ロシアからのガスが年末で停止。解決への奇策と、ウクライナとスロバキアの大げんか。EUはどう動くか
いま欧州は、とても重要な転換期に直面している。それはエネルギー問題だ。ロシアからのガス問題再び、である。
現在、ロシアからEU加盟国へのパイプラインによるガス輸送は、2ルートだけが残っている。そのうちの一つが、ウクライナを通って東欧に到達するものだ。ウクライナでの輸送契約が今年で終了するが、同国は更新しないことを決定している。
今年最後の欧州理事会(EU首脳会議)では、この問題が主要テーマの一つになった。特に、ロシアからのガス輸入継続を望むスロバキアのフィツォ首相と、ウクライナのゼレンスキー大統領は険悪と言えるほどの言い争いをしたようである。
そして遂には今月22日、エネルギー問題を話し合うために、フィツォ首相はプーチン大統領に会いにモスクワまで行ってしまった。当然のことながら、非難を浴びている。欧州の政治家だけではなく、スロバキアの野党からも。
戦争の最初から問題だった、ロシアからのガス輸入問題。現状はどのようになっているのだろうか。
EUは、2027年までにロシアからのガス輸入をすべて停止するという目標を掲げおり、EU加盟国と共に、大車輪の努力をしている。ただし拘束力はなく、まだ途上である。
EUのロシアからのガス輸入は、2021年に比べると、2024年は約77%も減った(TWhでの計算)。残りの23%は、液化天然ガス(LNG)と、ウクライナ経由のパイプライン、そして今後、大量輸送ではないが唯一残る予定のパイプライン、トルコストリーム & 支流のバルカンストリームである。
(黒海の底を通り、トルコ・ブルガリア・セルビア・ハンガリーに至る。下図ではSouth Streamと書いてあるライン)。
※ブリュッセルのシンクタンク「ブリューゲル」の報告書による。
ウクライナを経由するガスは、2021年ではEUにおけるガス輸入量全体の11%だったが、2024年は5%と減っている。
たった5%と思うかもしれないが、影響を受ける国は限られている。特にインパクトが強いと言われるのが、スロバキア、ハンガリー、オーストリアである。ウクライナ経由のガスは、2023年には需要の約65%であったという。
フィツォ首相は、今年最後のEU首脳会議が終わった後、記者会見で戦闘的な発言をした。
「もし誰かがスロバキア共和国の領土へのガス輸送を妨げようとしているのなら、もし誰かがヨーロッパ領土でガス価格の上昇を引きこそうとしているのなら、もし誰かがEUに莫大な経済的損害を与えようとしているなら、それはゼレンスキー大統領だ」
「彼には神経質になる権利がある。私は彼の立場にはなりたくない。なぜなら国が悪戦苦闘しているからだ」と言い、スロバキアはウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を決して認めないと、改めて主張したのだ。
そして今月22日、フィツォ首相はモスクワに赴き、プーチン大統領と会談した。
彼は、戦争開始後モスクワに行ったEU加盟国の首脳の三人目である。一人目はオーストリアのネハンマー首相(2022年4月)、二人目はハンガリーのオルバン首相(2024年7月)である。
3カ国ともそろって内陸国で海がなく、液化天然ガスを自国の港で輸入することができない。この3カ国の首脳だけがモスクワ訪問をしたのは、偶然ではないように思える。
EUの結束を乱すと、結局自国が不利になるのではと思うのだが、経済・ビジネスの観点だけで見たら、ガス輸入継続を訴える正当性が全くない訳ではない。
特に、この3カ国の露ガスプロムとの長期契約は、終わるのが当分先という事実がある。スロバキアは2028年、ハンガリーは2036年、オーストリアは2040年である。経由国ウクライナの契約だけが、今年で終わってしまうのだ。
スロバキアとウクライナ、対立の内容
それでは、どのような言い争いをしていたのだろうか。
細かい話になるが、「歴史は細部に宿る」というように、大変興味深い話なので紹介したい。
もともとフィツォ首相は、親露的な首相で、ウクライナとの対立は今に始まったことではない。
