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「静かな退職」をしたがる人が持っている3つの歪んだ思考

横山信弘経営コラムニスト
必要最小限のことはやります……(写真:イメージマート)

「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

会社に籍を置きながら、まるで退職したかのように必要最小限の仕事をするスタイル、状態のことだ。最近、この働き方が若者の間で広がっているという。

もともとはアメリカのティックトッカーによって拡散された独特の概念だ。世界中のZ世代の間で広まったようだが、日本でこのようなワークスタイルが広まるとは考えてもいなかった。

表向きは「ワークライフバランス重視」や「自己実現」を掲げているようだ。しかし本音はもっと根深い問題を抱えているのかもしれない。今回は、「静かな退職」をしたがる人の歪んだ思考について掘り下げていく。経営者や人事担当者だけでなく、働く人すべてに関わる重要なテーマだ。ぜひ最後まで読んでもらいたい。

■「静かな退職」を希望する3つの表向きの理由

「静かな退職」を選ぶ人たちにはどんな特徴があるのか? その価値観、思考パターンについて3つ紹介しよう。

(1)ワークライフバランスを重視

一つ目の特徴は、ワークライフバランスを強く意識することだ。彼ら彼女らは「仕事だけが人生ではない」という考えを持ち、プライベートや趣味、家族・友人との時間を大切にする。

仕事に時間やエネルギーを費やすことを避け、自分の生活を優先する姿勢が強い。会社へのコミットメントよりも、自分自身の生活の質を重視する傾向があると言えよう。

(2)仕事以外での自己実現を求める

二つ目の特徴は、自己実現の場を仕事以外に求める傾向だ。自己実現を仕事に限定せず、多様な活動や経験を通じて満たそうとする。

副業や趣味、SNSでの発信活動など、仕事以外の場で自己表現を行うことで、仕事でのやりがいや成長の実感を求めない人も多い。それによって仕事への熱意が薄れ、「静かな退職」の状態に陥りやすくなるのだろう。

(3)ストレスのない生活を最優先する

三つ目の特徴は、ストレスのない生活を最優先する意識だ。過度なストレスや長時間労働による健康リスクを避け、精神的な安定を求める。

だから頑張りすぎない働き方を選び、自分のペースを守ろうとするのだ。とりわけ過去の世代が「頑張りすぎた」結果としての健康問題を目の当たりにしているからだろう。同じ轍を踏まないようにという意識が強く働いている。

一見すると、健全な考え方のように思えるかもしれない。しかしその背景には病んだ思考が潜んでいるのではないか。

■「静かな退職」を希望する人の歪んだ思考3種類

私は、このような「静かな退職」を選ぶ人たちには、歪んだ思考が隠れていると考えている。その思考とはどんなものか? 3つ紹介しよう。

(1)短期的・自己中心的な思考

もちろん「静かな退職」は会社からは歓迎されない。職場の同僚からも信頼されなくなるだろう。だから、まずは短期的で自己中心的な思考を持っているのではないかと考える。目の前の快適さやストレスの少ない状態を最優先し、長期的な視点を持たないのではないか。

つまり、

「目先の小さな報酬よりも、未来の大きな報酬」

に焦点を合わせられないのだ。

人生は長い。もしも25歳~30歳までの5年間「静かな退職」をしていたら、自分自身の市場価値は止まったままだ。それどころか履歴書に書くことがなくなり、次に転職しようとしたとき面接官に「この時期は何をしていた?」と追及されるだろう。

短期的には楽かもしれないが、長期的には自分の成長を阻害し、キャリアの選択肢を狭めてしまうのではないか。

(2)問題回避とリスク恐怖の傾向

次は、問題回避とリスク恐怖の傾向だ。不満や改善点があっても、それを提言したり解決に向けて行動することを避けるクセがついていないだろうか。

仮説思考が弱まるだけでなく、ストレス耐性も落ちていく。チャレンジしないことで、新しいスキルや経験を得る機会も逃してしまう。これも次の転職活動で不利になるだろう。コンピテンシーの弱さが見抜かれてしまうからだ。

(3)メタ認知の不足

最後に、メタ認知の不足だ。自分の働き方や思考を客観的に見直す力が不足してはいないだろうか。

メタ認知があれば転職市場を俯瞰的に見て、自分が活躍できる場をイメージできるだろう。今の職場に不満があったり、力を発揮できないと考えたのなら新天地を見つける努力をすればいい。新たな環境で自分の「未知の窓」を開けばいいのだ。

それができないのは、メタ認知が足りないからではないか。

■この思考から抜け出すには?

名著『LIFE SHIFT』には、人生100年時代を生き抜くために3つの無形資産を構築していくべきだと書かれている。その3つは次の通りだ。

(1)生産性資産(スキルと知識、仲間、評判など)
(2)活力資産(健康、バランスのとれた生活など)
(3)変身資産(自己認識力、多様性に富んだ人脈、チャレンジ精神など)

何らかの事情で十分に働けず、一定期間「静かな退職」状態でいる、というのならともかく、そうでないのなら、「静かな退職」をしている限り、この3つの資産を積み上げていくことは難しそうだ。

負荷を軽くすることで活力資産は蓄えられるかもしれないが、それ以外は手に入れづらくなる。

「静かな退職」は、一見すると穏やかな選択に見えるかもしれない。しかし自分自身の可能性を閉ざす危険な選択でもある。

長期的な視点を持ち、小さなチャレンジを重ね、常にメタ認知を心がけることを私は推奨する。そうすることで、この思考から抜け出すことができると思うからだ。人生100年時代なのだから、特別な事情がない限りは、普通に転職活動をし、自分らしく成長できる環境を探してはどうか。

<参考記事>

理屈っぽくて、融通がきかない人との正しい接し方、話し方

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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