名古屋・愛知のレトロ建築がブレイク! 魅力伝える「あいちのたてもの博覧会」が開催中
朝ドラをきっかけに名古屋のレトロ建築の来館者が2倍に!
名古屋、愛知のレトロ建築が、今注目を集めています。
大きなきっかけとなったのがNHK朝ドラ『虎に翼』。日本初の女性弁護士が主人公で、舞台となる昭和初期の景観のロケ地として名古屋の建築が随所に使われました。とりわけかつて本当の裁判所だった名古屋市市政資料館(名古屋市東区)は、ドラマの重要なシーンにくり返し登場して注目度が急上昇。レンガや大理石をふんだんに使った意匠、そして名古屋の中心部で無料公開されている気安さもあって、例年の2倍もの来館者が訪れる人気スポットとなっています。
「たてもの観光」が名古屋、愛知の観光の第3の柱に
「名古屋、愛知には近世から近現代の魅力的な建物がたくさんあるんです!」。こう太鼓判を押すのは名古屋の建築史家・村瀬良太さん。この地域では、モノづくりをテーマにした「産業観光」、戦国武将にスポットを当てた「武将観光」が人気を集めてきました。そして今、これらに続く第3の観光資源として「たてもの観光」に注目が集まりつつあるというのです。
そして、このムーブメントを象徴する「あいちのたてもの博覧会」が今まさに開催中。村瀬さんはその中心人物で、プログラムづくりから現地ガイドまで務めています。
大人気スポットの知られざる魅力に迫るツアーに参加
筆者はその幕開けとなる10月12日の名古屋市市政資料館のツアーに参加。村瀬さんのガイドで、大人気スポットの知られざる魅力を堪能しました。
「この建物の最大の特徴は外観。赤いレンガタイルと白い柱のコントラストが美しい。ドイツのネオバロック建築といわれる様式です」
ドイツの建築様式を取り入れているのにもちゃんと理由があるそう。「大日本憲法はドイツ圏の憲法にならって策定されました。裁判所は法を司る場所なので、憲法と同様にドイツの様式を取り入れることにしたのです」
正面の二本の円柱も荘厳。この円柱をはじめ、建物の顔となる中央の柱寄せでは石が使われていますが、正面以外では石を模した素材と技術が取り入れられているとか。「レンガタイルの間の白い柱形は、石に見えますが実は人造石の洗い出し仕上げで、左官の技術で石のように仕上げています。さわってみると人造石の部分はざらざらしています。すべて天然石を使うよりコストを削減するのが狙いだったと思われますが、今同じことをやろうとしたら、技術を継承する左官職人さんが非常に少なく、むしろ費用が高くなるかもしれません」
ドラマでも使われて、来場者にも映えスポットとして人気なのがメインフロア。吹き抜けの空間の下、ステンドグラスに向かって大階段が伸びていきます。ここでも当時の技術を活かした工夫が凝らされているとか。
「柱や階段の手摺りなどが大理石に見えますが、ここでも外観と同様に左官の技術が活かされています。黒い円柱は、芯はレンガで下部には黒大理石が貼ってあり、上部はしっくい塗りで石のように見えるマーブル塗りという技法が取り入れられているんです」
ただ見学するだけでも魅力的ですが、ガイドの解説が加わると印象はグッと深みを増します。デザインの歴史的背景、ほどこされた技術や工夫・・・。携わった人たちの息吹が感じられるようになるのです。
「あいちのたてもの博覧会」は、このようなガイド付きのプログラムが10~12月にかけておよそ100本も。最も古い建物は1537年築城の国宝犬山城(愛知県犬山市 ※10月16日開催で終了)。他、“渋ビル”として人気の中産連ビル(名古屋市)、愛知県最古の円形灯台・野間埼灯台(南知多町)、暗渠の上に連なる水上ビル(豊橋市)、これまた朝ドラのロケ地・鶴舞公園(名古屋市)など、興味深い建築を深掘りするプログラムがラインナップされています。
各プログラムの参加料は無料から食事付き6000円まで。定員は10~20名。事前予約が必要なもの、自由見学できるものなど各種あるので、事前にパンフレットを確認の上、参加してください。
レトロ建築ブーム以前からこつこつ魅力を発信
この「あいちたてもの博覧会」、レトロ建築ブームに触発されて・・・というわけでは決してなく、今年で11回目を数えます。
「地域の人にもあまり知られていない、地元の価値のある建築に親しんでもらいたい。イベントで集客する実績を重ねて、観光資源としても活用できる道筋をつけていくことが狙いです」。
そう語る村瀬さんらが毎年、博覧会を開催してコツコツと建築の魅力発信に努めている間、世の風向きにも変化が生じてきたといいます。
「近代の建築は、急激な都市の再開発などにより、価値が十分に認識されないまま取り壊されることが相次いできました。それを防ぐには重要文化財の指定を受けて保護するしか手がなかったのですが、1998年に新たに有形文化財として国に登録する制度が創設されました。建設後50年を経たものが対象となりますが、重文と比べると基準がゆるやかで、なおかつ“活用”されることが重視されます」
一方で、重要文化財制度も2012年の東京丸の内駅舎の復元を境に変化がもたらされてきたそうです。「1914(大正3)年の創建当時の、赤レンガが美しい外装が復元されました。観光の目的にもなるレトロな建築様式と駅本来の機能を両立させた新東京駅の登場で、近代建築に対する見方が大きく変わりました。一般の人が建築に目を向けるようになり、所有者も使いにくくて住みにくい古いまま残すのではなく、現在の基準に則した改装・改修を施しながら、観光資源としても活用できることが認知されるようになりました」
名古屋・愛知は「たてもの観光」にうってつけのエリア
この「たてもの観光」を楽しめるエリアとして、名古屋、愛知はうってつけの場だともいいます。
「価値ある近代建築を移築、保存して観光地として活かす“走り”とされるのが、愛知県犬山市の博物館明治村なんです。1960年に開村し、現在は60件以上の建物、資料を保存展示する明治村は非常に画期的な施設でした。また、愛知県は寺の数が日本一多い土地柄で、江戸時代末期以降の特徴ある近世社寺も数多く残っている。『たてもの観光』のコンテンツに事欠かない地域なんです。
とかく「観光スポットがない」といわれがちな名古屋、愛知ですが、実は見るべきたてものがあちこちに。「たてもの観光」はこの地域の観光の新たな柱になっていくポテンシャルを秘めています。日ごろ何気なく見過ごしてしまっていたビルや住宅、寺社が、見どころいっぱいのお宝に。「たてもの観光」は町の見え方、楽しみ方も広げてくれそうです。
(写真撮影/筆者、クレジット記載のものはあいちたてもの博覧会提供)