大気が膨張 猛暑のカギを握る「シックネス」と地球温暖化との関係
「暑さ寒さも彼岸まで」といいますが、これまでのことわざが全く通用しない時代に入ってきました。今年はお彼岸(9月19日)に入っても、各地で記録的な高温となり、東京や名古屋など35度前後まで上がる地点が続出。静岡では39度を超えました(9月20日)。まるで夏がまだ続いているかのようです。
さらに、これまでに観測史上最も高い気温を記録した地点は西日本を中心に100地点以上にのぼっています。一方、台風10号が日本付近で停滞し、進路が不規則になったことも、今年の異常気象の特徴のひとつとして挙げられます。このように、2024年の夏がこれほど極端な気候になった理由は一体何でしょうか?
地球温暖化と「シックネス」
気候変動の影響を分析する手法の一つとして「イベント・アトリビューション」(注)がありますが、もし地球温暖化がなければ、今回の猛暑は発生しなかった可能性が高いと、9月2日に気象庁・異常気象分析検討会が発表しました
では、どのように地球温暖化が今年の猛暑に影響を与えたのでしょうか?その鍵を握るのが「シックネス」という概念です。シックネスは「層厚(そうこう)」と訳され、読んで字のごとく「大気の上と下の層の厚さ(距離)」を指します。
たとえば500hPaと1000hPaの間で、相対的に暖かい空気と冷たい空気の厚みを比べると、暖かい空気は膨張するためシックネス(層厚)が大きくなります。つまり、シックネス(層厚)が大きいということは、気温が高く、大気が膨張していることを意味します。逆にシックネス(層厚)が小さいと、気温が低く、大気が収縮していることを示します。
2024年の猛暑の特徴は、気温が一時的に下がってもすぐに暑さが戻る点にあります。説明が難しいのでマスコミではほとんど触れられていませんが、この現象を理解するには、先に述べたシックネスという大気の膨張現象を理解することが重要です。
シックネスの影響が大きいので、少しの寒気が流れ込んでも雷が発生する程度で、膨張した空気は再び暑さをもたらします。このように、大気全体が膨張し、温度が高い状態が続いたことが、今年の猛暑の本質的な理由です。そして、この現象は地球温暖化と密接に関係しています。
膨張し続ける大気 異常気象は進行中
上の図は、日本付近を含む中高緯度(北緯30度~90度)のシックネス(層厚)を温度に変換したグラフです。赤色(青色)側は平年より高い(低い)ことを示しています。これを見ると、ここ10年はシックネスが大きい=大気が膨張している状態が続いていて、特に昨年から今年にかけてはグラフを振り切るほどになっていることがわかります。
また上の図は今年6月22日~きのう9月19日までの地上の平均気温の平年との差です。ほぼ全ての地点で平年より1.5度以上高く、6割以上の地点では2度以上高くなりました。(東京+2.7度)実際に大気の膨張にあわせて地上気温も高くなっているのです。
これらの要因を考慮すると、秋以降もシックネスの大きい影響が続き、平年よりも気温が高い秋になる可能性が高いと考えられます。今夏の異常気象はまだ進行中と言えるでしょう
注:イベント・アトリビューションとは、ある年に起きた特定の異常天候や極端現象などに関して、人間活動の影響を評価する試みのこと。
参考