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パーム油燃やすバイオマス発電の異常

田中淳夫森林ジャーナリスト
ボルネオ(マレーシア)にはアブラヤシ農園が地平線まで広がっている

 これまでバイオマス発電の問題点を幾度も指摘してきたが、またもや腹立たしい状況が進んでいる。

 

 なんとバイオマス燃料にパーム油そのものを使うというものだ。

 これまでバイオマス発電の燃料は、木材が主流だった。本来の意図は、製材時の端材とか、山に残す枝葉、残材を使うはずだったが、気がつくと燃やすために山の木を伐りだすようになった。そして合板などにも十分使えるような木材まで燃やすようになっている。

 それでも量的に国産材では無理だとわかってくると、今度は海外からの輸入材に頼るようになる。なかでも大きいのがPKSと呼ばれるアブラヤシからパーム油を絞った後の滓、つまり農業残渣だった。この燃料も問題だらけなのだが、今度は絞ったパーム油そのものを燃やしてしまえ、という発想なのだ。

 そんな燃料にも再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が適用されて高い価格が設定されている(一般木材・農業残渣扱いで1kw時24円)。それは電気料金に跳ね返るだろう。

 現在、認定されたバイオマス発電の設備容量1242 万 kW のうち、9 割以上が輸入バイオマスを主燃料としており、その 5 割近くが PKS、そして約 4 割がパーム油を燃料にする計画だという。

パーム油は、アブラヤシの実から取る植物性油脂だが、今や世界でもっとも生産されている食用油となっている。日本の植物性油脂消費量の約4分の1を占め、食品のほか洗剤や化粧品など多くの用途に使われている。

 生産地は、インドネシアとマレーシア、タイで大半を占める。

アブラヤシのプランテーション
アブラヤシのプランテーション

 関係者の説明では、燃料にするパーム油は、食用油を生成する際に出る非食部分でバイオディーゼルと同じとしている。だが木材と同じく需要が伸びれば全部燃料とすることも有り得るだろう。

 しかも、その生産現場は熱帯雨林を破壊してつくられるプランテーションであり、生物多様性や現地住民の生活を破壊することで知られている。また泥炭地を開発することも含めてCO2 排出係数は石炭よりも高い。つまりCO2を大量に排出するのだ。輸送にかかるCO2排出を考えればさらに意味がない。それにディーゼル発電は完成した技術であり、新技術の開発普及をめざすFITの対象とはなりえない。明らかに目的に反しているのである。

 なぜ、そんなパーム油を発電燃料としようというのか。

 まず液体であるため既存の設備が使えて、コンパクトな規模で行える。だから初期投資が低くなる。燃料投入も簡単で安定して稼働させられる。また焼却灰が発生しないので処分費用が不要……と経営的にはプラス要因が多いようだ。しかし、地球環境的には逆効果だ。

 欧米ではパーム油をバイオ燃料として使うことは制限されている。アメリカでは、パーム油はバイオ燃料として使用すること自体が認められていない。CO2削減効果がないと判断されたからだ。しかし、日本では規制がなく野放図に進められようとしている。すでに京都府福知山市には、2000kW級のパーム油発電所が今夏完成した。

 一体、日本のエネルギー政策はどちらに進もうとしているのだろうか。

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※写真は、著者撮影

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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