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絶対に食べておかねばならない 福岡の豚骨ラーメン「必食」3軒

山路力也フードジャーナリスト
福岡の豚骨ラーメンを語る上で、外すことが出来ない店がある。

老舗が強い福岡のラーメン界

いずれも戦後から半世紀以上愛され続ける「レジェンド」たち。
いずれも戦後から半世紀以上愛され続ける「レジェンド」たち。

 全国屈指のラーメンの街として知られる福岡には、博多ラーメンをはじめとする豚骨ラーメン店が数多く集結している。そして福岡発祥で全国や世界にチェーン展開しているブランドも少なくない。今や福岡に行かずとも日本全国、あるいは世界各国で博多ラーメンが食べられる時代になったが、福岡でなければ食べることの出来ないラーメンもある。

 豚骨ラーメンや福岡のラーメンを語る上で、絶対に食べておかねばならない「レジェンド」については、以前この場で紹介させて頂いたが、いずれも半世紀以上愛され続けている老舗ばかりで、今でも現役バリバリの人気店ばかり。福岡はとにかく老舗の人気が強く、何十年も行列を作り続けている店がいくつも存在しているのだ【参考記事:絶対に食べておかねばならない 福岡の豚骨ラーメン「基本」3軒】。

 ラーメンがブームになり、世の中のトレンドに対して敏感になっていく中でも、福岡のレジェンドは決して揺るがない。余計なことをせずにひたすら同じものを作り続けている強み。しかしながら、半世紀以上前のラーメンは今よりも油分は少なく、骨感も弱かった。その時代のラーメンを今も変わらず食べられること自体がレジェンドの良さであるが、加速度的に進化したラーメンの中で捉えると、味の上で物足りなさを感じる人がいることは否めない。

 老舗なのだけれど、味の上でも物足りなさは皆無。今の時代に寄り添いながらも、古くからの味や暖簾をしっかりと守り続ける。そんな老舗があるのも福岡のラーメンの強みだ。今回は老舗ながらも進化し続けている、福岡で必ず食べておきたい「必食」の3軒をご紹介しよう。

豚頭スープの深みある味わい『ふくちゃんラーメン』(1975年創業)

開店前から行列が出来る人気店『ふくちゃんラーメン』。卓上のガーリックプレス発祥の店でもある。
開店前から行列が出来る人気店『ふくちゃんラーメン』。卓上のガーリックプレス発祥の店でもある。

 創業して半世紀近く経つ老舗ながら、今も開店前から行列が出来る人気店。それが『ふくちゃんラーメン』(福岡市早良区田隈2-24-2)だ。2004年から5年間、『新横浜ラーメン博物館』にも出店しており、関東の人で食べた人も少なくないだろう。

 創業は1975年だが、創業者が体調を崩して親戚に店を託した。店を受け継いだ榊順伸さんが独自に味の改良を重ねて、臭みのない豚骨ラーメンを完成。現在はその息子さんである榊伸一郎さんが暖簾と味を守り続けている。

 『ふくちゃん』のラーメンの特徴は、なんといっても丼から溢れんばかりの豚骨スープ。豚の頭骨のみを使用して一時間ごとに骨を継ぎ足していくことで、いつでもフレッシュな豚骨の旨味と香りが楽しめるのだ。

 先代からのスープの取り方を変えることはない。三代目となる榊さんは、長年愛されてきたラーメンの味を守りながらも、お客さん一人ひとりに合わせて微妙にバランスを変えていくようにした。例えば長年通い続けている年配のお客さんの場合は、塩分は落としながらも昔と変わらない味になるよう味のバランスを微妙に調整している。

 お客さんがお店に入って来た時、食べている時、そして帰る時と、榊さんは厨房で麺を茹でながらも常にお客さんの顔と目を見て仕事をしている。そのきめ細かさがいつまでも愛され続けている理由だ。

進化し続ける羽釜スープ『博多だるま』(1963年創業)

若い人から年輩客にまで愛される『博多だるま』。都内や県外、海外にも進出している。
若い人から年輩客にまで愛される『博多だるま』。都内や県外、海外にも進出している。

 創業は1963(昭和38)年と、半世紀以上にわたり愛されている老舗が『博多だるま』(福岡市中央区渡辺通1-8-25)。地元福岡の人はもちろん、日本各地や海外からも連日客が押し寄せる人気ぶり。都内や県外、海外にも積極的に進出している店だ。

