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2021年、日本は子ども若者にやさしかったか?-子どもの貧困・いじめ・不登校・給付金、こども基本法

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:アフロ)

1.2021年、日本は子ども若者にやさしかったか?

この問いをご覧になってみなさんはどのようにお考えですか?

みなさんは子ども若者にやさしかったですか?

子どもは国の宝だと口先でいうのは簡単ですが、実際に子ども若者を大切にしましたか?

遊んでいる子どもたち、登下校中の子どもたちをあたたかい目で見守っていましたか?

相談しやすい信頼できる大人であろうとしていましたか?

子ども若者のためのボランティアや寄付をしましたか?

「しつけ」「指導」と称して暴言や暴力を加えたり、脅したりしませんでしたか?

高校生・大学・専門学校生や若者に、安い賃金や無理なシフトのアルバイトを強要したりしませんでしたか?

大人と同様に権利と尊厳を持つ相手として、子ども若者に接していましたか?

2.子ども若者を取り巻くこれまでになく厳しい状況が把握された2021年

いっぽうで児童虐待小中高校生の自殺・不登校が過去最悪となったり、いじめ自殺が後をたたず学校・教育委員会が隠蔽する構造が変わらなかったり、子どもの貧困も初の全国調査で貧困世帯の4割が食料を買えない経験があることが判明するなど、これまでになく厳しい状況が把握された1年でもありました。

※末冨芳,不登校・自殺過去最悪、なぜ改善できないか?政府調査・体制の問題点 #子ども基本法 #こども庁,2021年10月14日

※末冨芳,子どもの安全安心はどこへ?内閣府・子どもの貧困対策有識者会議であきらかになった深刻な実態と必要な支援,2021年7月28日

※末冨芳,#最悪のこどもの日 の翌朝に思う #こども庁 は子ども基本法で子どもの声を聴き、子どもを守れ!,2021年5月5日

通学路にも関わらず子どもの命が奪われる悲しい事故、親や家族に殺さた子どもの事件、悲しいつらい出来事も多かったことをご記憶の方も多いでしょう。

3.政府の前向きな動きも増えてきたけれど、チグハグな2021年

子ども若者に冷たく厳しい日本社会ですが、私自身は2021年を振り返って、子ども若者の幸せを考え、なんとかしたいと行動する政治家・大人が増えたことは評価できると思います。

教育政策においては、2021年4月から小学校35人学級がスタートしました。

これは菅前総理大臣と萩生田前文科大臣の強いリーダーシップによるものでした。

GIGAスクール政策による1人1台タブレット・PCも小中学校についてはほぼ配備が完了し、冬場の感染症シーズンを迎えてもオンラインで授業やつながりを保てる条件が日本全国で実現した2021年でもあります。

※末冨芳,40年の停滞は破られた!35人学級から「新たな学び」へブレイクスルーを起こせるか?問われる自治体の力,2020年12月25日Yahoo!記事

子どもの貧困対策については、これまでひとり親困窮世帯に限定されていた臨時給付金を、ふたり親困窮世帯にも支給するという歴史的な政策が実現したことも重要です。

※末冨芳,ひとり親・ふたり親かわりなく困窮する子どもに平等な給付金を!#コロナで困窮する子どもたちを救おう!,2021年2月6日Yahoo!記事

ヤングケアラー対策や、生理の貧困などへの認知と取り組みが進んだことも2021年の評価すべき動きの1つです。

いっぽうで菅前総理は、待機児童解消のために本来は企業が負担するはずだった財源を、高所得層の児童手当を廃止によって子育て世帯に負担させるという不合理な方針を打ち出しました。

※末冨芳,こども庁は財源論と子ども基本法とセットで本気の公約!#子育て罰をなくそう、#児童手当削減やめよう,2021年4月2日

また、東京五輪に際しても、大人へのチケット販売は行われなかった一方で、学校連携観戦に固執し、児童生徒や引率する教職員の健康はどうでもよいのかという批判を浴びました。

※末冨芳,#学校連携観戦 保護者子どもは参加しない勇気を!組織委・都・自治体は子どもの安全安心を守り切れるか?,2021年8月19日

何よりも子どもの貧困の根本的解消のための児童手当・児童扶養手当の増額は歴代自民党政権においていつも実現が拒否されてきたのです。

それは菅政権も例外ではありません、貧困層の4割の子どもが食料を買えない厳しい実態は子ども食堂や子ども宅食などの民間非営利団体の献身的な努力だけでは解消できません。

