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本末転倒の巨大バイオマス発電所の建設が進む

田中淳夫森林ジャーナリスト
バイオマス発電には莫大な木質燃料が必要だ(写真:アフロ)

日本はシャングリラ(理想郷)らしい。

日本人にとって、ではない。海外のバイオマス燃料バイヤーにとって、である。実際、彼らは日本のバイオマス発電市場をこのように表現しているのだ。なぜなら、底無しの需要が見込めるからだそうである。

これまで再生可能エネルギーと言えば、大半が太陽光発電だった。それに風力発電が続いていた。しかし、今年に入ってバイオマス発電が急伸しているのだ。

バイオマス発電の認定容量はFIT(固定価格買取制度)が始まって約3年半で316万kWに達した。とくに今年は続々と大型の発電所計画が認定されている。これらは2017~18年にかけて一斉に稼働する見通しだ。

また経済産業省も、バイオマス発電を2030年度に全電力量の4%程度に引き上げる目標を打ち出した。太陽光や風力などと違って、安定した出力が見込めるからだろう。

認定を受けた中でも最大クラスなのが、愛知県の田原市と山口県の下関市に建設予定の7万4950kW。このほか茨城県の神栖市に5万kW、行方市に2万9400kW、佐賀県の唐津市でも2万5000kWのバイオマス発電所計画が認定を受けた。

いずれも臨海地帯にあるのが特徴である。なぜなら燃料は山からではなく、海から来るからだ。

これらの発電所は、一般木質バイオマスを燃料とする。一般木質バイオマスとは、製材時に出る端材のほか、海外から輸入する木材や油ヤシの殻などを指す。それらは船で港に届くのだ。

これまでバイオマス発電は、主に山林に残された未利用材を使う計画が多かった。その多くが5000kW級。このクラスでは年間6万トンの木材が必要で、これほどの未利用材を国内で調達するのは至難の業であることが知れてきた。そのため尻すぼみになりつつある。

ところが、一般木質バイオマスを燃料にすると、海外輸入で調達することが可能なため、より大規模な発電設備が可能なのだ。7万kW級なら年間80万トン以上の木質燃料が必要となるが、問題ないという。

電力の買取価格(16年度)は、1kW時あたり24円と未利用材(32円)より安くなる。しかし大規模化が採算性を高めている。

木質燃料を売り込むのは、海外バイヤーだけではない。国内の商社や製紙会社各社も、バイオマス燃料の急増を商機到来と一斉に力を入れだしている。もちろん海外から燃料となるバイオマスを輸入するためだ。

だが。それでいいのか。ここで原点に帰ってもらいたい。

一体、なぜ再生可能エネルギー、そしてバイオマスエネルギーに眼を向けたのか。電気料金の値上げを覚悟してまでFITを導入したのか。

一つには、地球温暖化対策だった。再生可能エネルギーは二酸化炭素を発生させないからだ。東日本大震災後に原発稼働が難しくなり、環境に優しいエネルギーを求める声も後押しした。そして使い道が限られ廃棄物扱いの木質バイオマスを利用することは、林業振興、山村活性化に結びつくとも謳われた。

しかし、輸入バイオマスを燃料にするのでは、どちらも無意味となる。輸送には莫大な化石燃料が使われ二酸化炭素を排出するだろう。日本の山林は置いてきぼりになるだろう。それどころか我々使用者の払う電力料金の一部が海外に流出すると考えれば、日本経済にとっても好ましくない。

そしてバイオマスエネルギーとは言っても、使われるのは発電だけ。それはバイオマスの持つエネルギーの2割以下しか利用できず、残りは熱として捨てていることになる。

もはや本末転倒だ。

真面目に日本のエネルギー政策を考えるなら、地球環境を心配するなら、考え直すべきだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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