新型コロナウイルスのパンデミックが終息した後の世界と日本
フーテン老人世直し録(499)
弥生某日
WHO(世界保健機関)が、遅ればせながら新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を認めた12日は、東京五輪の聖火の採火式が古代オリンピック発祥の地であるギリシャのオリンピアで行われる日であった。
「たられば」の話になるが、もっと早くパンデミック宣言が出されていれば、この日の採火式は見送られていた可能性がある。しかしパンデミック宣言と採火式は同じ日に行われ、感染を恐れて「無観客」にした異例の式典を、NHKはニュース枠を拡大して生中継した。
「藁にもすがる思い」という言葉があるが、NHKの中継はフーテンにそれを感じさせた。駄目になるかもしれないのに、一縷の望みを捨て切れない日本の姿を見るようで、聖火リレーの始まりを何だかもの悲しい思いで眺めた。
すると翌13日、ギリシャのオリンピック委員会はギリシャ国内での聖火リレー中止を決めた。観衆が集まって感染の恐れがあるからだと言う。それでも19日にアテネで日本への聖火の引継ぎ式は行われる。無観客の式典にするという。
そうして運ばれてきた聖火は、26日から日本国内をリレーされることになるが、本当にできるのだろうか。東京五輪組織委の幹部がウォールストリート・ジャーナル紙に「1、2年の延期の可能性」を示唆しているのに、国を挙げて聖火リレーを行えば「国民を喜ばせて騙す」ことになる。
米国のトランプ大統領も13日未明(日本時間)「無観客でやるより1年間延期の方が良い」と発言した。その後13日午前(日本時間)に行われた日米首脳電話会談で、安倍総理が「コロナに打ち勝って東京五輪を成功させたい」と協力を求めたのに対し、トランプ大統領は「日本の透明性のある努力を評価する」と述べ、延期にまつわる話はなかったという。
IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は「WHOの助言に従う」と述べており、WHOがこの夏の五輪開催に否定的な見解を示せば延期もありうる。この状態だとあと1、2か月は「ダメ元」の聖火リレーに国民は付き合わされることになる。これ喜べますか?
そもそもフーテンは五輪招致が決まった時から懐疑的だった。東京の夏の暑さは中東の砂漠の暑さより過酷だからだ。フーテンは40度を超す砂漠の暑さを経験しているが、それでも東京の夏の息苦しさと比べたらまだ何とかなる。風がなく湿度の高い東京の夏は夜になっても暑さから逃げられない。その季節に五輪をやるのは狂気の沙汰だと思った。
さらに原発事故と東北の復興に、日本中が全力を上げなければならない時に、五輪をやる余力などないと思った。ところが安倍政権の考え方はフーテンと真逆である。東京五輪を「アベノミクス4本目の矢」と位置づけ、日本経済を上向かせるための柱にした。
そのため安倍総理はなりふり構わず、原発事故は「アンダーコントロール」と嘘を言い、スーパーマリオの真似をするチンドン屋までやってのけた。これを裏から読めば、2020年までがアベノミクスの賞味期限で、それまでは何が何でも総理を続けるが、その先の展望は持っていないことを意味する。
フーテンは「アベノミクス」が登場した時、「効果は3年間の期間限定」とブログに書いた。チリのピノチェト政権がシカゴ学派の経済政策を採用した時、3年間は「チリの奇跡」と呼ばれ目覚ましい経済成長を遂げたが、3年経つと格差の広がりで失速し、その後は経済無策を独裁権力でカバーせざるを得なくなり、国民は悲惨な目に遭った。
「アベノミクス」も円安株高をもたらして最初は良かったが、3年も経たないうちに当初は評価した米国の経済学者から「失敗」の烙印を押される。そこで安倍総理は「アベノミクス第二幕」と称し、事実上民主党政権の経済政策を真似するようになった。とにかく労働者の賃金を上げないことには経済が回らないことに気付いたからだ。
ところが経済界は頭では分かっていても「アベノミクス第一幕」の影響からすぐに切り替えができない。さらに新型コロナウイルスのせいで今年の春闘は低調だ。アベノミクスの息が止まる。
賃上げと同様に安倍政権が力を入れたのは「東京五輪」に象徴されるインバウンド効果である。特に目覚ましいのは中国と韓国の観光客が日本に落としていくマネーだ。前にも書いたが、軍事を米国に頼る日本は対米貿易黒字を縮小せざるを得ず、輸出に代わる収益をインバウンドに頼ることになった。「東京五輪」と並び「カジノ」が目玉になるのはそのためだ。
「東京五輪」と「カジノ」を推進したのは菅官房長官であることを「週刊新潮」が報じている。五輪招致を勝ち取るため、IOC委員を買収する費用を、パチンコ機器メーカーのセガサミー・ホールディングス会長が、菅官房長官に頼まれ出したのだという。この買収疑惑はフランスの司法当局が動き出し、竹田恒和前招致委会長が辞任する騒ぎになった。
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