安倍総理の記者会見はなぜこれほどに説得力がないのか
フーテン老人世直し録(509)
皐月某日
世界各国でロックダウンに伴う休業や休校を解除するニュースが相次ぐ中、日本政府は「緊急事態宣言」を5月31日まで延長することを決定し、それを安倍総理が記者会見で発表した。
4日に行われた会見はこれまでと同様、フーテンにはとても納得できる内容ではなかった。新型コロナウイルスとの戦いを「戦後最大の国難」とか「第三次世界大戦」と言いながら、安倍総理の会見に説得力を感じないのはなぜか。それを改めて考えさせられた。
安倍政権の新型コロナウイルス対応には、最初からもやもやしたものを感じてきたが、それがいつになっても晴れない。それは感染の実態についての納得できる説明がないからだ。説明のほとんどは「専門家がこう言っている」という受け売りでしかない。安倍総理自身がデータや分析を自分で検証し納得した形跡がない。
集団的自衛権の解釈変更の際には、会見場にボードを持ち込み説明したが、あの時は切迫した事態があった訳ではなく仮定のシミュレーションだった。それでも国民に理解させようとボードを使って説明する努力をした。
今は切迫した現実の「戦争」である。しかも「第三次世界大戦」と認識しているのなら、専門家任せにするのではなく、自らが先頭に立ってデータを収集し、自分が納得するまで分析し、それを国民に説明すべきだと思う。
安倍総理の会見の特徴は、事実を提示するよりレトリックでごまかそうとする傾向がある。「断腸の思い」とか「未来を作る」とか安っぽいセリフを並べて煙に巻く。横に専門家など置かなくとも、国民に納得できるまで説明する迫力がなければ「国難」に立ち向かう総理の姿にならない。
4日の会見の内容は次のようなものだ。まず安倍総理は自分が発した「緊急事態宣言」の効果が現れていると強調した。1日700人ぐらいあった感染者数が3分の1に減ったこと、1人の感染者が何人にうつすかを示す「実効再生産数」の値も1を下回ったと強調した。
実効再生産数が1を下回ったということは感染が拡大しないことを意味する。そこで安倍総理はこの結果に「国民みなさんの行動は私たちの未来を確実に変えつつある」と1か月間の国民の我慢を称賛して謝意を表した。
しかしフーテンはそんな大衆迎合のセリフより、日本政府は感染者数と死者数だけでなく、検査数と実効再生産数をなぜ毎日発表しないのかと、そちらの疑問に頭が向かう。
政府が発表する感染者数は実態を表すものではない。検査数を増やせば感染者は増えるし減らせば減る。にもかかわらずメディアは感染者の増減だけを取り上げて国民の恐怖を煽ってきた。なぜ感染者数だけに焦点を当てるのか。そこに戦前の大本営発表と同様の国民操縦の意図をフーテンは感じてきた。
感染者数と死者数だけでなく検査数と実効再生産数を毎日発表すれば、国民は感染の実態をある程度把握することが出来る。むやみに恐れたり、楽天的になることをしなくなる。勿論、前提として政府はその数字を裏付ける証拠も開示しなければならない。政府が発表しないならメディアが要求すべきだ。しかしメディアはただ感染者数の増減に焦点を当て政府の国民操縦に加担してきた。
国民を思う通りに操りたい政府は、国民に実態を知られたくないのが常である。しかしこの危機は国家と国民が一体にならなければ収まらない。そのためには情報開示が何よりも重要だ。だが国民は感染の実態を知らされぬまま、これまで我慢を強いられてきた。
「緊急事態宣言」に効果があったのに、なぜ今月末まで期間を延長するのか。安倍総理は「感染者の減少が十分とは言えない」と言った。現在1万人近くが入院しており、この1か月で人工呼吸器の治療を受ける人が3倍に増えた。
毎日100人を超える患者が退院するが、それを下回るレベルに新規感染者数を減らさなければ、医療現場の改善はできない。患者の在院期間は平均2,3週間なので、そうしたことから1か月の延長を決断したという説明だった。
医療現場が大変なことは分かる。しかし我慢を強いられる国民の方にも、自殺に追いつめられたり、やむなく犯罪に走る人も出てくる。経済的打撃は深刻だ。そうしたことも重ね合わせ、国家全体に目配りした判断なのかの説明はなかった。
欧米の政治リーダーなら複数の案を国民に示し、メリットとディメリットを並列して理解を求めたと思う。延長しなければ医療現場の状態がどうなるかを示す一方、経済的ダメージがどれほど緩和されるかも示す。それが2週間の延長ならどうなるか。1か月ならどうなるかを具体的に示し、そのうえで自分はどう判断したかを説明する。これなら国民も納得すると思う。
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