 店主の河原秀登さんは創業者である父親の跡を継ぐ二代目ながら、代継ぎ以前より自身のラーメンブランド『秀ちゃんラーメン』を創業したり、化学調味料に頼らない豚骨ラーメンを作ったりするなど、常に一歩先を見据えたラーメン職人。あっさりばかりが多かった福岡博多の地で、いち早く濃度の高い豚骨スープを手掛けた先駆でもある。

 父親からだるまのバトンを渡されたのは2000年のこと。店の場所も味も変えた。化学調味料や添加物を使わず、チャーシューも部位や製法から変えた。古くからの常連客からはそっぽを向かれたこともあったが、自分の信念を貫き続けて福岡を代表する人気店へと育て上げた。

 『博多だるま』のラーメンは、羽釜で継ぎ足しながら炊き続ける濃厚な豚骨スープが白眉。昔ながらのシンプルな味わいでありながら、今の時代にもマッチしたパンチのある味わいを併せ持つハイブリッド。いち早く手掛けた自家製麺のパツンと歯切れ良い食感もクセになる。

 今もなお味のブラッシュアップは続けながらも、自身の店だけではなく脈々と続く福岡の豚骨ラーメン文化そのものを守り、継承していくことが老舗の役割だと語る河原さん。老舗ながらも攻めの姿勢を取り続ける貴重な存在だ。

屋台の想いを今も継ぐ『長浜ナンバーワン』(1971年創業)

今はなき長浜屋台の想いを受け継ぐ『長浜ナンバーワン』。今年5月、福岡飯塚市に新店もオープンした。
今はなき長浜屋台の想いを受け継ぐ『長浜ナンバーワン』。今年5月、福岡飯塚市に新店もオープンした。

 1971(昭和46)年に屋台として創業。屋台ラーメンの聖地、長浜漁港で圧倒的な人気を誇りながらも、2015年に惜しまれつつ45年の歴史に幕を下ろした伝説の屋台『ナンバーワン』。今はなき長浜の屋台の想いと味を今も受け継ぐ店が『長浜ナンバーワン』(福岡市博多区祇園町4-64)だ。

 長崎生まれの種村剛生さんが福岡に来て最初にはまったラーメンが、サラリーマン時代の先輩に連れていかれた長浜の人気屋台『ナンバーワン』だった。その味に衝撃を受けた種村さんは、脱サラしてラーメン修業の道へ。屋台で14年の修業を重ねて店舗として独立、後に『ナンバーワン』の二代目を襲名することとなった。

 現在『長浜ナンバーワン』は福岡市内をはじめ、都内や県外、海外にも支店があるが、創業の場所である祇園店だけは他の店と違う点がいくつかある。スープは屋台時代と同じ製法で取り、麺はたっぷりのお湯が入った釜に泳がせて平ざるを使って茹で上げる。ラーメンの丼も屋台時代と同じものを使う。屋台時代の味とスタイルを守るために、時間や手間がかかっても、これだけは変えられないと種村さんは語る。

 『長浜ナンバーワン』のラーメンは、濃厚でまろやかながらも臭みのない豚骨スープが自慢。強火でガンガン炊き上げるのではなく、骨がいっぱい詰まった寸胴をゆっくり時間をかけて丁寧に炊いて旨味を抽出。独立した当初は屋台と同じ味を出すのに苦労したが、長年の経験と職人としてのカンで微調整を重ねて現在の味にたどり着いた。人気の餃子もすべて手作りで冷凍などは一切しない。これも屋台時代から変わらぬナンバーワンのこだわりだ。

 屋台時代からのファンも多く、屋台としての再出店を望む声も少なくない。先代が使っていたかつてのナンバーワンの屋台は、今も大事に倉庫に保管されているという。いつかまたこの屋台が日の目を浴びる日を種村さんは夢見ている。

 いずれも半世紀ものあいだ愛され続ける、福岡のラーメンを語る上で欠かせない名店ばかり。福岡でラーメンの食べ歩きをする時には、ぜひとも食べ歩きのリストに加えて欲しい。福岡のラーメンのポテンシャルの深さを体感するはずだ。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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