Yahoo!ニュース

販売数は10年で26倍!名古屋発スイーツ「ぴよりん」人気急上昇の理由

大竹敏之名古屋ネタライター
名古屋駅でしか買えないご当地スイーツぴよりん。SNS映えする愛らしさも人気の秘密

1日800個売れる大人気スイーツ。コロナ禍でも前年比10%アップ

名古屋生まれのスイーツ、ぴよりんが2021年7月1日で誕生10周年。近年はSNSを中心に人気が上昇し、発売当初の生産数は1日わずか30個だったところ、今では最大800個を売ることもあるほどです。年間販売個数は一昨年は昨対比107%、昨年は同110%を記録。累計170万個を突破し、年度内には200万個の大台に達しようかという勢いです。今や“新・名古屋名物”となっているぴよりん。なぜこんなに愛され、人気が高まっているのでしょうか?

かわいいだけじゃない!3層構造でおいしさを追求

ぴよりんは名前の通りひよこをかたどった洋菓子。一番の魅力はもちろん見た目のかわいらしさです。すべて手作業で仕上げてあるので、目やくちばしのバランスなど、ひとつひとつ表情が微妙に異なるのも愛らしさにつながっています。

しかし、長く愛されてきた最大の理由は、何といっても文句なしにおいしいこと。名古屋コーチンの卵入りのプリンをババロアで包み、さらにスポンジ生地をまぶした3層構造となっていて、プリンはぷるぷる、ババロアはつるん、スポンジはふんわり、三通りの柔らかさが混然一体となり、深みのある甘さとともに口の中でとけていきます。

名古屋コーチン卵のプリン、2種の生クリームでつくるババロア、ラム酒をとばしたスポンジの3層構造。見た目はシンプルでかわいいが、中身は複雑で味わいは奥深い。ノーマルタイプは380円(店内飲食387円)
名古屋コーチン卵のプリン、2種の生クリームでつくるババロア、ラム酒をとばしたスポンジの3層構造。見た目はシンプルでかわいいが、中身は複雑で味わいは奥深い。ノーマルタイプは380円(店内飲食387円)

ぴよりん開発秘話。製造現場にも潜入!

製造販売するのはJR東海系列のジェイアール東海フードサービス。ぴよりんのデビューは2011年7月で、“名古屋の名物スイーツ”を目指して開発されました。筆者としてはそれまで何度も取材していた同社のシャチボンが販売休止になってしまった後だったこともあり、新商品のデビューに期待に胸膨らませた記憶があります。

“先代”の名古屋ご当地スイーツ、シャチボン。シャチ型のシュークリームで2000~2011年まで販売。名古屋駅で購入でき人気は高かったが、パーツが多く非常に製造に手間がかかることもあって販売休止となった
“先代”の名古屋ご当地スイーツ、シャチボン。シャチ型のシュークリームで2000~2011年まで販売。名古屋駅で購入でき人気は高かったが、パーツが多く非常に製造に手間がかかることもあって販売休止となった

「当時、パティシエら4人でプロジェクトチームが編成されました。“かわいくて丸くて小さい”お菓子なら誰もに愛されてヒットするのでは、と意見が出たのですが、モチーフとしていろいろな動物などの名前が出ては消え、アイデアがまとまらない。しかし、メンバーの1人がふと『ひよこはどう?』とつぶやいた途端、それで行こう!となり、一気に商品開発が具体化していきました」と同社のぴよりんPR担当・依田浩明さん。「おいしさを確立するまでも試行錯誤が続きましたが、表情をつくるのにも手間がかかり経験が必要。デビュー当時と比べると、今の方がさらにかわいくなっています」と目を細めます。

「目は羽根と並行したラインに。くちばしは上くちびるはまっすぐ、下くちびるは間を開けず少し奥まで差し込むとかわいいお顔になります」とはぴよりん担当歴3年のパティシエ・祖父江真衣さん。顔の仕上げを担当できるのは社内でも限られた精鋭だけだといいます。

実は意外と売り場の近くで作られている(?)。工程が多く手作業のため完成まで約7時間を要する。チョコレートのトサカ、羽根、目、くちばしのつけ方で愛らしさが決まる
実は意外と売り場の近くで作られている(?)。工程が多く手作業のため完成まで約7時間を要する。チョコレートのトサカ、羽根、目、くちばしのつけ方で愛らしさが決まる

販売は名古屋駅の2店舗のみ。限定バージョンは半日で売り切れも!

