「バービー」世界的ヒットも日本不振の背景 炎上騒動が宣伝へ影響
炎上騒動を起こしながらも世界的に大ヒットしている『バービー』が、8月11日より300を超えるスクリーン数で日本公開された。しかし、全世界で興収1500億円を超えるスーパーヒットになりながらも(全米では『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』に次ぐ今年2位のヒット)、日本では公開週末の全国映画動員ランキング(8月11日~8月13日)で8位(推定興収1.9億円、動員12.7万人)という厳しい結果になった。
(秋の大ヒットが期待される洋画はディズニーの変化球的に刺さる新作)
動員数で、公開4週目の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2位)、2週目の『マイ・エレメント』(5位)と『トランスフォーマー/ビースト覚醒』(6位)を下回っている。ネットニュースをはじめ、メディアではそれなりの露出があった本作だが、興行には結びついていないようだ。
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若い世代の女性層を取り込むも一般層へ響かず
本作の公開週末の映画館には、それなりに観客が入っていた。やはり女性層が多く、20〜30代の女性2人連れや数人のグループ、小中学生の親娘、カップルなどが多く見られ、ピンクを全面に押し出すポップでカラフルなかわいい世界観や、製作・主演を務める女優マーゴット・ロビーへの関心などが響いていたように見える。
デートムービーや、かわいらしさをフィーチャーするファッションムービー的な需要を取り込んでいるものの、一般層を引き込めていない。そこへの訴求ができていないことが不振の大きな要因としてある。
内容面では、主人公のバービー人形に対する日本人の親近感や距離感は、アメリカ人とは異なる。日本では一部の世代を除いて、バービー人形が本作で描かれるような女性のさまざまな職業での活躍や社会的成功を象徴する対象ではないだろう。
また、本作が女性の権利主張や不平等の是正を声高に唱えるフェミニズム映画なのか、そうでないのかが、漏れ聞こえる情報からはわからない。さらには炎上騒動の内容からの嫌悪感で距離を置く一定層がいる。こうした点が、本作への鑑賞意欲を弱めてしまっていた。
高度な配慮がありつつ毒舌コメディとして描く表現力
事前の情報として、本作がどういう映画で誰が楽しめるのか、宣伝がじゅうぶんに行き渡らなかったことが大きい。ただ、それには仕方がない面がある。アメリカ発の「Barbenheimer(バーベンハイマー)」炎上騒動が日本メディアを席巻しており、現代社会を自虐的に風刺する作品本来のライトに楽しめるコメディ的要素のおもしろさを伝える機会を失ってしまっていた。
そんな流れのなか、郊外のシネコンでは早くも上映時間が午前中や夜に限られてしまっているところもある。作品自体はエンターテインメント性の高い、男女ともに楽しめる作品であり、多くの人を引きつけるポテンシャルがある。
社会的な配慮が高度に必要になる題材を、毒舌のコメディとして描く巧みな表現は秀逸であり、そこからの学びも多くあるエンターテインメントに仕上がっている。世界的に評価が高いのも納得できる。
本作は、若い世代にハリウッド映画もおもしろいと思ってもらえる作品だ。ふだん洋画を見ない層にとって、新たな扉を開く経験になり得るだろう。ここからの粘り強い興行を期待したい。
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