首相は、12月19日の主にウクライナ問題でのEU首脳会議に出席する前に、スロバキア議会の欧州問題委員会で演説した。ここでも、10月に続いて、「ウクライナはNATOに招待されない」と、また発言している。
そして、同国内でも物議をかもす発言をした。
「ウクライナを待ち受けているのはミュンヘンだ」。そしてウクライナが戦争に負けているのは明らかだと主張した。
これは、1938年のミュンヘン合意をほのめかしたものだ。英国とフランスは戦争を回避するために、ナチス・ドイツによるチェコスロバキアの一部併合を黙認した協定だ。このことは、裏切り行為として見なされているという(西側では、この妥協が第二次大戦へとつながったという後悔になっている)。
当時の地図。1のズデーテン地方は第三帝国(ナチス・ドイツ)が1938年9月ミュンヘン合意で併合。2のトランスオルザはポーランドが10月に併合。3と4の南スロバキアとカルパティア・ルテニアは、ハンガリーが10月と11月に併合した。どれも主に「自国民の保護」が名目だった。5のチェコと6はスロバキアにとって、ドイツだけではなく、周りの国はすべて乗じた「加害国」だった。英仏が(ソ連を警戒したために)ドイツに妥協して守ってくれずに見放したせいだ、という思いなのだろうか。
フィツォ首相は、歴史との類似点を見出し、ウクライナも同様の運命をたどると予測したのだ。
「ウクライナはNATOの招待を受けず、領土の3分の1を失い、西側諸国はウクライナに軍隊を送るだろう」とも言った。
フィツォ首相から見ると、現状は過去の再来であり、フランスとイギリスはウクライナを裏切ろうとしていると見えるのだろうか。底にあるのは根深い不信感か。そして、エネルギーをいま西側からの輸送に頼るのは、金銭面だけではなく地政学的にも、自国の地位を弱くしてしまうと考えているのだろうか。だから、ロシアに向くのか。
また、「我々はウクライナへの援助を人道的、民間的な援助としか考えていない。今後ウクライナに武器を供給することはない」、「軍事作戦の即時停止が、ウクライナにとって最善の解決策だ。EUは武器供給国から平和推進国へと移行すべきだ」とも述べた。
一方、エネルギー問題に関しては、もしパイプラインが止まっても、西側諸国から「何の問題もなく」ガスを購入できると認めた。この点には、きちんと信用はあるようだ。EUの構築のおかげで、スロバキアの立場は、ミュンヘン協定時代と同じではないという認識はあるのだろう。
ただ、より高価になると主張した。
もし他国からガスを購入すると、輸送費が2億2000万ユーロ増えるし、欧州のガス価格も上昇する可能性があるとしている(これは根拠のない発言ではない)。
彼によれば、スロバキア自身のガス消費量は、冬の寒さにもよるが、40−60億立法メートルくらいだという。
また、ウクライナ経由のガス供給量は、全体で140億~150億立方メートル程度だろうと述べた(実際の契約は年間400億立法メートルだが、供給が大幅に減少している)。
この量には、スロバキア経由で、オーストリアとチェコに流入しているガスも含まれている。この通過料として、スロバキアには年間約4〜5億ユーロの収入という多額の収入を得ていることを、首相は強調した。
「パイプラインを枯渇させるべきでしょうか? 何のためですか? ロシア人が嫌いだからですか?」とスロバキアの国会議員たちに問いかけた。「私はロシア人が好きです」。
さらにフィツォ首相は、欧州委員会のデア・ライエン委員長と会談し、この問題について話し合う予定であると述べた。そして、来年もガスルートを開通させておくための代替案はあり得ると語ったのである。
そしてEU首脳会議は終了した。ゼレンスキー大統領とフィツォ首相は、別々に記者会見を開いて、どちらもいかに会議が不穏だったか、うかがわせる発言をした。
ゼレンスキー大統領は記者会見で、「ロシア産ガスの輸送を延長するつもりはない」と語った。
「我々は、彼らが我々の血でさらに何十億ドルも稼ぐことを許さない。そして、ロシアから安く何かを手に入れることができる世界のどの国も、それが1ヶ月後であろうと1年後であろうと、最終的にはロシアに依存するようになるだろう。それが彼らの政策だ」と言った。
そして、「スロバキアの首相はこのことに言及したが、私は彼に直接説明した」、「ロシアからであろうと、大元はロシアからであろうと、同じことだ。そうして彼らは戦争でお金を稼ぐ」。
