休憩0分で働き続ける「教師の働き方」が明らかに。なり手を増やすのに必要なことは
「教師はとても魅力のある仕事。
でも、続けるのはツライ…」
ーーこんなジレンマに苦しむ先生たちの姿が、名古屋大大学院の内田良教授らのグループが行った「学校の業務に関する調査」の結果から浮かび上がってきます。
調査は2021年11月、小中学校でフルタイムで働く20〜50代の先生924名に対して行われました。結果を発表する記者会見が5月13日に行われ、その内容が以下の記事にて詳細に報じられています。
上の記事を、ぜひ皆さんにも読んでいただきたいところですが、本記事でも重要な点をお伝えします。
休憩時間0分、月100時間前後の残業時間
今回の調査では、学校の先生が息つく暇もなく働いている姿があぶり出されています。
調査では、自宅での仕事や土日の仕事なども含む1週間の労働時間と平日の休憩時間を問うており、そこから「総時間外業務」の時間が計算されています。
それによると、小学校教員で平均24.5時間、中学校教員で平均28.5時間。月当たりにすれば100時間前後の時間外労働をしていることになります。
また、平日1日当たりの休憩時間が「0分」という回答が小学校教員で51.2%、中学校教員で47.3%ありました。平均はそれぞれ9.4分、14.6分だそうです。
「過労死ライン」と言われる月80時間を超える労働を、日中の休憩はほぼゼロという状態で続けてるのは非常に過酷です。内田教授は、女性の小学校の先生が膀胱炎になるという話をよく聞くと述べていました。子どもたちが学校にいる時間は、トイレに行く暇すらないのでしょう。
とても魅力ある仕事、でも辞めたい
さらに注目すべきは、教員という仕事を「魅力的」「やりがいがある」と感じている先生はとても多く、それにもかかわらず「辞めたいと思ったことがある」という人が多い点です。
教員の仕事が「とても魅力がある」と答えた20〜40代の先生のうち、半数以上の人が「この2年ほどの間に、教師を辞めたいと思ったことがある」と答えているのです。
この調査グループの一員で県立高校の現役の先生である西村祐二さんは、「教え子に教師という仕事を勧められない」という気持ちを、以下のように吐露しています。
昨年、文科省が「教員不足」を解消するための策としてTwitterを活用した「#教師のバトン」プロジェクトを展開し、それが炎上する事態となりました。(参考:文科省「#教師のバトン」プロジェクトに非難殺到(内田良))
教員という仕事の魅力ややりがいを見える化して志望者を増やそうという狙いだったようですが、まずは学校現場が抱える問題をなんとかするのが先でしょう。そうしなければ「魅力アピールで入ってきた人たちが尻尾を巻いて逃げ出してしまう」と、西村さんは指摘しています。
先生の働き方は子どもたちにも影響
「キツイけれども、やりがいがあるからなんとか頑張る」というのは、典型的な「やりがい搾取」状態です。
頑張れているうちは本人も充実感を感じられますが、いつ心身に不調をきたすか分かりません。急な休職、退職ということになれば子どもたちへの影響も免れません。
今回の調査では、労働時間が長い人ほど「いじめを早期発見できているか不安だ」「準備不足のまま授業に臨んでいる」と答える人の割合が高い、という結果も出ています。子どもたちの様子に目を配ったり、良い授業をしたりという、本来の先生の仕事に力を入れられない状況は、子どもたちの不利益にもつながります。
これは筆者の私見ですが、このような先生の働き方を見る子どもたちが、「働くとはどういうことか」について誤った認識を持つ可能性も懸念されます。
筆者自身が小学生の頃を思い出すと、担任の先生は教室や校庭などで常に子どもたちと一緒にいて、「休憩してくるね」とか「休憩中だから邪魔しないで」といったことを言われた記憶はありません。
当時は疑問を抱きませんでしたが、法律上、労働者には一定時間働いたら休憩を取らせなければいけません。休憩は権利でもあるし、健康的に働いていくために必要なことでもあります。子どもたちが将来「やりがい搾取」な働き方を繰り返さないためにも、一番身近で働く大人の姿を見せている先生が、健全な働き方を体現してみせるべきではないかと思います。
法律の改正や体制の見直しが必要
先生の働き方は、どうしたら改善するのでしょうか。
長時間労働問題については、2020年に文科省が「時間外勤務は月45時間まで」という指針を告示しています。それは各自治体の教育委員会を通じて学校現場にも伝わっているはずですが、実態は月100時間前後なのです。
これは、いわゆる「給特法」という法律の影響が大きいでしょう。給特法では、公立学校の先生は「月額給与の4%」の額がみなし残業代のような形で支給され、それ以外の時間外・休日手当は支給されないことが定められています。
時間数に応じて残業代を払う必要がないため、以前は「出席簿への押印」や点呼で出退勤の確認はしても、労働時間をきちんと記録していない学校が多かったようです。
働き方改革が始まり、学校でもタイムカードでの時間管理が広がってきています。それでも、残業代が出るわけでもなく「時間内に収めなさい」と指導されるだけなら、勤務時間を正確に申告しようという気にならない先生が多いでしょう。「45時間」という上限ができたことにより、逆に「隠れ残業」や「隠れ持ち帰り仕事」が増えている可能性があります。
「月額給与の4%」で時間外労働の手当が賄われるという明らかに実態と合っていない法律は廃止にすべきでしょう。労働時間に見合った給与を支払うことになれば、先生にいくらでも残業させるということはできなくなるはずです。
ただ、残業代というコストだけを気にするのであれば、時間外勤務を記録させず「サービス残業」をさせるという方向に進む危険もあります。やるべき仕事が減っていないのに時間だけ減らすというのは無理がありますから、部活動の指導やテストの採点など、必ずしも先生がやらなくても良い業務は外部スタッフに委託するなどの体制変更も進めていく必要があります。
また、先生がやるべき業務についても、例えば一つのクラスに複数の担任がつくなどチームで仕事をする形にすれば、休暇や休憩を取りやすくなります。
こういった様々な工夫をしやすくするために、学校の予算の仕組みなども見直して行く必要がありそうです。
なお、本調査結果についてのオンライン報告会が5月21日の夜にあるそうです。研究者や学校現場に近い方たちは、この問題の解決の糸口をどのように考えているのか、聞いてみたいと思います。
▼最新調査報告会
「学校の業務に関する調査」速報値の公表
●5/21(土)20時〜21時
●参加無料・申込不要
●登壇者:内田良、斉藤ひでみ他
参考:
- 学校リスク研究所(「学校の業務に関する調査」第1報(学校リスク研究所)
- 小中学校教員の半数が「休憩時間0分」、6割超が「辞めたいと思ったことがある」 名古屋大調査で明らかに(弁護士ドットコム)
- 名古屋大大学院の内田良教授(教育社会学)らのグループが13日に文部科学省で記者会見して明らかにした「学校の業務に関する調査」
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