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『モアナ2』『インサイド・ヘッド2』続編の記録的世界ヒット連発の背景にディズニー地殻変動か

武井保之ライター, 編集者
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北米での記録的な大ヒットが話題の『モアナと伝説の海2』。公開1週間ほどで前作『モアナと伝説の海』の最終興収を上回りそうな勢いを見せている(注)。

そんな話題が日本でもネットニュースをにぎわすなか、12月6日より公開されたところで劇場に足を運び、前作との違いや今回のヒットの背景を考えてみた。

ポリネシア要素の普遍的な冒険物語

本作の舞台は、前作の3年後。妹も生まれ、大人へと成長するモアナは、島のリーダー的な存在になり、先人たちの教えに導かれ、外の世界の仲間を探す旅に出る。

前作との違いとしてまず感じるのは、同じポリネシアの物語のなか、ストーリーも描写も、地域性や民族性が薄れていること。もちろんモアナの可愛らしい衣装や住民たちの生活にはポリネシア文化が忠実に反映され、主要登場人物のマウイをはじめポリネシア神話が物語の根底にある。

しかし、それが物語設定としてなじみながら、ストーリー展開において強くは主張してこない。どこの国や地域にもいる、大人へ成長しつつある少女の普遍的な冒険物語として、スッと入ってくる。

それは冒険の部分も同様。前作は青く美しい海が全体的な印象として残っているが、本作は海だけでなく、異次元のような空間から宇宙にまで飛び出す。壮大なスケールのスペクタクルアクションになっているのだ。加えて、強く美しいモアナのコミカルな要素もちりばめられ、彼女への感情移入の度合いが増す。

こうした要素が観客の属性を超えて共感を得ている面があるのかもしれない。

市場環境が変化している?

もうひとつの要素がマーケットの変化だ。

今年6月に北米公開された『インサイド・ヘッド2』は世界興収16億ドルを超え、世界歴代興収8位にランクインする大ヒット(『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は13.6億ドルで17位)。前作『インサイド・ヘッド』(8.6億ドル)を大きく上回っている。

それに続く『モアナと伝説の海2』も、前作超えが確実の記録的世界ヒットになった(注)。確かに2作とも、内容は前作よりパワーアップしている。前述のようなクリエイティブの変化のほか、不振の時期を経て、さまざまなアイデアがストーリーテリングに活かされていることも感じる。

それでも、一般的に続編が前作を超えるのは難しいと言われるなか、興収が1.5~2倍になるほどおもしろくなったかというと、そこまででもない気がする(もちろん感じ方は人によるが)。そもそも、内容だけでヒット規模がそこまで変わるとは考えにくい。シリーズ続編が2作連続でこれだけのスーパーヒットになった背景には、マーケットの変化があるのではないだろうか。

日本では、2020年の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』以降、アニメ映画は若い世代を中心に広く一般層へと観客の裾野を広げた。

それは、近年の『劇場版 名探偵コナン』シリーズが毎年公開されるたびに興収を伸ばしていることや、昨年の『THE FIRST SLAM DUNK』と今年の『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の100億円超えという、どちらもそれまでの劇場版とはケタが違うヒットになっていることが示している。

従来は、作品ごとのファンやアニメファンが映画館に足を運んでいたが、いまではアニメは一般層が見に行く映画になり、これまで以上に巨大な市場が出来上がっている。

世界的にファン層の裾野が拡大か

それと同じことが世界市場におけるディズニーアニメに起こっているのではないだろうか。

そのきっかけや要因の分析はこれからだが、ひとつには、ここ数年の世界中で紛争や戦争が起きている不穏な情勢と関係があるのかもしれない。

『モアナと伝説の海2』もそうだが、ディズニーアニメのラストには平和と調和のメッセージがある。劇中のストーリーテリングは、現実を離れて、差別も分断もない、愛があふれる夢の世界へと誘ってくれる。それがいまの世界のニーズとマッチするのかもしれない。

また、これまで過剰にも感じることがあった、多様性やLGBTQ、ポリコレへの配慮のバランスにおいて、世界の受け手側の感覚とのチューニングが合ってきたことがあるのかもしれない。

あるいは、ディズニープラスの普及により、ディズニーアニメに日常的に触れる人が増え、世界的にコアファンの裾野が拡大しているのかもしれない。

いずれにしても、ディズニー地殻変動とも呼べるマーケット変化が起こっている。それが一時的なものなのか、継続しつつ拡大していくものなのか、それはこの先の作品が示していくだろう。

『モアナと伝説の海2』の次は『ライオン・キング:ムファサ』が12月20日に日米同時公開される。その動向に要注目だ。

注:『モアナと伝説の海2』北米公開(11月27日)では、初日から5日間で興収2億2100万ドルを記録。感謝祭5日間の数字としては史上最高となり、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2億400万ドル)や『トランスフォーマー リベンジ』(2億ドル)、『アナと雪の女王2』(1億2370万ドル)などを超えるスーパーヒットとなっている。前作『モアナと伝説の海』の北米最終興収は2億4800万ドルだが、今週末にも上回りそうだ。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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