名古屋の観光客56%減!アフターコロナの復活への鍵は?
名古屋の観光客が7300万人→3170万人に急減
「名古屋市の観光客数56%減」。こんなショッキングなデータが、先ごろ名古屋市より発表されました。これは市の観光客・宿泊客動向調査による、2020年の観光入込客延べ人数の前年比。2019年の7299万人から半数以下の3166万人に落ち込んでしまったのです。ちなみに観光入込客延べ人数とは、市内の主要観光施設やイベントなどを訪れた延べ来客者数です。
宿泊客の延べ人数も1016万人→519万人の48・9%減。うち外国人にいたっては225万人→41万人と81・8%も減少。人が減れば当然使うお金も減り、観光総消費額は4268億円→2091億円の51%減になりました。
原因はいうまでもなくコロナショックです。日本はもとより地球規模でほとんどの人が移動を控えざるを得なくなりました。名古屋の急減も特別なものではなく、全国の観光都市、観光地が同様に苦境にあえぎました。例えば京都市は総宿泊客延べ人数2125万人→773万人で63・6%減、外国人829万人→98万人で88・2%減(2019年→2020年比較:京都市産業観光局発表)と落ち込みは名古屋市以上。人気の高かった観光地ほど打撃は深刻でした。
名古屋市が特に観光に力を入れるようになったのはここ10年ほどのこと。観光入込客延べ人数を2006年→2019年で比較すると、5317万人→7299万人と37%もアップしていました。武将観光や名古屋めしをキーワードとしたPRや、名古屋城本丸御殿、レゴランド・ジャパンなどの有力集客施設のオープンなどが徐々に成果となって表れていたのです。しかし、コロナ禍による観光産業の冷え込みで、10年がかりで積み上げた上積み分以上が一気に吹き飛んだことになります。
コロナ禍でも回復が早かった東山動植物園、名古屋港水族館など
市はこの現状をどうとらえているのか?そして観光を再び上昇気流に乗せるためにどんな手を打っていこうと考えているのか? 名古屋市の観光を推進する部署や組織に尋ねました。
「コロナ禍で特に打撃を受けたのは屋内の施設や団体ツアーが多かったところ。公共の施設は国や自治体の方針にしたがって休業や収容制限を行ったため、客数の減少も大きくなりました」と名古屋市観光推進課・課長の遠藤剛さん。一方で「屋外の施設や車で行ける郊外のスポットは密を避けられる安心感から比較的早く人出が戻りました。屋内でも名古屋港水族館は涼を感じられるためか夏場の集客がよく、また熱田神宮も神様に守られているという安心感につながるのか参拝者は比較的多かった」とは名古屋観光コンベンションビューロー・理事長の杉﨑正美さん。影響が大きかったのは名古屋城本丸御殿、名古屋市科学館、徳川美術館など。対して東山動植物園、熱田神宮、Hisaya-OdoriPark(久屋大通公園)などの屋外の施設、東谷山フルーツパークなどの郊外のスポットはファミリー需要などを取り込むことができたといいます。
また、美術館、博物館をはじめ入場者数の上限を定めて予約制をとる施設も多く、こうした施設や企画では混雑を避けられ、ゆとりをもって見学・鑑賞できるというメリットも生まれました。「来場者の満足度はむしろ高まり、その分リピートにもつながる。ウイズコロナ、アフターコロナの時代にあっても、この方式は当たり前になっていくでしょう」(名古屋観光コンベンションビューロー・杉﨑さん)。
近場観光を喚起するお手軽観光ツールや家族向け修学旅行プラン
都市部を中心に緊急事態宣言が延長されるなど、県をまたいだ観光需要が回復するには今しばらく時間がかかりそう。コロナ禍以降、近場観光のマイクロツーリズムが脚光を浴び、その分、市内、県内で観光需要を喚起する動きは活発化しています。
名古屋観光コンベンションビューローでは従来のポスターに代わる名刺サイズのサイトシーイングカードを作成して市内の観光案内所で無料配布。主要な観光施設や名古屋めしを紹介する他、名古屋観光特使として名古屋発のアイドルグループ、BOYS AND MENやTEAM SHACHIらを起用するなどしてコレクション性を高めています。
「家族de修学旅行 in Nagoya」も同コンベンションビューローが推進している旅の企画。「新しい旅行や働き方のスタイルを提供して名古屋のブランド力を強化する『POWER NAGOYAプロジェクト』の中の企画です。家族旅行を修学旅行に見立てた特製オリジナルしおりを作成して提供。そのしおりにそって名古屋市内を旅行してもらい、旅行終了後にはフォトコンテストやふり返りコンクールも実施します」(杉﨑さん)。
