専業主婦が老舗和菓子店の4代目に 廃業寸前から奇跡の復活!
名古屋のお土産菓子の老舗がコロナショックで大ピンチに
名古屋の「元祖鯱もなか本店」は1907(明治40)年創業で、114年の歴史を誇る老舗和菓子店。看板商品は名古屋のシンボル・金のしゃちほこをかたどった最中。1921(大正10)年に創業者が考案するとたちまちヒット商品となり、戦前は青柳ういろう、納屋橋饅頭と並ぶ“名古屋のお土産菓子御三家”のひとつにも挙げられました。近年は名古屋駅や名古屋城、中部国際空港などでの販売を主とし、観光客向けのお土産として親しまれてきました。
しかし、昨年からのコロナ禍で状況は一変。売上の中心だったお土産需要がごっそりなくなってしまったのです。
「販売の7割を駅や観光地への卸が占めていたので、その分がほぼなくなり、売上は例年の1/3にまで落ち込みました」と同社代表の古田花恵さん。一世紀以上の店の歴史の中でも最大級のピンチに陥ってしまったのです。
初めて知ったお客の声をきっかけに4代目に
この非常事態の中で、古田さんがフェイスブックで見つけたのがコロナ支援の特別販売サイトでした。これはコロナ禍で売るあてがなくなってしまった特産品などをネット通販し、生産者を応援するとともにフードロスを削減しようという取り組み。和菓子も販売できなければ廃棄処分になってしまうため、古田さんもここに鯱もなかを出品。すると思いもよらなかった反応がありました。
「“おいしかったです!”“ずっと残してほしい。頑張ってください”“今度お店にも買いに行きます”など、温かいメッセージをたくさんいただきました。200件近いご注文をいただき売上的にもとても助かったんですが、これまで卸中心でお客様の声を聞く機会がほとんどなかったので、“こんなに愛されて求められているんだ!”と初めて実感できたんです」
実は3代目にあたる父・関山寛さんは子どもたち(花恵さんと兄の2人兄妹)に家業を継がせるつもりはなく、数年前から“店の終活”を始めていたのだそう。古田さんも20代の頃は美容系の職に就き、結婚後は専業主婦として子育て中心の生活。家業の大変さは身にしみて分かっていたため、父親の意思を尊重し、遠くない将来、看板を下ろすことになるだろうと覚悟していたといいます。
ところが、思わぬ形でお客の声が耳に届いたことで、心を動かされました。「私の代でなくしてしまっていいのか?という思いが膨らみ、お客さんの温かい声に押されて跡を継ごうと決心しました」。こうして今年8月、古田さんは30代にして4代目として社長に就任。コロナ禍がなければなかったであろう決断でした。
オンラインショップのリニューアルやSNS活用で通販売上が数倍に!
しかし、依然としてお土産消費が冷え込んだままの情勢でのスタート。新社長として、苦境を脱するために何から取り組んだのでしょうか?
「やらなければならないことだらけでした。廃業するつもりだったので何年も新商品の開発をしておらず、HPやオンラインショップも古くて使いにくいまま。何より卸に頼ってエンドユーザーに向けて情報発信をしていなかった。今はコロナ禍で巣ごもり需要が高まっているので、まずはオンラインを強化しようと考えました」
7月末にはHPとオンラインショップをリニューアル。前後してTwitterやインスタグラムのアカウントも開設し、8月半ばには公式LINEページもオープン。オンラインショップでは専用の期間限定詰め合わせセットなどを販売し、LINEでは限定クーポンやタイムセール、アウトレットセールを開催するなど、購買意欲を刺激する情報を積極的に発信していきました。すると効果はてきめん。HPの訪問者数は昨年同月と比べて3倍に。LINEページは開設一週間で200人以上が登録。オンラインショップの売上はこれまで月1~2万円程度だったところ、8~9万円と急増しました。
また、お菓子や巣ごもりの中心購買層は自身と同世代の女性だと着目。女性スタッフ(トップ画像の真ん中・空間活用事業部ディレクター森田美新さん、右・セールスディレクター平沢彩和さん)を新たに起用する組織改革にも取り組みました。
金のしゃちほこのご当地感で名古屋をアピール!
名古屋ならではの金のしゃちほこをモチーフにした菓子をつくっていることが、予想もしなかったビジネスチャンスも呼び込みました。ものまねタレントのMr.シャチホコがパチンコチェーンの応援キャラクター、マルハンヨロコビ大使に就任し、全国の店舗を巡回するイベントのノベルティにと大口の注文が舞い込んだのです。
「BtoCのオンラインショップに対して、こういうBtoBの市場もあるんだ、と驚きました。金のしゃちほこのお菓子はパッと見て名古屋らしさが伝わる魅力がある。この特徴を活かせばまだまだいろんな方面に販路を拡大できる、そんな可能性を感じました」
新たな展開のアイデアも尽きません。八丁味噌を使ってよりご当地感を打ち出した新商品の開発、女性に訴求するパッケージも含めた商品づくり、イートインやコワーキングスペースなどを設けた人が集まれる店舗への改修プラン、和菓子業界で活躍する女性を集めた新たな「名古屋菓子」の発信などなど…。
「見て楽しく、食べておいしいお菓子で名古屋をアピールしていきたい!」という古田さん。彼女の取り組みに、以前当サイトでインタビューしたTwitterの大人気アカウント「おいなごちゃん」のこんな言葉が思い出されます。「老舗の和菓子屋さんで、“HPで発信すれば無茶苦茶流行るのにな”ってお店があるじゃないですか。名古屋市もまさにそういう状態だと思うんです」(「フォロワーは8万人超!名古屋で人気の『おいなごちゃん』“中の人”にインタビュー」/2019年10月30日)。つまり、的確に情報発信すればブレイクするだけの魅力があるのに、それを怠っているがゆえに魅力がないと思われているのが、多くの老舗和菓子店であり、名古屋であるという指摘でした。
元祖鯱もなか本店は、まさに埋もれかけていた魅力を、情報発信によって掘り起こし広めている格好のモデルケースとなりそう。金のしゃちほこのお菓子に負けじと、さぁ次は名古屋の番、です!
(写真撮影/筆者 ※戦前の店舗写真は元祖鯱もなか本店提供)