これは何のことだろうか。
ブリュッセルの著名なシンクタンク「ブリューゲル」が、来年以降にどのようなシナリオがあるか、3つの可能性を挙げたのだが、そのうちの一つを指していたようだ。
ロシアからのガスを、アゼルバイジャン産にするというものだ。
EUの取引業者はアゼルバイジャンからガスを買い、アゼルバイジャンはロシアからガスを買う。こうしてガスは「アゼルバイジャン産」となる――というわけだ。
このことを、ゼレンスキー大統領は否定したようだ。
ちなみに、フィツォ氏が「スロバキアは、年間5億ユーロの損失を被るだろう」と述べた後、ゼレンスキー大統領が、もし「ブラチスラバ(スロバキアの首都)がロシアの資産からこの資金を受け取ったら、フィツォ氏はウクライナのNATO加盟を支持するか」と尋ねた。首相は「私はもちろん、絶対に支持しないと言った」と述べたという報道があった。
しかし、これがEU首脳会議の間の話なのかは、確認できなかった
さらにゼレンスキー氏は、我々は率直でオープンなのがと前置きをした上で、「スロバキアが金を失うかもしれないとか、ロシア産以外の天然ガスを買うのは高くつくとか言うが、ウクライナはもっと多くのものを失った。率直にいって、戦争の最中にお金の話をするのは、少し恥ずかしいことだ。なぜなら私達は国民を失っているからだ」と述べた。
ただ、大統領は禁止措置に例外を一つ提示した。それは、欧州の買い手が戦争が終わるまでロシアに支払いをしないことに同意すれば、ウクライナはロシア産ガスの輸送を許可するというものだった。
「我々はそれについて検討する」と彼は述べた。「しかし、我々はロシアに戦争に投入される何十億ドルもの追加資金を稼ぐ機会を与えるつもりはない。」
このゼレンスキー氏の発言に、フィツォ氏は記者会見で驚きを表明した。
確かに首脳会談は非公開で行われたもので、彼のしたことは、いわば「暴露」と言えないこともない。フィツォ首相がスロバキアの利益を脅かしていると非難したことで、首脳会談での緊張は高まったという。
おそらくゼレンスキー大統領は、フィツォ首相の言い分に我慢がならなかったので、記者会見で一部の「暴露」に及んだのではないか。
フィツォ首相は、ロシアへの支払いを放棄するという同氏の考えを「馬鹿げている」と非難した。
「ガスを無料でくれるなんて、いったいどんなバカ者だ? これが行き過ぎであることは明らかだ」、「我々はどこでもガスを買うことができる。アゼルバイジャン産も買えるし、望むどんな手段も講じることができる」と言った。
そして、特にウクライナ問題に関して、首脳会談がこのような展開になるとは予想していなかったと認めた。
輸送停止後の卸売価格の上昇については繰り返し警告した。
「東から西へのガスの流れが止まれば、国際市場でのガス価格に圧力がかかり、全体としてEUに多大な経済的損失をもたらし、それが後になって実感されることになるだろう」
「我々はウクライナを支援しているのに、一体なぜこのような代償を払わなければならないのか?」とフィツォ氏は疑問を述べた。
フィツォ氏はまた、ウクライナを横断するガスパイプラインが運行を停止した場合、交戦国のいずれかの軍事目標になる可能性があると警告したが、どの国かは明らかにしなかった。
「このパイプラインが枯渇し、ウクライナのインフラが使用されなくなった場合、このインフラが維持されるという確実性はどの程度あるのか?破壊されないという保証はあるのか?」と彼は述べ、ノルド・ストリームへの攻撃と「同様の」事件が発生する可能性があると指摘した。
そしてフィツォ首相は、キーウとブラチスラバの間で仲介し、拡大する紛争の解決策を見つけるよう欧州委員会に直接要請した。
では、EUの立場はどうか。
欧州委員会の広報担当者は、ユーロニュースへの声明で、輸送契約の更新は、ロシアのガスとのあらゆる関係を断つという、EUの目標に反すると述べた。
「欧州委員会は、ウクライナ経由のロシア産天然ガス輸送の継続には関心がない。欧州委員会はこうした協議に関与しておらず、促進もしていない」と報道官は述べ、EUは移行に向けて「十分な準備ができている」と述べた。
