”迷走”した台風10号 なぜ進む方向を見失ったのか?温暖化が招く気象の新常識
台風10号は依然として東海道沖にあって、今後ゆっくりと北上しながら今夜(1日夜)には熱帯低気圧に変わる予想となっています。
今回の台風は日本へ近づくにつれ進路が大きく変わり、いつまでも進路が定まらないうえに、スピードも遅くなるなど、多くの人がイメージする「台風」とは異なる動きを見せました。
この進路のズレに、実は温暖化の影響があると言ったら言い過ぎでしょうか。
以下、台風の動きを振り返りながらそのあたりをご説明します。
ふつう台風が日本の南海上で進路が定まらず迷走することはよくあります。
夏は台風を流す上空の風が弱いことから台風自身が複雑な風をもたらしたり、高気圧に進路を阻まれて停滞するからです。しかし今回の台風10号は上陸してからも動きが遅く、九州から近畿地方にまで進むのに二日以上もかかりました。
なぜこんなことが起こっているのでしょう。その答えは地上だけでなく、上空の風の流れの中にあります。
寒冷渦の影響
上の図は、発生当初からの進路予想図の変遷です。今回の台風の進路予想を振り返ると、発生当初(8/22)は関東から東海に直撃の心配もありました。それが日を追うごとに進路がズレて、日本列島に長い時間影響を与えました。この理由の一因が、前回の記事にもあげた寒冷渦です。
この寒冷渦は、当初からその存在はわかっていて多少は影響を及ぼすであろうと見込まれていました。特に当初の予想で海水温が高いエリアを通るわりに勢力の発達が抑えられた予想がでていたのは、この寒冷渦の影響(鉛直シアと呼ばれる上空と下層の風の違い)が組み込まれていたためと考えられます。
しかし、実際は予想以上にその影響を大きく受けることとなりました。そのため、日本の南海上で大きく西へ進路を取ることになったのです。
偏西風の北偏
その後上陸してからも、台風はスピードがあがらずフラフラと駆け足程度の速度で本州を縦断しました。
本来ならばどこかのタイミングで偏西風が南下してきてスピードがあがり、それとともに温帯低気圧化するのが、いわば台風のセオリーです。しかしながら、今年は上図のように太平洋高気圧が日本の北東方向で強く、偏西風は北海道付近を流れたままでした。そのため、台風は太平洋高気圧やチベット高気圧、関東の南海上にあった寒冷渦など比較的速度の遅い、周辺の風に翻弄されノロノロと本州を縦断することになりました。
台風10号の違和感と温暖化
このような動きは、真夏に起こりやすい「迷走台風」そのものです。
実は真夏でも、上空の寒気が太平洋中部の上空にまで流れ込むことがあり、それが日本の南海上で寒冷渦となって台風の発生に関与したり、台風の進路に影響を与えることはあります。また真夏は偏西風が北を流れているため、夏の台風は速度が遅いというのもよく知られています。
では、今回10号の動きがみせた違和感は何なのか。それは迷走の場所です。
過去にも「迷走台風」と呼ばれたものはいくつもありますが、上の図のように、その多くは日本の南海上で起こっています。
例えば左図の昨年6号は沖縄近海(北緯25度付近)で西へ進路をとり、そのまま大陸へ進むかと思いきや、東へUターン、その後本州へ上陸かと身構えていたところ、本州を避けるように東シナ海を北上するという迷走っぷりでした。
今回と比較すると、10号は北緯35度付近で迷走しているので、その位置が約1000キロ北へ上がっていることとなります。
ひとつひとつの現象は、そのときの気圧配置や上空の流れ、海水温などで説明ができますが、大きな目線でいうとこれは気候帯が北に上がっていると言えないでしょうか。
温暖化が進むと、台風の移動速度が10%遅くなるという研究結果もあります。
なんでも温暖化に原因を求めるものではありませんが、温暖化という気候帯のズレが、台風の迷走位置にも影響を与えている、そんな可能性があるのではないかと思えてなりません。
今後、温暖化が進み日本の夏が亜熱帯化するにつれ予測の難しくなる台風が増えてくるのかもしれません。さらなる研究が待たれるところです。
参考
2020年1月8日気象研究所、(一財)気象業務支援センター発表
「地球温暖化によって台風の移動速度が遅くなる」