JR名古屋駅中央コンコースにあるカフェジャンシアーヌ。ぴよりんはノーマルタイプ、期間限定品、トアルコトラジャ(コーヒー味)ぴよりんの3種類を販売。カフェでイートインもでき、グッズの販売もある
JR名古屋駅中央コンコースにあるカフェジャンシアーヌ。ぴよりんはノーマルタイプ、期間限定品、トアルコトラジャ(コーヒー味)ぴよりんの3種類を販売。カフェでイートインもでき、グッズの販売もある

上のカフェから徒歩3分、JR名古屋駅うまいもん通り広小路口にあるぴよりんショップ。ノーマルタイプの他、期間限定品、チョコ、いちご、ぴよりんロールを販売。他、ぬいぐるみやサブレなどグッズ類も取り扱う
上のカフェから徒歩3分、JR名古屋駅うまいもん通り広小路口にあるぴよりんショップ。ノーマルタイプの他、期間限定品、チョコ、いちご、ぴよりんロールを販売。他、ぬいぐるみやサブレなどグッズ類も取り扱う

人気アップの理由のひとつにレア感があります。ネット通販などはなく、名古屋駅構内の「カフェジャンシアーヌ」「ぴよりんSHOP」の2店舗での店頭販売のみ。それぞれの店舗にしかないバージョンもある他、期間限定商品が毎年何種類も発売されます。季節のフルーツなどを使ったものなら2~3週間、正月、バレンタイン、ハロウィン、クリスマスなどの歳時記モノの中にはわずか数日しか販売しないものも。1日の販売個数も限られているため、話題性の高いものは午前中で売り切れることも珍しくありません。SNSなどで常に最新の情報をチェックし、名古屋駅まで足を運ばなければお目当てのぴよりんをゲットすることができないのです。

いちごぴよりん、チョコぴよりん、ぴよりんロールはぴよりんSHOPのみ、トアルコトラジャぴよりん(コーヒー味、右下)はカフェジャンシアーヌのみでの販売。各430円
いちごぴよりん、チョコぴよりん、ぴよりんロールはぴよりんSHOPのみ、トアルコトラジャぴよりん(コーヒー味、右下)はカフェジャンシアーヌのみでの販売。各430円

期間限定商品は年に数種類発売。上下段とも左からハロウィンぴよりん(2018)、りんごぴよりん(19)、クリスマスぴよりん(19)、お正月ぴよりん(21)、はちみつぴよりん(21)、梅ぴよりん(21)
期間限定商品は年に数種類発売。上下段とも左からハロウィンぴよりん(2018)、りんごぴよりん(19)、クリスマスぴよりん(19)、お正月ぴよりん(21)、はちみつぴよりん(21)、梅ぴよりん(21)

SNSでバズった「ぴよりんチャレンジ」!情報発信強化で人気拡大

もうひとつ、ブレイクのきっかけとなったのが“ぴよりんチャレンジ”です。2019年頃からSNS上で話題になり、Twitterでは「#ぴよりんチャレンジ」の投稿が数多く見られます。これは自宅までぴよりんを無事に持ち帰ることができるか、ゲーム感覚で挑戦すること。ぴよりんは非常に柔らかいため形がくずれやすく、自宅で箱を開けたら顔面崩壊になっている、なんてことも珍しくありません。成功しても失敗しても…むしろチャレンジに失敗した方がインパクトのある写真を投稿でき、SNS上でも盛り上がるのです。