「ウクライナ経由の輸送終了がEUの供給安全保障に与える影響は、限定的だと予想している。現在ウクライナ経由で輸送されている年間140億立方メートルは、LNGと、代替ルートを使ったロシア以外からのパイプラインによる輸入で、完全に置き換えられる」と広報担当者は付け加えた。
実際、フィツォ首相自身が、ガスの貯蔵量は豊富で、国内需要は「高くない」ため、自国は2025年に向けて「十分に準備ができている」と強調している。
ノルウェーやアメリカからのLNG輸入を、パイプラインで供給するのは確実にあるとして、「ロシア以外からのパイプラインによる輸入」とは、何だろう。
トルコストリームと、支流であるバルカンストリームのことかもしれない。アフリカのアルジェリアからイタリアを通るパイプラインかもしれないし、アゼルバイジャンからの輸入かもしれない。どれもすぐに切り換えて代替分を提供するのは難しい問題を抱えてはいる。
貯蔵ガスによってこの冬さえ乗り切ることができれば、次の冬までに解決する時間はあるということなのかもしれないが・・・。
オルバン首相の発言の意味
さて、ここにもう一人の主役級人物がいる。ハンガリーのオルバン首相である。
彼は最近、ウクライナルートを放棄するつもりはないと改めて述べた。また、ロシアとウクライナ両国と、供給維持に関する交渉が進行中であると述べた。そして、新たな計画に期待していることを明らかにした。
「我々はトリックを試みる。もし、ガスがウクライナに到着するまでに、買い手が既にガスを所有していたらどうなるだろうか。それはもはやロシア産ガスではなく、ハンガリー産ガスになるだろう」と語った。
ガスを他国産にする話は、フィツォ首相もEU首脳会議前に言及していた。「解決策はある・・・ウクライナはロシア産ガスを輸送するのではなく、所有者が他国になるガスを輸送する」と。
スロバキアはこうした取り決めに欧州委員会の支援が必要であり、デア・ライエン委員長と協議すると述べていた。欧州委員会は前日に、契約延長やロシアのガス供給を継続する別の解決策を支持しないと、改めて表明していたのだが。
メディアの誰もが、この話はアゼルバイジャンの事かと思っていたようだ。
しかし、そうではないかもしれない。「RBC-ウクライナ」は、入国地点をロシアとウクライナの国境に移すという選択肢に言及しているのだろうと予測している。
今年の8月、ウクライナ国境からわずか10キロのところにあるロシアの町スジャは、ウクライナ軍の手に落ちた。
スジャ地方には5本の主要なガスパイプラインが通っており、地域全体を横断している。そして、そこには、スジャ・ガス計測ステーションがある。この施設は、ウクライナ領内を通過してヨーロッパの消費者に送られるガスの受け渡しを記録するために使われてきた。そして近くには、ガス圧縮機がある。
ウクライナ軍は、重火器を使用せずに作戦を遂行し、スジャ・ガス測定所には被害はなく、現在も稼働している。同国の軍事専門家は、この場所がロシアの無人機やグライダー爆弾からウクライナ軍や装備を守るシェルターになると考えている。
オルバン首相が言うのは、ここのステーションのことだろうか。この地点で、ハンガリーがロシアのガスを買ってしまうということなのだろうか。
また気になる情報では、ウクライナのデニス・シュミハリ首相は、欧州委員会の要請に応じて、ロシア産のガスでなければ、輸送の再開は可能であると言っているという。
ガスの逆流でもない限り、ウクライナを経由できるパイプラインは、ベラルーシからしか可能性がないと思うのだが。
オルバン首相がモスクワに行ったのは、今年の7月のことで、スジャはまだ、ウクライナ軍のものになっていなかった。そして12月11日には、プーチン大統領と電話会談をしている。
一連の芝居の一幕のような、フィツォ首相のふるまいも、気になるところだ。
暗殺未遂事件から回復して以降、確かに首相はますますオルバン化してきており、ウクライナへの軍事支援も止めてしまった。
それでも彼は今まで、オルバン首相ほどには、EUの反逆児ではなかった。最後の一線は越えないところがあった。これはスロバキアが、ハンガリーと違ってユーロ圏に入っていることも関係しているのかもしれない。
