今夜は十三夜。土曜日(31日)は46年ぶりのハロウィン満月。
五千円札の肖像でも有名な樋口一葉の代表作に「十三夜」があります。この作品は”家”という封建的な制度によって叶わなかった悲恋を描いていますが、元恋人と偶然再会した夜が「十三夜」だったというのがタイトルの由来です。「十三夜」というのは日本独特のお月見の風習で、旧暦九月十三日の夜の月と決まっています。
一方、十五夜は”中秋の名月”とも呼ばれ、「秋の真ん中(中秋)、旧暦8月15日に出る月」という意味があります。今年の十五夜は10月1日でした。対して、十三夜とは中秋の名月である十五夜の約一カ月後にあることから、「後の月(のちのつき)」とも呼ばれ、平安時代から十五夜とともにお月見をするのが習わしでした。
十五夜が中国から伝わった風習であるのに対し、十三夜は日本で始まったものと考えられています。十五夜だけしか見ないことを「片見月」といって縁起が悪いとされるほど大事な行事でした。
また、十三夜のあとには十日夜(旧暦10月10日の夜 とおかんや・とおかや)というものもあります。十五夜、十三夜とあわせて「三月見(さんつきみ)」といい、この三日間が晴れると縁起がいいと言われています。ただ、こちらはお月見より収穫祭の意味合いが強かったようです。
月と日本の風習
”月月に月見る月は多けれど月見る月はこの月の月”(注1)という有名な和歌があります。意訳すれば「毎月毎月、満月を見ているけれど、やっぱり一番いいのは今月のこの月だな」というような感じでしょうか。
この歌は平安時代に作られたもののようですが、出典、作者とも不明のまま、現代に伝わっています。ではこの歌が一番良いとしている月はいつなのでしょう。歌の中に「月」という字が8文字入っていますので、このことから8月(旧暦)の月、つまり中秋の名月を歌ったものということが分かります。昔の人のこうした洒落っ気には感心します。
では昔の人は本当に中秋の名月を最高の月としていたのでしょうか?
これには諸説あって時代背景も違いますから、一概には答えられません。なにせ十五夜、十三夜、十日夜と月を愛でる日がたくさんあるのですから。さらに、平安時代後期に満月になる前の月を見る宴が行われるようになりました。この由来が不明ですが、おそらくこれから季節は冬に向かうので、その前の月明りを出来るだけ楽しんでおこうという意図があったものと私は考えています。
いずれにしても、月しか明かりが無かった頃は、晴天の満月は大歓迎だったことでしょうし、昔の人は本当によく月を見上げていたのでしょう。
月の魔力
一方、外国にも月にまつわる多くの伝説があります。「病気が新月と満月時に悪化する(インド)」「新生児を月の光から隠す(ブラジル)」など、日本が月を愛でていた習慣とは逆に悪いものとする考えがあったようです。アメリカでは満月時には犯罪発生率があがる、夫婦間のもめごとがこじれることが多い、といった報告も。
現在でも月の満ち欠けが珊瑚や虫の産卵に影響があるとされているように、昔から月には不思議な力があると考えられていたのです。
月夜を見上げて
私たち現代人は、夜があまりにも明るくなって月の形や存在に関心を持たなくなっています。しかも、現代は正確なカレンダーと時計があるので、月の形から時刻を知る方法など必要ないでしょう。
しかし昔の人は、どの季節でも直観的に満月なら夕方に昇り夜明けに沈むという事を知っていました。(たとえば、夏なら19時頃、春や秋なら18時頃、冬なら16時頃に丸い月が出てくる)同様に上弦の月(左側が欠けた半月)なら正午ごろに昇って沈むのは真夜中。下弦の月(右側が欠けた半月)なら真夜中に昇って正午頃に沈むという事も分かっていました。したがって、月の形と高さを見れば大まかな日にちと時刻が分かったのです。
こうした予備知識を持って月を眺めると、昔の人の気持ちが少し分かるような気がします。
そして、十三夜の後はハロウィンです。前回ブログ「46年ぶり!!満月のハロウィン」にも書きましたが、今年のハロウィン満月は46年ぶり、次回は38年後です。ちなみに、その日の月の出は東京で16時50分、月が一番空高いところに昇る(南中)のは23時29分です。
コロナ禍で、外出や密を避けながら、近くの広いところやお家から、ひっそりとハロウィン満月を楽しめるといいですね。
なお、今夜は日本海側で曇りや雨となりますが、太平洋側ではだいたい晴れる予想。ハロウィンの日は全国的に満月が見られそうです。
参考文献
注1 「一挙博覧」寛政二年・1790年に掲載
月の魔力 A・L・リーバー著 藤原美子訳 東京書籍刊