを背負って歩いている女性が前から歩いてきた。同じように歩いている人を見かけると同じ匂いを感じるのは私だけではないと思っている。きっと、相手も同じように感じているだろう。仲間に会えたような気がして何だか嬉しい。1人かと思うとすぐ後ろに1人、さらにもう1人とグループで歩く旅を楽しんでいる様子。軽く挨拶をしながら行き交った。そして、赤平川の支流である吉田川に沿って歩いたその先にある、道の駅龍勢(のせ)会館でお昼休憩にした。時間はちょうどお昼時で、道の駅には車やバイクで来ている沢山の観光客で賑わっていた。

道の駅龍勢(のせ)会館(埼玉県秩父市吉田久長32)
道の駅龍勢(のせ)会館(埼玉県秩父市吉田久長32)

今日は朝が早かった事もあり、おにぎり2個しか持ってこなかった。しかも、おにぎりは朝ごはんで完食済であり、おにぎりで補給したエネルギーも朝からここまで歩いてきた運動ですっかり消費してしまい、お腹が空いた。これだけお腹が空けば食べるものは美味しいはずだ。水戸黄門のうっかり八兵衛さんじゃないけれど、沢山歩くとお腹が空くのは本当に良く分かる。歩く旅が普通だった時代では、旅をすればお腹が空くが当たり前だったと実感した。そりゃ、お団子も美味しいはずだわ。

道の駅の中に入る。新鮮野菜や採れたてイチゴが並ぶ脇を歩きながら、お昼に食べられそうなものがないかと探してみる。おにぎりがある。もう少しがっつり食べたいと他も探すと丸いカツが2枚乗ったお弁当を見つけた。お値段600円。しかも、残り1個であり、他にお弁当のようなものは見当たらない。普段は外食をせず、お弁当も買うことが無いので、600円のお弁当は贅沢に感じる。でも、たまには贅沢しても良いじゃないか。おばさんの歳まで生きてくれば、これから先は自分が美味しいと感じる物を自分に食べさせてあげようじゃないか。

冷たいお茶と一緒に会計をして外に出る。
道の駅の大きいテーブルとベンチには4人ほどが座っていたが、タイミングよく席が空いたので座ることが出来た。冷たいお茶が美味しかった。

「相席しても良いですか?」と声をかけられた。
顔を上げると、60代だろうかと思われる女性3人がいた。先ほどすれ違った人たちだった。挨拶したはずだから大丈夫だよね。歩き疲れて不機嫌な顔をしていなかったかな。変な人に見えていないよねと、頭の中にある記憶をたどる。
もし、私が変な人に見えていたならば相席をしてこないと思うけれど、おばさんも3人いれば文殊の知恵だし、3人いれば怖くない心理が働くし、圧倒的なパワーで何事も乗り切れるし…。そんなことを考えながら私も立派なおばさんだわと反省する。
「はい、大丈夫です」と答える。そして、「先ほどすれ違いませんでしたか?」と聞いてみた。
「あ、そうそう、さっきすれ違った、歩いていた人ね。私たちも歩いているのよ。秩父の霊場巡り」
やっぱり。同じ趣味を楽しんでいる者同士、お互い同じ匂いを感じていた。

今回歩いているコースはこちら(約21km)

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※次の話:ひとり旅の私、偶然相席になった人にお裾分けを頂いてマナーに戸惑った話

ライター

東京都在住のおばさんです。子育てが落ち着いてきた頃より趣味で登山や街道歩き等を始めました。歩く旅は大変だというイメージがありますが、歩く事で解る楽しみもあります。実際に歩く旅をして、歩く旅の楽しさをお伝えしたいと思っています。

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