FBI長官の電撃解任は「土曜日の夜の虐殺」か
フーテン老人世直し録(301)
皐月某日
米国のトランプ大統領がFBIのコミー長官を電撃解任した。やはりなとフーテンは思う。米中首脳会談の最中にシリアの飛行場をミサイル攻撃した時にもそう思ったが、トランプ大統領はロシアとの不適切な関係をこれ以上追及されることを心底から恐れているのだ。
懐刀の娘婿クシュナー大統領上級顧問がロシアとの関係を巡り上院情報委員会に証人喚問されていることが大きいと思う。先に大統領選挙を支えてくれた側近マイケル・フリン前国家安全保障担当大統領補佐官を更迭せざるを得なかったのも、ロシアとの関係が追及されたからで、続いてクシュナー大統領顧問に傷がつけば政権運営は絶望的になる。
だからトランプは強硬手段を使ってロシアとの関係を一時的にでも悪化させるしかなかった。それが化学兵器を口実に米中首脳会談の最中にシリアを爆撃した理由である。本気でアサド政権を攻撃する気はなく、すぐに世界の目を北朝鮮に移させるため、中国にシリア爆撃を見せつけた上で北朝鮮に圧力をかけるよう促し、見返りに為替操作国指定や報復関税の取りやめを約束した。
「世界の警察官を辞める」と主張していたトランプが突然シリアを爆撃したことに世界は衝撃を受け、何をやりだすか分からない大統領と考えトランプに恐れおののいた人間もいたようだが、内実はトランプの方が自分の置かれた状況を恐れているのである。それが北朝鮮危機を煽る姿勢にも表れていた。
第二次朝鮮戦争を起こす気などさらさらないのに原子力空母や潜水艦を朝鮮半島に派遣して危機を煽り、世界の目を朝鮮半島にくぎ付けにした。世界各国はお付き合い程度に北朝鮮の核ミサイルを非難したが、戦争が現実になるとは誰も思っていない。ただ森友問題で窮地に立つ安倍政権の日本だけは危機を煽って電車を止める馬鹿さ加減を見せていた。
シリア爆撃から始まる一連の騒ぎも一段落し、上院情報委員会の公聴会がいよいよ本格化しようとする時にFBIのコミー長官は解任された。米国のメディアはウォーターゲート事件でニクソン元大統領が特別検察官を解任した「土曜日の夜の虐殺」と重ね合わせてこの解任劇を報じている。
ウォーターゲート事件は1972年の大統領選挙の最中にウォーターゲート・ビルにある民主党本部にニクソン政権の関係者が侵入し盗聴器を仕掛けようとして逮捕されたことから始まる。ニクソン大統領は関与を全面否定したが、ワシントン・ポストの取材などから盗聴に政権内部が深く関与していた事実が明るみに出、さらに政権は事件発覚当初に捜査妨害ともみ消し工作を行っていたことも露見した。
事件を調査するために設けられた上院調査特別委員会は大統領執務室で録音された秘密テープの存在を知り、特別検察官に任命されたアーチボルト・コックスがテープの提出を求めると、ニクソン政権はそれを拒みコックスはニクソン大統領によって電撃解任された。解任が政府機関が休みの土曜夜に行われたことから「土曜日の夜の虐殺」と呼ばれる。
これは行政の最高責任者が司法と立法を蔑ろにし三権分立を犯したと国民の目に映った。国民とメディアは提出を拒んだテープに大統領の都合の悪いことが録音されていると確信し、それが大統領弾劾の動きを加速させた。議会の弾劾に抗しきれないと思ったニクソンは合衆国史上初めて任期途中で大統領の職を辞することになる。
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