英国と米国を股にかけた「大衆の反逆」が政治の地殻変動をもたらす
フーテン老人世直し録(231)
水無月某日
英国がEU離脱を選択した。フーテンには米大統領予備選でドナルド・トランプが共和党候補の座を勝ち取ったことに続く驚きである。政治の地殻変動が起きていたのは米国だけではなかった。エリートが主導する既成政治に英国でも「大衆の反逆」が起きていたのである。
英国のEU離脱派と米国のトランプ支持者には共通点がある。まず国外からの移民に職を奪われることを恐れる労働者階級が中心で、同時に国家の偉大さを復活させることを夢見る排外主義者である。また富裕層や知識人などのエリートとは対極の大衆そのもので、若者より高齢者が多い。
米大統領候補となるトランプはかねてから英国のEU離脱を支持していたが、離脱が決まったその日に奇しくも英国スコットランドのゴルフ場を訪れていた。今回の英国の選択は米大統領選挙の本選でトランプを有利にするとの見方もある。「大衆の反逆」はいま米国と欧州を股にかけ世界の枠組みを破壊しかねない勢いである。
第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期に『大衆の反逆』を書いて、民主主義と資本主義が生み出した「大衆」の存在を分析したのはスペインの哲学者オルテガである。時代はエリートが主導する社会から「大衆」が主役を務める社会に変わっていた。
オルテガによればエリートとは自分に満足せず努力をする人で、権利より自らに義務を課す人である。一方「大衆」はみんなと同じであることを好み、義務を果たすより権利を主張したがる。
そこでオルテガは、「現代の特徴は、凡俗な人間が自分が凡俗であることを知りながら、敢然と凡俗であることの権利を主張し、それをあらゆるところで押し通そうとするところにある」という名言を残した。
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