ロシアの新総司令官ゲラシモフはどんな人物か。なぜスロビキンと交代したのか。6つの理由
1月12日、ロシアのショイグ国防大臣は、統括司令官の交代を発表した。
昨年10月8日から統括司令官を務めたスロビキン総司令官(航空宇宙軍司令官)は副司令官と降格になり、ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長が統括司令官に任命された。
このことは、クレムリンの権力に近い人々さえ、驚かせたという。
スロビキンは、司令官として初めて権限拡大の恩恵を受けた人物だった。別名「ハルマゲドン将軍」。
2016年に「反乱軍」の抵抗を断ち切るためにシリアのアレッポの空からの破壊を命じ、同年末にシリアの都市を陥落させたことから、このあだ名がついた。
任命されてから、たった3ヶ月で交代。様々な憶測を呼ばずにはいられない。
新しく統括司令官になったゲラシモフとはどういう人物で、なぜスロビキンと交代となったのだろうか。
ゲラシモフ総司令官とはどんな人物か
ヴァレリー・ゲラシモフ、67歳。ソ連が崩壊したとき、30代半ばだった。現在70歳のプーチン大統領と、同世代である。
タタールスタン共和国の首都カザン出身で、ソ連流の実力主義の賜物であり、素晴らしいキャリアの持ち主である。
タタールスタンの質素な家庭に生まれ、ソ連、そしてロシアの主要な軍事学校を卒業し、1997年には軍参謀本部付属の軍事学校を卒業した。
彼は、第2次チェチェン紛争で、北コーカサス軍管区の第58軍の司令官となった。
この紛争中、チェチェン共和国の若い女性を残虐に殺害して有罪となったロシア軍人「ユーリ・ブダノフ事件」というものがあった。ゲラシモフが彼を逮捕し責任を追及したことで、一般に有名になった(チェチェン人はロシアを非難するが、ロシア人の中には、ブダノフの無罪を支持する者が少なくなかった)。
2012年、プーチンにより、ロシア連邦軍参謀総長兼ロシア国防副大臣に任命された。その後、軍歴はシリア、2014年にクリミアとドンバスと続く。
フランスのピエール・ド・ビリエ将軍は、2017年まで仏軍参謀長を務めた人物で、ヴァレリー・ゲラシモフとの会談の思い出をBFM TVで語った。
「私が気づいたのは、彼は一つのものしか認識していなかったということです。パワーバランス(力の均衡)です。言葉の要素ではなく、声の大きさでもなく、本当の意味でのパワーバランスです」と述懐する。
また、ゲラシモフ参謀長は、2014年にはクリミアとドンバスで、ウクライナ領の占領に加わっている。そのため、欧州連合(EU)とウクライナの保安局から逮捕状が発行されている。
ビリエ将軍は、ゲラシモフが会談の中で、軍人のウクライナ駐留を正当化するために、「ロシアに対する西側からの脅威NATOについて、私が認めることのできない攻撃性をもって、私に話し続けたのです」という。
また、ヴァレリー・ゲラシモフは、ロシアの「新世代戦争」論の中核と言われる「ゲラシモフ・ドクトリン」の生みの親として知られている。
2013年2月、軍事科学アカデミーで行われた、ハイブリッド戦争に関する発表である(本当に本人が著者なのかについては異論がある)。
ハイブリッド戦争とは軍事戦略のことで、政治の戦争があり、それと昔ながらの戦争、正規ではない戦争、サイバー戦争をまぜあわせるものだ。フェイクニュース、外交、法律の戦争、外国の選挙介入など、他の影響力をもつ方法も一緒に使う。
ただ「ゲラシモフ・ドクトリン」は、ハイブリッドという言葉から連想されるような新しいものではないという分析がある。
ソ連は、敵陣のはるか向こうで活動する反政府武装集団への軍事支援を行って、隠蔽しようと努力してきた。それの継続にすぎないという評価である。
なぜ総司令官は交代したか
昨年の2022年10月、スロビキンが権限を拡大した総統括司令官に任命されたとき、ロシア国家はプロパガンダを張った。