筆者もぴよりんチャレンジをSNS投稿。無事に持ち帰られると今イチ盛り上がらない…? ぴよりんのイラスト入りの紙袋に入れてもらえるのはぴよりんSHOPのみ
筆者もぴよりんチャレンジをSNS投稿。無事に持ち帰られると今イチ盛り上がらない…? ぴよりんのイラスト入りの紙袋に入れてもらえるのはぴよりんSHOPのみ

こうしたSNSでの反響の大きさを受けて、公式も情報発信に力を入れるようになり、さらに人気が加速しています。「昨年初め頃の名古屋のWeb媒体のぴよりんチャレンジ記事が特に“バズり”ました。これをきっかけに遅ればせながらSNSの影響力の大きさを実感し、この頃から公式アカウントでも積極的にぴよりんの情報を投稿するようになりました。その成果かTwitterは昨夏の時点でフォロワー30名程度だったのが現在は1700名以上に、インスタグラムもこの1年あまりでフォロワーが約750名から約2600名に増えています」(PR担当・依田さん)

ぴよりん公式サイトもある!2019年3月20日開設
ぴよりん公式サイトもある!2019年3月20日開設

10周年記念はSNSでの参加型&人気ブランドとのコラボ企画が目白押し

このような情報発信の強化が、今回の10周年記念企画にもつながっています。第1弾その1は「ぴよりんファーストスプーン」。最初のひと口をどこから食べるか「#ぴよりんファーストスプーン」のタグをつけて写真や動画を投稿すると抽選でグッズがプレゼントされます。その2はこれまでの限定ぴよりんの人気投票で、上位3種類が8月に復刻販売されます。

筆者も#ぴよりんファーストスプーンを投稿。最初のひと口をどこから食べるか、写真か動画をTwitterかインスタグラムに投稿すると抽選でプレゼントがもらえる。応募期間は7月31日まで
筆者も#ぴよりんファーストスプーンを投稿。最初のひと口をどこから食べるか、写真か動画をTwitterかインスタグラムに投稿すると抽選でプレゼントがもらえる。応募期間は7月31日まで

この他、洋菓子のモンシェールとコラボした「堂島ロール×ぴよりん」のロールケーキとバニラプリン、名古屋マリオットアソシアホテルとのコラボによるシェフバージョンのぴよりんにデザートプレート、ご当地ベアとのコラボのぬいぐるみなども限定発売され、ぴよりんの10歳の誕生日を盛り上げます。いずれもぴよりんファンなら参加&ゲットせずにはいられない、期待感いっぱいの企画が目白押しなのです。

モンシェールの堂島ロール×ぴよりん、名古屋マリオットアソシアホテルのホテルシェフぴよりん、ぴよりんベアなど、7月1日からコラボ商品も続々発売。販売店、期間など詳細はぴよりん公式サイト参照
モンシェールの堂島ロール×ぴよりん、名古屋マリオットアソシアホテルのホテルシェフぴよりん、ぴよりんベアなど、7月1日からコラボ商品も続々発売。販売店、期間など詳細はぴよりん公式サイト参照

今やぴよりんは名古屋の名物スイーツであると同時に、みんなで楽しむソーシャルご当地キャラクターになっています。その時にしか出会えない限定ぴよりん、持ち帰って箱を開けるまでの過程がアトラクションになるぴよりんチャレンジ、名古屋駅まで行けない人でも通販で購入できるグッズなど、楽しみ方のバリエーションもどんどん広がり、それに合わせて人気も右肩上がりとなっています。SNSではぴよりんに会う(買う)ために「名古屋に行きたい!」という投稿も数多く見られ、地域おこしの貢献度もあなどれません。今後も“ぴよりんファン=ぴよらー”の広まりが名古屋を盛り上げてくれそうです。

(写真撮影/筆者 ※期間限定商品、コラボ商品の写真はジェイアール東海フードサービス提供)

※続報 「名古屋発・ぴよりんが大ブレイク!きっかけは藤井聡太二冠だけじゃない?」(2021年7月30日)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

大竹敏之の最近の記事