検察庁法改正案の今国会成立断念で安倍政権は「死に体」になった
フーテン老人世直し録(512)
皐月某日
安倍政権は検察庁法改正案の今国会成立を断念し継続審議とすることを決めた。安倍総理の求心力が低下するとメディアは報じているが、求心力の低下だけでは済まされないとフーテンは思う。安倍政権の終わりを意味する決定だ。
そもそも問題は、安倍政権が1月31日に黒川弘務東京高検検事長の任期を半年間延長する閣議決定を行ったことから始まる。この閣議決定は検察庁法に違反する。これまで検察官は一般の公務員と異なり、内閣の都合で任期延長を認められることはなかった。そのために特別に検察庁法があった。
にもかかわらず任期延長の閣議決定をした後で、安倍総理は2月13日の衆議院本会議で「従来の解釈を変更することにした」と述べた。検察庁法の解釈を変更したから閣議決定は違法でないと言ったのである。
しかしその後4月になって、一般の国家公務員の定年延長法案と絡めて検察庁法の改正案を国会に提出した。解釈変更では駄目だと考えたから検察庁法を改正することになったのだろう。改正のポイントは内閣が「特例」で検察幹部の任期を延長できるという点だ。つまり閣議決定を後付けで正当化しようとした。
タイミングも最悪だった。コロナ禍への対応が急務な時に強行採決しようとした。野党が反発するのは当たり前だが、コロナ禍に耐えている国民も反発した。それを無視するかのように安倍総理は「法案が成立しても検察の政治からの独立は守られる」とか「恣意的な人事はしない」とかお気楽な発言を繰り返して火に油を注いだ。
前回のブログでフーテンは「理解不能な展開」と書いたが、どこから考えても得策でない検察庁法改正案の強行採決になぜ安倍政権が前向きなのかフーテンは不思議でならなかった。だから今国会成立を断念するのは当たり前、しかし遅すぎでダメージはかなりのものだ。
この問題は今国会成立を断念しても終わらない。法案がこのままなら秋の臨時国会でもまた大反対が起こるし、秋の臨時国会がコロナ禍の対応に追われない保証もない。仮に野党の要求を受け入れ検察庁法の「特例」部分を削除しても問題は終わらない。
1月31日の閣議決定が事実として残るからだ。違法と指摘される閣議決定に安倍政権も自民党も公明党も賛成した事実があり、それを今後どう処理するのかが問題だ。閣議決定を変更すれば政治責任が生じて内閣総辞職に値する話だ。
閣議決定をそのままにすれば、黒川東京高検検事長はそのままなのか。法改正しなければ定年退職しているはずの人物が超法規的措置で現職にとどまっていることになる。黒川氏が8月7日まで職にとどまればそれも非難の対象になる。
安倍総理が言うように解釈変更で閣議決定を認めるとなれば、フランス絶対王政ルイ14世の「朕は国家である」と同じだと検察OBから激しく批判された状態が続くことになる。つまり検察OBから安倍総理が「民主主義の敵」と言われた事実が続くのだ。
現実には黒川氏はどこかで辞めざるを得ないだろうが、辞めたら辞めたでまたこの話が蒸し返される。あの閣議決定は何だったのかが問われる。問題は露骨すぎる黒川氏の定年延長を誰が主導したかである。
安倍総理が自ら考えたとは思えないので誰かが進言したのだろう。それが違法であることを知らなかったのなら大馬鹿だが、知りながら安倍総理に了承させ、それを自民党にも公明党にも同調させたのなら「仕掛け」の匂いがする。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2020年5月
税込550円(記事6本)
2020年5月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。