まるでロシア軍が重ねていた失敗の状況(つまりウクライナ側の成功)を一変させる、一大事件であるかのように。
このような異例の方法で人事を公表したのは、クレムリン自身であったと、『ル・モンド』が報告した。
それなのに、3ヶ月で更迭。
どのような分析が欧米メディアでなされているか、紹介したいと思う。
1、体系的な問題
まず、米国防総省のライダー報道官は12日の会見で、ロシアのウクライナ戦争における体系的な問題が、最近の司令官交代につながった可能性が高いとの見方を示した。
これは独自の見解とはいえない。当のロシア国防省が公式発表で、交代をそのように説明しているからだ。
ロシア国防省の公式発表によると、この人事は3つのことに関連しているという。
1)(特別軍事作戦の)実施において解決される(べき)任務の規模の拡大。
2)軍隊の職務と各支部の間のより緊密な相互作用を組織する必要性。
3)同様に、すべての種類の支援の質と、指揮統制の有効性の改善。
言い換えれば、以下のようになるのではないか。
1)今後、戦争(領土奪取)の規模を拡大する。そのために権限も拡大する。
2)今は軍の各組織や職務が縦割りになっており、バラバラで困っている。これを改善して、一体性のあるものにしなくてはならない。
3)今はすべての種類の支援の質が満足できるレベルにない。指揮統制もバラバラで効果に疑問符がつくので、すっきりと改善しなくてはならない。
2)と3)は明らかに、以前から続く「体系的な問題」を語っている。構造的と言ってもいい。
ライダー米報道官は、「われわれは、兵たんや指揮統制の問題、継続性の問題、士気、ロシアが設定した戦略的目標を達成できていないという観点からこの状況について議論した」と説明した。
2、ロシア国防総省の優位性を示す
ロシア内部で権力闘争が起きている。そのためにこの人事が行われたとする説である。たくさんの識者が指摘している。これに反対する意見は、ほとんど聞いたことがない。
スロビキン前統括司令官は、ワグネル・グループを率いるオリガルヒ、エフゲニー・プリゴジン氏の公のお気に入りであった。かつ、ショイグ国防大臣のライバルであると言われてきた。
つまり
スロビキン前統括司令官 &プリゴジン(ワグネルのトップ)
VS
ゲラシモフ新統括司令官 & ショイグ国防大臣 のように言われている。
多くのロシアのミルブロガー(軍人でブログ等を書く人たち)やシロビキ(治安や国防関係省庁の関係者)は、クレムリンの戦争遂行のやり方を批判してきた。誤解を恐れずに言えば、甘すぎる、無能だ、という批判である。
ロシア軍に大変強く批判的なモスクワの超保守界は、ワグネル・グループがウクライナにおけるロシアの数少ない成功の先頭に立ったと考えている。そして、ロシア国防総省を批判するのである。
そのため、ワグネル VS ロシア国防総省 の様相を呈している。
つまり危険なほど単純化するとーー
スロビキン司令官・プリゴジン(ワグネルのトップ)・超保守派や超国家主義者・シロビキ・ワグネル
VS
ゲラシモフ参謀長・ショイグ国防大臣・保守派・国防総省
となる。ただし「主戦派」という時は、どちらなのかは不明である。
ワグネルのプリゴジンは、2022年5月にロシア軍が首都キーウ等から撤退した後ごろから、ロシア国防総省の戦争遂行をますます批判していた。
さらに、ドンバスのロシア武装勢力の元司令官で、著名なミルブロガーであるイゴール・ガーキンは今年の1月10日に、これまでで最も直接的なプーチン批判を行い、プーチンの解任を支持すると大きく示唆した。
だから政権は彼らに対して、ロシア国防総省のほうが上なのだと示すための、政治的決断をしたというのだ。アメリカのシンクタンク戦争研究所は、そのように主張している。
「ウラジーミル・プーチンからエフゲニー・プリゴジンへの、『好き勝手やっていいと思うなよ、という戒め』と見ることだろう」と、英バース大学のロシア政治専門家スティーブン・ホール氏はFrance 24に語る。
