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【速報】「こどもまんなか」の総裁選討論会―予算倍増・こども庁・子どもの権利―脱子育て罰政党への進化?

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
日本記者クラブでの総裁選公開討論会の様子(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

はじめに:自民党議員が「こどもまんなか」の総裁選討論会を開催した意義

全候補が子ども関係支出倍増にYES回答

自民党で「こどもまんなか」の政治・政策・予算の実現を推進くださっている国会議員による「こども庁創設にむけて自民党総裁選立候補者より所見表明」が本日9月22日開催されました(Children First の子ども行政のあり方勉強会・山田太郎参議院議員・自見英子参議院議員主催)。

親子に冷たく厳しい子育て罰を課してきた自民党が、それを転換できるのか、私はそれを見極めるために勉強会を視聴しました。

動画は明日9月23日にオンライン公開されました。

こちらからご覧ください。

過去の総裁選と同様に、子ども置き去りの総裁選となる懸念もありましたが、野田聖子候補の出馬により状況は一変しました。

詳しくは以下の記事もご参照ください。

※末冨芳、脱・子育て罰「子どもと現役世代に冷たすぎる日本」を変えられる総裁は誰か、プレジデントウーマン・2021年9月22日

1時間という限られた時間ではありましたが、他の候補も、野田候補を意識し、また若い世代の議員・党員・国民に向け「こどもまんなか」の政治・政策について、とても具体的に論じられていました。

最初の〇×形式の質問では、子ども財源を倍増すること、子ども政策の専任大臣を設置すること、地方と連携した子ども政策の推進については、河野・岸田・高市・野田全候補が〇と回答されました。

こども庁は早急に設置すべき、という質問については河野・岸田・野田候補が〇、高市候補は回答を保留されています。

(なおこの討論会は高市候補のみ、ビデオ所見表明をなさっておられました。)

1.圧倒的に「こどもまんなか」の政治ビジョンが明確だった野田聖子氏

大人だけで回っていく社会からの転換

9月22日討論会では、やはり圧倒的に子どもに関する政治ビジョンが明確だった野田聖子候補です。

国家戦略、安全保障として、子ども政策を重点化することが「真の保守」であると打ち出されています。

その根底には、子どもを大切にできておらずたくさんの子ども若者や親も虐げられている日本のありよう、政治のありようを変えたいという強い覚悟と熱意、やさしさがあることを私も画面越しに感じました。

統計史上最悪となった児童生徒の自殺、虐待死

妊産婦ですら死を選ばなければならない冷たく厳しい日本

これらのつらい子育て罰大国・日本から目を反らしてはならない、この厳しい状態だからこそ「こどもまんなか」の政治を実現しなければならない。

野田聖子さんの言葉で印象に残った言葉の要点を抜粋します。

(以下、すべての候補について、速報のため一字一句正確ではないことをお許しください)

私たちはどんな日本を見てるのでしょうか?

こども庁は子どもを産み育てるだけでなく、子どもに関わる大人の社会も変えていくことでもあります。

こどもまんなかという世界ではじめての政治に取り組むためにも、こども庁設置法案は急がなければなりません。

私の願いは社会の中でいちばん弱いと言われる人たちが、いつも笑顔でいられる国を作ることです。

子どもを産み育てやすい国にすることは国家戦略であるはずなのに、日常的な自民党の活動でもほとんど議題にはなっていない、他の3候補の公約も「こどもまんなか」ではないことが、総裁選出馬の動機になっていることも述べられていました。

野田聖子さんが総裁選に出馬したからこそ、「こどもまんなか」の総裁選になっている、その勇気と意義を私は大きく評価します。

政治家というものは、強くてお金も権力もある大人のために働くものではない、子どもも含む弱い立場の人々に寄り添ってこその政治家である、そのような政治家としての確かな思いと行動を率直に評価したいと思います。

2.現金給付に踏み込んだ高市早苗氏

多子世帯への現金給付・児童手当の18歳延長の検討など緻密な政策パッケージ

こども庁は「令和の省庁再編」の中で

今回討論会では残念ながらビデオ出演でしたが、もっとも具体的で緻密な政策パッケージを打ちだしたのが高市候補でした。

とくに男性候補2人が明言しない現金給付について、具体策を明示しています。

多子世帯への現金給付(第2子・第3子以降の児童手当増額)は従来、明言しておられましたが、児童手当の18歳延長の検討の必要性についても指摘いただきました。

子どもの貧困対策団体が、コロナ禍前から与野党に要望していた事項の1つが、児童手当の18歳延長であり、子どもの貧困の厳しい実態をご理解いただき、総裁選において検討の必要性を明言いただいたのです。