政府の公助の充実、とくに子ども若者世代への所得再分配の失敗を改善しなければ、とうてい解消は不可能なのに、未だに貧困状態の親子を公助から置き去りにしているのです。

さて菅前総理の退陣を受けて行われた自民党総裁選、その後の衆議院議員選挙では、かつてなく児童手当やこども政策が熱く論じられ、子育て罰を親子に課してきた自民党ですら、こどもの権利に関する基本法の制定や児童手当の拡充を選挙時に掲げたのです。

※末冨芳,【速報】「こどもまんなか」の総裁選討論会―予算倍増・こども庁・子どもの権利―脱子育て罰政党への進化?,2021年9月22日

※末冨芳,#なくそう子育て罰 子ども基本法・子ども予算倍増で主要政党一致、問われる自民党の進化#衆院選2021,2021年10月23日

そして、こども庁、こども政策に関する議論も、菅政権・岸田政権にわたって推進され、2023年のこども家庭庁設置の基本方針が閣議決定されました。

※末冨芳,【解説】こども庁、ここがすごい!幼保一元化よりすごい「ゼロを1にする」こども政策 #なくそう子育て罰,2021年12月12日

組織名称については、虐待被害者からの反対意見もあり、議論の余地はありますが、それでも政府としてこども政策を体系的に推進しようとする方針をうちだしたことは非常に大きな意義があります。

くわえて、子どもを守るデータベースを構築し、プッシュ型支援やアウトリーチ型支援につなげようとするデジタル庁やこども庁(こども家庭庁)の動きも重要です。

いっぽうで、給付金をめぐっては、高所得層や離婚・別居世帯、DV避難者を給付対象から排除する子ども差別を岸田政権も自治体も躊躇なく進めるなど、こども政策を推進し財源も確保しようとする岸田総理の言行不一致という批判も可能です。

※末冨芳,#給付金 岸田総理、首長さん200万人と4万人の子ども差別は嬉しかったですか?#所得制限 #子育て罰,2021年12月28日

政府がプッシュ型支援をしようとしても、子ども差別横行のための装置に成り下がってしまう懸念も大きいのです。

このように、政府のレベルでは子ども若者にやさしく大切にしようという動きと、これまでの自民党や日本の大人の子育て罰体質がせめぎあう状況なのです。

したがって、前向きな動きも増えてきたが、チグハグという2021年の政府の動きの評価となります。

最後に:2022年、日本が子ども若者にやさしくあるために

子ども若者のための財源・人員増、そしてこども基本法を

政治はまだまだチグハグな状態ですが、日本が子ども若者にやさしくあるためには、2022年に岸田政権や自民党が進化することが必要になります。

2022年にはこども庁(こども家庭庁)の設置法も国会に提出されることが報道されており、国会で与野党をあげて子ども若者を大切にするための政策や財源について真剣な議論が行われることが期待されます。

とくに重要なのはこども庁3要件である、子ども若者のための財源増、人員増とこども基本法の推進です。

すでに自民党と公明党はこども基本法の検討を開始したと報道されています(共同通信2021年12月21日)。

こども基本法とは、子どもたちも日本国憲法に定める基本的人権を保障され実現されるべきだという当たり前の原則を、とくに子どもたちについて特出しした法律となります。

子ども若者をとりまく最悪の日本だからこそ、不可欠な法律です。

こども基本法とは簡単にいうと、子どもの「生きる権利」「育つ権利」「参加する権利」「守られる権利」を日本国をあげて実現しようとする法律です。

簡単にいうと子ども若者を大切にし、子ども若者と考え進める日本になるための法律です。

-いじめを受けても隠蔽されず必ず専門家がなんとかする仕組み

-暴力(性暴力)も暴言もなく子どもたちが安心して伸び伸びと活動できる学校や部活、塾や習い事の実現

-人権侵害ではないかという校則を児童生徒と学校で一緒に考え変えられる仕組み

-不登校になっても学び続けられる学びの保障

もちろん子ども若者も成長途上の存在です、だからこそこども基本法は子ども若者の人権だけでなく、子どもが生命や人権の危険があるときに大人に相談したり、子ども若者の考えや行動をサポートしたりする仕組みも盛り込まれることが大切です。

最後に今年も子ども若者を大切にしてきた大人のみなさん、ありがとうございました。

ママもパパもコロナ禍2年目でお出掛けも楽しいイベントも思うようにいかない中で、よく頑張ってこられましたね。

子ども若者支援の現場で頑張ってこられたみなさん、地域で日々子ども若者にやさしくかかわってくださったみなさん、多忙な学校の中でも子どもへのやさしさを大切にくださった教職員・ボランティア・専門職のみなさんのご尽力には、心からの感謝を捧げます。

2022年、日本が子ども若者にやさしくあるために、どうすればいいか?

私もみなさん方と一緒に考え行動していく新年にいたします。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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