ホール氏は、今回の人事によって「イデオロギー的にプリゴジンに近いと考えられている前任者のスロビキンよりも、ワグナー・グループに与える自由度はかなり低くなると思われる」という。
また、この人事は、ショイグ国防大臣の肩の荷を軽くするものでもあるとも説明する。「これまで、自分の背中を刺すために時間を使っていたスロビキンと、もう付き合う必要はない」とも語る。
しかも、リマン陥落の責任者と糾弾されて解任された、ラピン司令官(大佐)が、ロシア陸軍の参謀総長に任命された。復権と言える。
彼は、ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長や、プリゴジンをはじめとする強硬派から批判された経緯がある。
(ただし、プロパガンダに満ちたテレビでは、リマン陥落さえまともに報道されていないという)。
ロシアメディアは情報筋の話として、ラピン氏の復権、陸軍参謀総長就任は「軍に盾突くな」というプリゴジン氏への警告だと伝えた。BBCが報じた。
外交政策研究所の上級研究員でロシア軍の専門家であるロブ・リーはツイッターで、「ウクライナの統一司令官として、スロビキンは非常に強力になっており、プーチン大統領と話すときに、ショイグ国防大臣やゲラシモフ参謀長を回避していたようだ」という。
もしこれが本当なら、二人はさぞかし面白くなかっただろうし、指揮統制や沽券に関わると憤慨していただろう。
米戦争研究所は、プーチン大統領が、シロビキ系の軍事ブロガーに媚びる試みから脱皮しようとしていることを示唆するもの(つまり、今まで彼らに媚びてきた)であるかもしれないと分析する。
ホール氏は、スロビキン司令官は今後、ゲラシモフ新統括司令官が転ぶように仕向けながら、実際には今までと同じように続けるのではないかと述べている。
3、失敗したから更迭した
2022年10月にスロビキンが職務につくと、ウクライナの民間インフラに対する大規模な爆撃作戦が開始された。
この戦略は、ウクライナ社会を降伏寸前まで追い込むことを意図したものだったが、期待された結果をもたらさなかった。
2022年2月の攻勢開始後、最初に占領された都市で、重要な地方首都ヘルソン。11月11日にウクライナ軍が奪還して、ロシア軍が撤退したことも記憶されている。
そして12月31日の夜、ドンバス州のマキイウカへのウクライナ軍の攻撃は、動員されたロシア兵を多数殺した。数十人か数百人か。彼らが使った携帯電話で居場所が知られてしまったという失態。ロシア国防省は、公式の死者数を89人と発表したが、これは事件になった。
このような失敗をしたので、更迭したという意見である。
ロシアのテレグラム(SNS)で100万人以上のフォロワーを持つロシアの軍事ブロガー「Rybar」。当局の厳しい管理下にある。
スロビキン将軍の「疑わしい」結果に躊躇なく言及していると、『ル・モンド』は報告している。
このことは、英国国防省の意見にも一致するかもしれない。
「劇場司令官としての総司令官の配置は、ロシアが直面している状況の深刻さが増していることを示すものであり、作戦がロシアの戦略目標を下回っていることを明確に認識するものである」と発信している。
ただ、この見解には異論もある。
マキイウカで動員兵が殺されたことで批判されたのは、ワグネルではなく、正規軍のほうであるというのだ。
プリゴジンのほうは、ドンバス州のソレダルでワグネル・グループが「勝利」と発表して以来、誇り高い男を演じ続けていたという。
ロシア軍はこの姿勢を快く思っていなかった。参謀本部は、正規軍の空挺部隊が戦闘に大きく貢献したことを急いで明言し、ワグネルだけによる勝利ではないと主張した。
そして英国国防省が分析するように、今回の人事は「戦争の遂行能力の低さをゲラシモフのせいにしてきたロシアの超国家主義者や軍事ブロガーのコミュニティの多くから、極めて不愉快な思いで迎えられる可能性が高い」のである。
4、ヘルソン撤退だけが仕事だった
なかなか興味深い意見がある。
