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ジブリ系譜ポノックが本家超え快心作 「君たちはどう生きるか」超えへの期待作「屋根裏のラジャー」

武井保之ライター, 編集者
12月15日公開「屋根裏のラジャー」(C)2023 Ponoc

 ほとんど情報が出せない段階だが、驚きの出来栄えに興奮を覚え、記しておきたくなったスタジオポノック最新作「屋根裏のラジャー」(12月15日公開)。元スタジオジブリのプロデューサーであり、ポノックを立ち上げた西村義明社長がプロデュースを務める長編2作目になる。

 西村氏がジブリ時代から仕事をともにし、絶大な信頼を置く百瀬義行監督が100%の完成度を目指した新作であり、当初は昨年夏の公開予定だったが、1年半遅れて今年12月の公開になった“問題作”でもある。8月21日に行われた製作報告会見では、公開延期で会社経営が厳しい状況に陥ったと西村氏が発言。メディアで取り上げられ話題になった。

 そんな本作は、タイトルの言葉のならびや質感がいかにもジブリっぽく、ヨーロッパ児童文学の長編アニメ映画化もジブリの作品群のひとつと同様の手法だ。本作がジブリの血を受け継ぐ系譜の作品であることは間違いない。

 しかし、それらと同じような作品だろうという予断を持って見ると、作品性が驚くほど異なっていた。ポノック長編1作目「メアリと魔女の花」ともまた違う。予告編の第一印象は、どこか細田守監督の「サマーウォーズ」の雰囲気を感じるかもしれないが、そこともまったく異なる。

サスペンスフルなストーリーで衝撃的な展開も

 90年前後から2000年代初頭のジブリ黄金期の作品の映像的な手触りを一部残しながら、内容は現代の観客にあわせてチューニングされた作品という印象だ。

 ストーリーは、思いのほかサスペンス要素が強く、冒険活劇というほどアクションに寄っていない。冒険はありながらも、スリリングかつ恐怖を感じさせる演出も挟み込まれる。そのなかにしっかりと感情を揺さぶるポイントが重ねられ、ラストには涙を誘う大きな盛り上がりもある。

 作品の世界観では、現実の人間と夢の中の空想のキャラクターが交錯するふたつの世界の関係性と構造がわかりやすく無理がない。物語のリアルとファンタジックな世界のバランスがよい。また、ストーリー展開が早いため話の進行のテンポがよく、上映時間が110分弱というのも見やすくていい。

 なにより脚本が秀逸なのだ。いまの観客に刺さるアニメ作品の要素を押さえながら、綿密に練られた隙がなく無駄のない設計のストーリーで見るものをぐっと力強く引き込んでいく。

 ジブリ風のソフトなビジュアルに包まれているが、中身はシャープに研ぎ澄まされている。その両者が溶け合って、不思議な魅力と見応えのあるオリジナリティが生まれている。そんな本作の脚本はまだ執筆者が明かされていない。そこもこれから話題になるかもしれない。

 子ども向け要素の強いジブリ調の作品を予想していると裏切られることになるだろう。本作のサスペンスフルなストーリーと途中のやや衝撃的な展開は、小さな子ども向けではないかもしれない。ただ、映像的には年齢を問わずに親しみのわく世界観を作り上げている。誰に見てもらうのか、どの年代が本作を楽しめるのか。それもポノックの本作のひとつの挑戦と見ることもできる。

“宣伝したい宣伝”の裏に作品力への自信

 ジブリ新作の宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」と異なるのは、「屋根裏のラジャー」はわかりやすさがある観客を選ばない作品であること。誰もが気軽に楽しめる作品であるのと同時にひねりもあり、ストーリーの奥行きから引っ張り出される感動もある。

 製作報告会見で西村氏は、「君たちはどう生きるか」の“宣伝しない宣伝”の反対をいく、“宣伝したい宣伝”の展開を宣言していた。その言葉の裏にあるのは、試写で多くの人に見てもらうことで口コミが大きくなる作品力への自信だろう。

 かつて、一般的な知名度はそれほど高くなかった新海誠監督は、「君の名は。」(2016年)の公開前に全国津々で試写会を実施し、自ら多くの会場へ足を運んで作品について語る、見せ込みを徹底的に行なった。それが結果的に爆発的なヒットにつながっている。

 本作もそのパターンが当てはまりそうだ。初見で、驚きとともに、大きく化けるポテンシャルをひしひしと感じさせられた。公開されてからも改めて見に行きたいと強く思わせる作品だった。興収100億円超えも夢ではないだろう。お正月映画の台風の目になることが期待される。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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