菅義偉自民党副総裁に最も権力に近づいた「影のような存在」を見る
フーテン老人世直し録(776)
神無月某日
自民党は18日、東京9区から無所属で立候補した菅原一秀氏を党本部として推薦すると発表した。東京9区の自民党支部長は旧安倍派の今村洋史氏だったが裏金事件で非公認とされ出馬を断念した。それと入れ替わるように菅原氏が自民党の推薦を受けた。
菅原氏は菅義偉自民党副総裁の最側近である。従ってこの推薦に菅氏の意向が働いているのは間違いない。さらに言えば今村氏の非公認にも菅氏の意向が働いたのかもしれない。そういう目で見れば短期決戦と言われる選挙そのものが菅氏の仕掛けなのかもしれない。
なぜなら岸田前総理の総裁選不出馬表明から石破政権の誕生に至る過程は、フーテンが「12年続いた安倍一強体制を終わらせた岸田文雄と菅義偉そして福田達夫」と題するブログで書いたように、岸田氏と菅氏と福田氏が阿吽の呼吸で連携し、最大派閥を解体するため石破政権を誕生させた大政局だからである。
そして石破総理に時間を置かずに解散を打たせたのは、旧安倍派に代わり自民党内の権力を握る戦いを有利に進めるためで、東京9区はその一例に思える。選挙が終わってみれば仕掛けの意図が浮かび上がってくるはずだとフーテンは考えている。
自民党本部から推薦を得た菅原氏は、菅氏が安倍政権の官房長官だった19年に経済産業大臣に抜擢された。無論、菅氏が押し込んだ人事である。すると週刊誌に菅原氏の選挙買収疑惑が報道され、東京地検特捜部は21年に公職選挙法違反容疑で菅原氏を略式起訴した。菅原氏は裁判所から罰金40万円、公民権停止3年の略式命令を受けた。
菅原氏の公民権は今年7月に回復された。菅原氏は東京9区から無所属で立候補する準備を進めていたが、8月に岸田総理が総裁選不出馬を表明し、9人が立候補した総裁選が行われ、10月1日に石破政権が誕生した。
石破総理は総裁選では早期の解散・総選挙に否定的だった。しかし首班指名選挙の前に解散・総選挙の日程を表明することが総裁選勝利の条件だったかのように、総裁になると一転して早期解散を表明し、さらに選挙には裏金議員を公認しない方針を打ち出した。旧安倍派の今村氏は非公認となり、菅原氏が党の推薦を得た。この流れが今回の選挙を象徴している。
つまり派閥なき自民党において権力を握るのは菅氏ではないかとフーテンは思うのだ。ところがSNSでは菅氏の健康不安説が繰り返し投稿されている。自民党役員会や国会のテレビ映像で見る限り菅氏の体調が相当に悪いというのだ。そのためか安倍元総理の岩盤支持層の怒りの矛先は石破総理に向けられ、菅氏には向かわない。
政治家の健康問題をフーテンは基本的に信用しない。仮病を使って敵方に打撃を与える政治家を何人も見てきたからだ。政治家は車いすに乗ろうが寝たきりになろうが頭脳が明晰である限り権力を維持できる。石破政権の新閣僚人事を見れば、要所を菅氏の人脈が押さえている。つまり菅氏の頭脳は衰えていない。
菅氏は自分が無派閥であることを強調する。しかし菅氏には菅氏を支える複数のグループがあり、それが派閥と変わらぬ結束力を誇っている。代表的なのは若手議員14人で構成される「ガネーシャの会」で、その「ガネーシャの会」から当選5回の牧原秀樹法務大臣と坂井学国家公安委員長が石破政権に初入閣した。
検察に対して指揮権を持つ法務大臣と、全国警察のトップをいずれも自分の人脈で押さえる必要を菅氏は感じていることになる。特に坂井学国家公安委員長は「ガネーシャの会」の会長を務める最側近で、かつては菅原一秀氏もこの会のメンバーだった。
参議院には「菅義偉を支える参議院議員の会」がある。その会から当選3回の三原じゅん子こども政策担当大臣が、さらに「令和の会」というグループからは当選6回の城内実経済安全保障担当大臣が初入閣した。
城内氏は小泉純一郎政権の郵政民営化法案に反対して「刺客」を立てられ、自民党に復党するまで艱難辛苦のあった政治家である。昔は安倍晋三氏と親しかったが、最近では旧森山派に属しながら菅氏の取り巻きでもある。総裁選では高市早苗氏に投票し、高市氏の後任の経済安全保障担当大臣に就任した。つまり菅氏は高市シンパともつながっている。そして菅人脈は若手だけに限らない。
財務大臣に旧茂木派の加藤勝信氏を配し、反安倍の言動で一貫していた村上誠一郎氏の総務大臣の起用にもフーテンは菅氏の関与を感じる。加藤氏は安倍政権でも重用されたが、菅政権では女房役の官房長官をさせたのだから菅氏にとっては身内同然だ。それを財務大臣に起用したのは菅氏ではないかとフーテンは考えている。
そして旧安倍派と岩盤支持層から最も厳しく攻撃される村上氏を総務大臣ポストに就けたのも菅氏ではないかと思うのだ。総務省は菅氏が初めて大臣になった役所で、菅氏の権力基盤は総務省にあると言っても過言ではない。そこに「反安倍」の筆頭である村上氏を送り込み、世間には石破政権を「反安倍」に見せながら、しかし勝手なことはさせない菅氏の思惑があるように思う。
さらに今回の総裁選で麻生派の総裁候補になったのに、麻生氏が1回目の投票から「高市氏に投票しろ」と指示して裏切られた形の河野太郎氏を大事にしているのも菅氏である。総裁選で河野氏の推薦人になった麻生派の武藤容治氏は経済産業大臣、二階派の伊藤忠彦氏は復興大臣、参議院議員で麻生派の浅尾慶一郎氏は環境大臣として初入閣した。
河野氏は自分の推薦人から3名を初入閣させたのだから面子を保つことができた。この人事にフーテンは菅氏の関与を感じる。麻生氏と異なり菅氏は河野氏を「将来使えるタマ」として温存していると思えるからだ。
河野氏が注目されたのは、安倍元総理がトランプ大統領から買わされたイージス・アショアの配備を、防衛大臣の時に停止したことにある。安倍元総理は米国製兵器を爆買いすることでトランプの歓心を買ったが、それにストップをかけたのは河野氏を防衛大臣に押し込んだ菅官房長官だったとフーテンは見ている。
そして菅氏と河野氏は再生可能エネルギーの普及促進でも一体の関係にある。河野氏から国会議員になることを勧められ、河野氏の右腕として反原発・再生エネルギー促進活動を行った自民党の秋本真利衆議院議員は、菅氏と同じ法政大学出身だったことから「ガネーシャの会」の会員となり、菅氏の側近でもあった。
その秋本議員が昨年夏に風力発電汚職事件で東京地検特捜部に逮捕された時、フーテンは検察が岸田総理の政敵排除に乗り出したとブログに書いた。政敵とは河野氏と菅氏を指す。安倍元総理が銃弾に倒れた後の政界で、岸田総理の権力維持に障害となる筆頭はこの2人だったからだ。
しかし検察はその頃自民党派閥の政治資金パーティ裏金疑惑の捜査にも取り掛かっていた。ターゲットは最大派閥の安倍派である。安倍氏が不在の最大派閥は岸田総理にとって厄介な存在だった。ただその中にあって安倍派を集団指導体制にして岸田政権に敵対しないよう助けてくれたのは森喜朗氏だった。
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