「Republic(共和国)」という名前の、ロシアの独立系メディアがある。
戦争前、2010年に同サイトは、ROTOP(Russia Online Top)コンテストの「今年の情報サイト」カテゴリーで1位を獲得した。しかしこのメディアの会社は、2021年10月、ロシアで「外国代理人」としてレッテルを貼られた。『ル・モンド』によると、現在亡命中のようだ。
ドミトリ・コレゼフ編集長は、こうした指導者の交代は「スロビキンの任務は、ヘルソン(州都)を明け渡すという『難しい決断』(当時の言葉)を下すことだけだったことを示唆しているようだ」と指摘したという。
スロビキンが10月に総司令官になって翌月の11月、露軍が制圧できた唯一の州都ヘルソンから撤退しなくてはならなかった。プーチン大統領が、ヘルソン州、ザポリジャ州、ドネツク州、ルハンスク州の4つを「併合」、この地域は「永遠にロシア」だと宣言してから、わずか6週間後のことだ。
しかし、実際には4州の全領域を支配したわけではないのは、ご存知のとおりだ。ドニプロ川をはさんで、ロシアは中途半端に川の西側、つまりウクライナが守る側を支配していた。
スロビキンの就任前、『ニューヨーク・タイムズ』紙で、名前のないのロシア軍将校がヘルソン(州都)からの撤退を進言し、プーチンがそれを拒否したという報道があったという。
ロブ・リー上級研究員は、この報道について、「スロビキンはドニプロ川を渡って撤退しようとしたが、プーチンに基本的にダメだと言われたと私は解釈しています。ドニプロ川は大きな川であり、大きなバリアであり、ロシアにとっては戦線を固め、他の場所で前線を維持するための容易な方法なのです」と述べる。
リー研究員は、この撤退の措置はロシアの戦線に安定をもたらしたと、スロビキンの能力を評価している。
当時、ロシア・チェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフと、ワグネルのプリゴジンも、ヘルソン(州都)撤退を進言したスロビキン司令官の判断を讃えていた。
しかし、BBCの報道によると、ロシアの主戦派ブロガーたちの意見は異なっていた。彼らは撤退について、怒りの投稿をせっせと書き続けていた。
「ロシアの希望が殺された。絶対に忘れない。この裏切りは何世紀も、自分の心臓に刻まれる」(「ザスタフニ」)
「プーチンとロシアにとって、とてつもない地政学上の敗北だ(中略)国防省はとっくの昔に社会の信頼を失っているが(中略)大統領への信頼もこれで失われる」(「ズロイ・ジュルナリスト」)
ヘルソンの撤退については、スロビキン司令官と協議後に、ショイグ国防相が撤退を命令した様子を、テレビで流している。テレビには(おそらくわざと、責任逃れのためか)登場しなかったプーチン大統領の威信をも揺るがせたのだった。
スロビキンの進言を受け入れた形で、撤退。彼に「汚れ役」を負わせた形になった。だから「スロビキン司令官には、ヘルソン撤退という軍事戦略上は必要だが不名誉な役割をやってもらえば、それで結構」という、いわば陰謀論的な人事説が出てくるのだろう。
しかし、それは陰謀ではなく、むしろ能力の問題だったようでもある。
正規軍は、ソ連をひきずる官僚組織にどっぷりつかって、能力を疑われている。スロビキンは、非難されるのを覚悟で、西岸撤退という合理的な判断を下せたということだ。
スロビキンは56歳で、ソ連崩壊時にはまだ25歳だった。若い学生のような年代時に、ペレストロイカを経験した世代である。
とはいえ、プーチン大統領は撤退には反対していたようだ。受け身の姿勢で西岸撤退とスロビキン総司令官就任を承諾したが、主戦派は予想どおり撤退を屈辱と捉えて怒ってしまい、自分の立場も揺らいでしまった。
その後戦況も思うように改善しなかったので、その3に挙げた「失敗」を理由に降格させてしまった、という流れの可能性は否定できない。
5、ゲラシモフを調整役に
