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正しく理解しておきたい「博多ラーメン」の基礎知識

山路力也フードジャーナリスト
戦後すぐに生まれた「博多ラーメン」の源流を今も味わうことが出来る幸せ

世界中で愛されている「博多ラーメン」

世界に多数店舗を出店する『一風堂』と『博多一幸舎』も福岡に拠点を構える博多ラーメン店だ
世界に多数店舗を出店する『一風堂』と『博多一幸舎』も福岡に拠点を構える博多ラーメン店だ

 「札幌味噌ラーメン」「喜多方ラーメン」と共に「日本三大ご当地ラーメン」として知られている「博多ラーメン」。博多ラーメンとは白濁した豚骨スープに極細のストレート麺を合わせた豚骨ラーメンのこと。その人気はご当地ラーメンという枠は軽々と超え、日本はおろか世界にも広がっている。今でこそ海外でも色々なラーメンが食べられるようになってきたが、海外ではいまだに「ラーメン=豚骨ラーメン」というイメージが根強い。

 日本から世界に進出しているラーメン店の多くは福岡を拠点とする博多ラーメンの店だ。ニューヨークをはじめ海外にも多数店舗を展開する「一風堂」や、台湾で大行列を生んで話題になった「一蘭」、さらにはアジアからアメリカ、南米にまで幅広く出店を重ねる「博多一幸舎」など、海外進出している店のほとんどが博多ラーメンを提供する店であることも、世界における博多ラーメンの認知度の高さの大きな要因になっている。

博多ラーメンと長浜ラーメンは違う

 「博多ラーメン」が日本全国のみならず海外にも広く知られているのに対して、同じ福岡の豚骨ラーメンである「長浜ラーメン」はあまり知られていない。名前は知っていても博多ラーメンとの違いは分からないという人も多いのではないだろうか。白濁した豚骨スープに細麺という組み合わせは同じで、中には「博多長浜ラーメン」などと謳っている店すら存在する。しかしながら、誰もがイメージする博多ラーメンの特徴である「細麺」「替玉」などは、元々長浜ラーメンから生まれたものだ。

長浜ラーメンの元祖『元祖長浜屋』と、博多初のラーメン屋台の流れを汲む『うま馬』
長浜ラーメンの元祖『元祖長浜屋』と、博多初のラーメン屋台の流れを汲む『うま馬』

 長浜ラーメンとは博多漁港に面する長浜で生まれたラーメンで、1952(昭和27年)に開業した屋台「元祖長浜屋」がその発祥と言われている。競りなどで忙しく時間がない魚市場の人たちのために、素早く提供出来るように麺を細麺にして茹で時間を短縮したり、細麺は伸びやすいため大盛ではなく、麺の量は少なくして麺をお替わりする替玉にするなど、元祖長浜屋が発祥とされるアイディアの多くが、現在の長浜ラーメンや博多ラーメンに受け継がれている。

 一方、博多ラーメンの誕生は長浜ラーメンよりも古い戦前のこと。1940(昭和15)年に創業した「三馬路」が博多初のラーメン屋台と言われている。スープは半濁気味のあっさりした豚骨スープで醤油味、麺も平打ち麺で名前もラーメンではなく「中華そば」と呼ばれていたようだ。

 そして戦後の1946(昭和21)年、うどん屋台を営んでいた山平進さんと天ぷら屋台を引いていた津田茂さんが豚骨ラーメンを考案する。進さんが平打ちの麺を作り、茂さんが奉天(現在の中国瀋陽市)で出逢った豚骨スープをヒントにスープを作って、屋台で提供するようになった。のちに山平さんが『博龍軒』、津田さんが『赤のれん』をそれぞれ創業することになり、博多に豚骨ラーメン店が生まれた。

今も味わえる博多ラーメン源流の味

やや柔らかくしっかりと茹でられた平打ち麺が博多ラーメン源流の特徴だ
やや柔らかくしっかりと茹でられた平打ち麺が博多ラーメン源流の特徴だ

 現在の博多ラーメンは長浜ラーメンの特徴を色濃く反映したものが多く、博多ラーメンと長浜ラーメンの明確な差異はなくなっているのが現状だ。スープの濃度や製造方法、さらには麺の形状なども同じ様でありながらも店ごとや創業の時期によって微妙に異なる。サラッとした長浜寄りのスープもあれば、呼び戻し製法によりかなり濃厚に仕上げた久留米のようなスープもある。様々なラーメン文化が融合され醸成されてきた博多ラーメンをしっかりと定義づけすることは難しいが、博多ラーメンの源流を作り上げた二軒の味は今も味わうことが出来る。

博多豚骨ラーメン源流の一つ『博龍軒』
博多豚骨ラーメン源流の一つ『博龍軒』

 『博龍軒』(福岡市東区馬出2-5-23)は、前述した博多の豚骨ラーメンを生み出した原点の店。創業は1952(昭和27年)と、70年近い歴史を誇る博多ラーメン界のレジェンドとも呼べる老舗だ。馬出(まいだし)中央商店街の中を抜けたところに佇む小さな店舗は、創業した場所からは多少移動しているが、馬出という地が博多ラーメンの原点のひとつであることは変わりない。

 小ぶりの丼になみなみと注がれた豚骨スープは、白というよりも茶褐色で醤油の色合いが強く出たもの。豚骨と醤油のやや甘めな味わいで骨髄感もある。自家製の麺は平打ちの細麺で茹で加減はやや柔らかめ、現在の博多ラーメン店にはまず見られない「大盛」がある。チャーハンなどは置かれてなく、ご飯ものは「めし」と呼ばれる白飯のみ。お昼時ともなると常連客が次々と入ってきてラーメンとめしを注文するのが日常の風景だ。

醤油が効いたスープに平打ち麺

博多豚骨ラーメン源流の流れを汲む『元祖赤のれん 節ちゃんラーメン』
博多豚骨ラーメン源流の流れを汲む『元祖赤のれん 節ちゃんラーメン』

 『元祖赤のれん 節ちゃんラーメン』(福岡市中央区大名2-6-4)は、節ちゃんの屋号こそ1984(昭和59)年に開業した店からついたものだが、1946(昭和21)年に東区箱崎で創業した『赤のれん』の嫡流で、赤のれん創業者の津田茂さんを祖父に持つ三代目が暖簾と味を受け継いでいる店。住宅街にある『博龍軒』とは異なり、繁華街の一角にある大きな店舗は、地元客はもちろん観光客や外国人客も多く訪れる人気店だ。

 こちらのラーメンも茶褐色で醤油の味わいがキリッと立ったスープに、平打ちの細麺が合わせられたものでやはり大盛がある。博龍軒よりもワイルドな味わいのスープに、やや柔めに茹でられたしなやかな麺が絶妙に絡み合う。こちらはサイドメニューや一品料理も充実しており、ラーメンとチャーハンや餃子などの定番の組み合わせから、麻婆豆腐や生姜焼きなどの定食もある。

 源流の味から分かることは、博多ラーメンの原型は醤油がしっかりと感じられるスープに、しっかりと茹でた平打ち麺が合わせられているということ。そこにいつしか長浜ラーメンの特徴である白い豚骨スープに硬く茹でた細ストレート麺、替玉などの要素が加わって、現在の博多ラーメンになっていったのだろう。

 博多ラーメンとはどんなラーメンなのか。それをひと言で語ることはなかなか難しい。しかし、その原点の味は今も味わうことが出来る。世界を席巻している博多ラーメンの原型、源流の味をぜひ本場福岡の地で体感して欲しい。

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※写真は筆者の撮影によるものです。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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