前川前事務次官の勇気ある告発と菅官房長官の異様な反応
フーテン老人世直し録(305)
皐月某日
官僚の中にも硬骨漢がいることを久々に見せてくれた。25日に記者会見を行った前文科省事務次官の前川喜平氏である。
加計学園の獣医学部新設を巡り文科省が内閣府から圧力をかけられた文書の存在を「あるものをないとは言えない」と明言し、官邸の意向によって「行政はゆがめられた」と告発した。
一方、この文書を「怪文書」ときめつけた菅官房長官の方は異様な対応を見せた。記者会見で前川氏の「出会い系バー通い」に言及し、人格を貶めることで発言の信ぴょう性を失わせようとしたのである。
前川氏はそうされることを覚悟で告発に踏み切ったと思われる。そして官邸は読売新聞を動員して「出会い系バー通い」を世間に知らしめた。読売新聞を使ったところもこれまでになく異様である。
「出会い系バー通い」の情報源は警察である。昔と違い公安事件が減少してからの警察は政治家や権力に都合の悪い人物のスキャンダル情報収集に力を入れている。それが閣僚人事で「身体検査」と呼ばれる情報の元となる。官邸から求められれば警察は情報を提供する。
官邸にとって都合の悪い人物を抹殺するには「恐喝」と「買収」という2つの方法がとられる。1つは言うことを聞かなければスキャンダルを公表すると「脅し」をかける。言うことを聞けばそのスキャンダルは日の目を見ない。しかし逆らえばメディアにリークする。
もう1つは政治家に対し「選挙で当選させる」という「買収」である。選挙資金の面倒や選挙区の調整で「貸し」を作り官邸の言うことを聞かせる。かつて中曽根元総理が党内の反対を押し切り衆参ダブル選挙を実現した時には、写真週刊誌「フォーカス」が竹下登氏の「恐喝」に利用され、二階堂進氏には選挙資金が提供されて二人はダブル選挙に反対するのをやめた。
今回興味深いのは、これまでのリーク先である「週刊文春」や「週刊新潮」ではなく「読売新聞」という一般紙が選ばれたことである。「出会い系バー通い」はゴシップの類でニュースではない。それを週刊誌ではなく「一流紙」を自負する読売新聞がニュースにしたところにこれまでと違う何かがある。安倍官邸と読売新聞の蜜月を露骨に見せる理由は何か。
また菅官房長官が会見で「出会い系バー通い」を鬼の首を取ったかのように言及する姿もこれまでとは違う何かを感じさせる。菅官房長官は「教育行政のトップが出会い系バーに行ったことに違和感を感じる」と言ったが、政治家の身の下の実態を知るフーテンは「そんなことを菅が言えるのか」と違和感を感じた。政治家がそれを言っちゃお終めえよ。
前川氏の会見を聞くと官邸に逆らえなくなった官僚の悲哀が浮き彫りになる。もとより行政府の長は内閣総理大臣であるから官僚は総理の言うことに従わなければならない。しかし同時に総理から末端の公務員に至るまですべからく国民に奉仕することが義務付けられている。
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