プリゴジンは、総司令官から、副総司令官に「降格」になった。
とはいえ、ゲラシモフ参謀長は制服組トップであり、輝かしい経歴をもち、ロシアの軍事でナンバー3と言える人物だ(大統領、国防大臣に次ぐ)。年功序列からもスロビキン氏の先輩である。
参謀総長がトップに立つのは異例とはいえ、ある意味、あまり変わったとは言えないと分析が可能なことを、CNNや英ガーディアンは伝えている。
序列から言えば、スロビキン降格というよりは、さらに上が登場したという意味だろう。
前述のコレゼフ『共和国』編集長は、「参謀長が指揮を執るのは、敗北の時代が終わり、ロシア軍が新たな大攻勢に備えていることを期待しているからだと考えることができる」と言っている。
ゲラシモフ参謀長の登場は、戦線での動きと重なっている。ドンバスのソレダル村の運命は、広報によれば完全には決まっていないようだが、ロシア軍の侵攻は疑う余地がない。数ヶ月間見たこともない前進である。
ソレダル陥落が確認されれば、ロシア軍には久々の勝利であり、新たな展望が開けそうである。
この新しい参謀長の任命は「本質的に、春には大規模な攻勢を期待すべきであり、部隊間のより良い調整が必要であることをプーチンも認識していることを確認した」と、英国王立サービス研究所のロシア安全保障問題の上級研究員マーク・ガレオッティはツイッターで述べている。
陸軍参謀総長とウクライナ作戦司令官という2つの顔を持つヴァレリー・ゲラシモフは、この調整を改善するためのあらゆる手段を手にしていると思われるという。
6、プーチン大統領の策略
最後に、プーチン大統領のポジションについてである。
政治学者のタチアナ・スタノバヤは、「彼はさまざまな人物を試し、その間を行き来し、その時々に説得力のありそうな人物にチャンスを与えるのです。今日はゲラシモフが説得力があるように思えたが、明日は別の人物になるかもしれない」と指摘する。
「実際には、問題は達成すべき任務にあり、人物にあるわけではありません」、「プーチンは、潜在的な敗北の中で有効な戦術を模索している」とも言う。
米国のニューラインズ研究所(地政学)の外部コンサルタントであるジェフ・ホーンは、この決定は、ロシア大統領が「最も得意とすること、つまり協力者同士を戦わせ、彼らが互いに議論するのに忙しく、ロシア大統領がレフェリーの役割を果たせるようにする」という、「教科書のような例だ」という。
クレムリンの主人は、宮廷内のある派閥が優位に立ちすぎて、「公の場で居心地の良さを感じ始める」ことを好まない、とホール氏は付け加える。そのため、ヴァレリー・ゲラシモフには、ワグナー・グループを少しずつ軌道に乗せる権限が与えられていたのだろう、という。
プーチンは、ウクライナでの軍事的な後退が裏目に出る可能性を察知していた。「今後、ロシア軍にとってウクライナ情勢がさらに悪化した場合、ゲラシモフは最前線に立ち、他人のせいにすることができなくなる」と指摘する。
たとえ失敗したとしても、プーチンはゲラシモフを排除する口実を得ることができる。ゲラシモフを正規軍の無能のやり玉にあげてきた超保守界を喜ばせることができる。プーチンはどちらに転んでも安泰ということになる。
このような状態をさして、ガレオッティ上級研究員は、「(ゲラシモフの)降格のようなもので、少なくとも最も毒のある聖杯だ」と述べた。
この「毒のある聖杯」という表現は、欧米メディアのあちこちで使われた。
「毒入り聖杯」でなければ「避雷針」だ。前述の軍事ブロガー「Rybar」は、ゲラシモフが輝かしい経歴をもっているにもかかわらず、今や「避雷針」の役割を果たし、さらなる挫折の場合には爆発する可能性があると指摘している。
以上、欧米メディアに見られる6つの理由を解説した。
おそらく全部本当なのだと思う。ただ、どうしても今ひとつ納得できない。
筆者は7番目の理由を考えてみた。それにはワグネルと民間軍事会社の本質を考えなくてはならない。そもそもなぜ、国防総省とワグネルは対立しているのだろうか。