また筆者は、歴史問題からかライバル意識からか、フィツォ首相は自国の利益のためにオルバン首相と組むことはあっても、心を許した存在ではないように感じている。
ポーランドは、とっくにロシアからのガスパイプライン輸入は断ち切っている。オーストリアも、12月のはじめ、ロシアがガス供給を停止したことを受けてガスプロムとの長期契約を打ち切った。ネハンマー首相はこの事件を「脅迫」だと非難した。
ハンガリーとスロバキアは、どこに向かっていくのだろうか。そして欧州委員会は、どのような対応をするのだろうか。
数日経った今も、ゼレンスキー大統領は怒り続け、訴え続けている。ということは、やはりスジャなのか? 実際に、ウクライナ経由の輸送も、契約が切れなければ続いていたわけで、今後もトルコ&バルカンストリームは生き残るのだから、現実的妥協として、ありえるのかもしれない。
参考記事(ロイター):ゼレンスキー大統領、スロバキア首相のロシア産ガス依存姿勢を非難
シンクタンク「ブリューゲル」の主張
ブリューゲルのレポートでは、今後の可能性について、3つのシナリオを検討していた。
一つは、前述したように、アゼルバイジャン産にすること。
次に、LNGに置き換えること。
ポーランド、ドイツ、リトアニア、イタリア、クロアチア、ギリシャのLNG ターミナル、そしてドイツとイタリアの新しい浮体式貯蔵再ガス化設備がある。
ただし、何らかの形でウクライナ経由のガスの通過を維持したいと考えている国々からの圧力(潜在的には、ウクライナへのEUの財政支援を阻止するとの脅しが背景にある)により、このような解決策の実現は困難であると解説している。また、ウクライナにとっては、通過料の損失も問題となる可能性があるという。
最後に、EUの取引業者は、ロシア・ウクライナ国境のスジャでロシア産のガスを購入し、ウクライナのパイプライン網インフラを通過する輸送能力を確保して、「自分たちの」ガスを欧州諸国に供給することができるというもの。
しかし、このシナリオではヨーロッパのロシア産ガスへの依存がさらに拡大することになる。ロシアにとっては好都合だ。ロシアがヨーロッパの消費者に対して引き続き影響力を持ち続けることを意味し、ロシア産ガスの輸入に対する将来的な制裁措置の範囲を限定することになるだろう、という。
全体の提言として、EUは共通の立場を模索すべきであるとしている。主な要素は3つ挙げている。
1)EU加盟国がロシアに依存しているエネルギーをある程度コントロールできるようにすること。
2)最も影響を受けた加盟国に対して、安全かつ差別のないガスの供給を確保すること。
3)新たな契約は、ウクライナよりもロシアに有利にならないようにすること。
――このようにレポートは述べている。
現実的な提言なのかもしれないが、スジャに関しては、まやかし以外の何物でもない。もし実現したら、ゼレンスキー大統領は怒り狂い続け、裏切られたと思うだろうか。やはりフィツォ首相のミュンヘン協定にまつわる歴史観は、正しいのだろうか。
悪い前例を世界につくってしまいそうなのも、不安材料だ。
それでもロシア・EU・ウクライナ・影響をこうむる国々の4者間で、妥協をしなければならず、少しでも有利な条件をEUは勝ち取るべきだ、ということなのだろう。ウクライナ支援の立場に揺るぎはない欧州委員会にとっては、辛い立場で、厳しい交渉になりそうだ。
一方で、ミュンヘン協定の時代と異なり、主権国家がガチでぶつかり合わず、EUという組織があることは、やはり欧州の平和に役立っていると痛切に思う。EUの外の国々の気持ちは、いかばかりか。
最後に、筆者の感想を書きたい。興味のある方はお読みください。
一連の動きを見ていると、経済安全保障とは、結局「戦争に備えよ」ということなのかと考えてしまう。ひとたび戦争が起こってしまったら、経済の安全など吹っ飛んでしまう。自由が必要な経済と安全保障は、両立できないと思えるほどに相性が悪い。平和と戦争が相容れないように。
それでもEUには、大きな外交力と交渉力がある。27カ国の精鋭と叡智がそろっている。でも日本は単体でしかなく、外交力はお世辞にも高いとは言えず、どうすればいいのだろうと思ってしまう。
日本が外交大国になるのが筆者の願いだったが、そうなる前に、世界や周辺の状況は大変不穏になってしまった。