地元の人を主なターゲットとした企画では、今年で9回目となる「やっとかめ文化祭」も、名古屋のマイクロツーリズムの先駆け的なイベント。無料のストリート歌舞伎をはじめ、講演、町歩きなど約70本のプログラムが、10~11月のおよそ3週間にわたって開催。町歩きは定員を各回15名と少人数にするなど、感染症対策にのっとって行われます。
居ながらにして名古屋を楽しむオンライン観光
外出控えが続く中、自宅で旅気分を味わえるのがオンライン観光。この分野でも新しいコンテンツが生まれています。名古屋城では「VT(バーチャルツアー)本丸御殿」をHPで今年度から公開。国立科学博物館などでも採用されている3Dビュー+VR映像で、ちょっとゲーム感覚で楽しめます。
名古屋観光コンベンションビューローは「あなたの知らない名古屋オンラインツアー」を企画。今年1月に開催した「名古屋城編」はZoom、YouTube合わせて370名以上が参加し、5日間のアーカイブ視聴回数は1700回を数えました。10月2日には第2弾となる「ナイトホッピング編」を開催。ビアガーデンや居酒屋をめぐるツアーで、飲み会気分を盛り上げるために名古屋の地酒やおつまみを組み合わせた「名古屋乾杯セット」を限定販売します。
アフターコロナを見すえたインバウンド向けの取り組みも
こうした主に地元の人を対象とした施策の一方で、コロナ収束後を見すえて、インバウンド需要を再び呼び戻すための取り組みも始まっています。
アジアの人たちに向けて制作された観光PR動画が「COOL! NAGOYA」。最大の特徴はターゲット市場としている台湾、タイ、ベトナムの人たちの声を反映して制作していること。訪日旅行に期待することをヒアリングし、出演もこれらの国の人たちがしています。「あくまで彼らの目線で名古屋の魅力を紹介しています。食ならば名古屋めしばかりでなく寿司もあるし、夜景のきれいなフォトスポットもある。海外の人がまず日本に求めるそれらの要素が名古屋にもある、ということを知ってもらう内容を重視しました」(名古屋観光コンベンションビューロー・杉﨑さん)。動画は「ヒストリー」「フード」「ナイトタイム」などのテーマで各編1~2分。今年8月に「ウェルネス」「アミューズメント」編をYouTubeに公開すると、およそ1カ月で台湾、タイ、ベトナム3か国で合わせて39万回超の再生回数を記録しました。
欧米・オーストラリア向けに進められている観光施策が「尾張藩連携事業」。現在の名古屋市を治めていた尾張藩は、現・岐阜県、長野県の木曽地方を領地とし、そこから運ばれる良質の檜がモノづくりの基礎となりました。歴史的なつながりのある木曽郡6町村などと連携し、自然や食、歴史文化を体験・学習できる広域ルートを整備し提案するという取り組みで、「自由に渡航できるようになった時の優先順位を今から高めておきたい」(名古屋市・遠藤さん)といいます。
当サイトでバズったご当地スイーツにも誘客の魅力が!
このように地元、国内、海外と様々な層に向けた観光促進策がコツコツと積み重ねられているのが現状。即効性を期待するよりも、オンライン体験などによって期待値を高め、観光の客足が戻った時に備えておく取り組みが中心となっています。したがってこれだけで急減した観光客が一気に戻ってくるというものではありませんが、こうした地道な取り組みがアフターコロナの観光の巻き返しにつながることを信じたいと思います。
また、個人的には当サイトで紹介した名古屋発のご当地スイーツ「ぴよりん」「カエルまんじゅうケロトッツォ」「鯱もなか」の記事の反響の大きさにもひとつヒントがあるのでは、と手前味噌ながら感じています。ぴよりん、ケロトッツォは行列が絶えない話題の大ヒット商品となり、SNSではこれらを買うために「名古屋へ行きたい!」という声も目立ちました。鯱もなかにいたっては9月11日に公開した記事が60万PVという爆発的なアクセスを記録。オンラインショップの売上は前週比何と100倍にも達し、店舗にも多くのお客が訪れるようになったといいます。親しみを感じられるキャラクター性豊かなご当地商品は、それだけで街の誘客コンテンツにもなり得ることをこれらのブレイクが示してくれました。
行きたい、買いたい、会いたい。そんなコンテンツを今からしっかり育てていくことが、アフターコロナに再び観光人気を上昇させる近道なのかもしれません。
(写真撮影/筆者 ※VT本丸御殿、あなたの知らない名古屋オンラインツアー、COOL!NAGOYAの画像は各サイトより)