男性育休、子どもの教育格差の縮減策、エビデンスベースドでプッシュ型支援を実現していくことなどの緻密な政策パッケージに目がいきがちですが、「子どもを産み育てやすい環境」、「子どもが健やかで安心して育つことのできる環境」、「誰一人取り残すことのない環境」という3つの環境を日本で実現させていこうというアイディアの根底には、子どもや親の苦労に寄り添う政治家としての姿勢を感じました。

なお、こども庁については「令和の省庁再編、子ども政策推進のための効率的効果的な組織は何かを検討する」とおしゃっておられ、性急な改革ではなく、高市カラーを打ち出す、大胆な構想をお持ちではないかと推測しています。

3.子どもの貧困ゼロ、子どもの自殺・虐待死ゼロを打ち出した河野太郎氏

データベースやデジタル技術を活用した予防・プッシュ型支援

全候補者中、もっとも大胆なスローガンを打ち出されたのが河野候補です。

子どもの貧困ゼロ、子どもの自殺・虐待死ゼロを実現することを明言されたのです。

現金給付にはこれまでいっさい踏み込まれていませんが、子どもの貧困ゼロを達成するには、政府による子育て世代、とくに乳幼児への大胆な所得再分配が必要であることは、政策通でおられる河野氏はよくご承知のことのはずです。

またこれまでの実績にもとづき、データベースやデジタル技術を活用した予防・プッシュ型支援も、強調くださっています。

いまこの瞬間に私も、そのデータベースの構築・運用に政府委員として従事しています。

子どもの貧困ゼロを目指す力強い方針に勇気をいただきました。

党員・議員票を争うという総裁選のゲームのルールの中で、現金給付についてこれ以上、踏み込んだ提言をされることは厳しいかもしれませんが、総裁となられ衆議院選挙を戦われるのだとすれば、児童手当の拡充は避けて通れない争点になります。

「こどもまんなか」の自民党政治が実現されるのか、さらなる進化を期待しています。

4.子どもの命・健康・人権を守るこども庁を明示した岸田文雄氏

いじめ調査第三者委員会設置の必要性にも言及

バランス型の総裁候補とされる岸田候補ですが、公開討論会で私が深い感銘を受けたのが以下の部分でした。

子どもの命、健康、人権を一元的にしっかり見ていくこども庁が大事です。

専任大臣を置くことも含めてしっかり考えていかないといけません。

こども庁がどのような機能を持つかは、菅政権でも検討がはじまったばかりであり、官僚や研究者も確かなビジョンを持つ人はほとんどいません。

これに対し、岸田氏は「子どもを守る」、命も人権も大事にするこども庁の機能を明示されました。

私自身が、こども庁における子ども政策の推進基盤として重視する子どもの権利基本法(通称・子ども基本法)の立法についても、深い理解をいただいているのだと期待します。

また旭川や町田でのいじめ死事件を受けて「痛ましい事件を検証する第三者委員会の公正性独立性を高めることに工夫が必要」と明言されました。

いままでの、いじめ法制の限界については、教育学の研究者である私も指摘してきたところであり、こども庁において、子どもの権利を擁護する職・機関の設置なども含め、具体的な「こどもまんなか」改革が進んでいく可能性にも大きな希望を見出します。

また子育てする親の声に耳を傾けてくださり、子どもが「遊ぶ」「育つ」日本でなくなっていることへの懸念も表明しておられました。

子どもが「遊び」「育ち」「守られる」ことは、わが国が1994年に批准した児童の権利条約でも重視されています。

岸田候補が子どもの権利を理解し、その実現も大切にしてくださる候補であるという姿勢を見せてくださったことが、この討論会の中で、もっともうれしい驚きであったことを述べておきたいと思います。

おわりに:自民党は脱子育て罰政党に進化できるかは引き続き注視

総裁選投票日まで残り1週間。

自民党は脱子育て罰政党に進化できるかは引き続き注視する必要があります。

また衆議院議員選挙の公約でこそ、その真価が問われます。

ジャーナリストも子ども政策を重視した報道も行ってください。

子育てする国民の意見や投票が、日本の子育て罰をなくすためにもっとも重要です。

親子にあたたかくやさしい日本、子育て罰のない日本、そんな日本を一刻も早く実現する政治リーダーの誕生を私も待望しています!

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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