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河川・湖沼池の多人数水難 原因は後追い沈水

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
河川等の多人数水難の原因の多くは後追い沈水。きっかけは1人目の沈水(筆者作成)

 本日、大阪府高槻市の川で多人数水難が発生しました。詳細はわかりませんので、この事故に関係するかどうかは別として、子供同士で遊びに来ていてこれまで全国の河川・湖沼池で発生した多人数水難の多くは、後追い沈水を原因としています。後追い沈水では1人目が深みにはまり、とっさに2人目が近づきやはり深みへ。そして3人目も同じ行動を起こします。4人目以降は通報に走るため、大抵は3人が犠牲になります。本日の事故とは切り離して、後追い沈水の恐ろしさについて知っていただきたいと思います。

参考 子供に危険な水辺はどこ? 水難事故死が一番起きる河川の怖さ

後追い沈水の事例

 2014年6月に岐阜県各務原市の木曽川で小学生中学生3人が流されて溺れて亡くなりました。この時には、3人の子供が川にウエイディング(水底歩き)をしていて次々に深みに入りました。それを見ていた子供が引き返して通報しました。結果として3人の子供は溺れて亡くなりました。

 2014年5月に新潟県上越市柿崎区の海岸で5人が戻り流れに流されて溺れて亡くなりました。この時には、まず3人の子供が流されて、続いて子供たちを助けようとした男性2人が後を追って波にのまれました。とっさのことで波の恐ろしさを考えるゆとりもなく、後追いの大人は海に入っていきました。

 2012年7月に愛知県一宮市の木曽川で、中学生3人が溺死しました。服を着たまま岸から中州に渡り、さらに本流に出たところ、1人が深みにはまり、助けようとして次々と溺れました。現場では、中州近くはひざ下ほどの水深ですが、本流に踏み出すと急に大人の背丈ほどの深さになりました。

 2011年7月に兵庫県明石市のため池で、小学2~3年生の男児3人が池の中で溺死しました。3人とも半ズボンに素足の格好でした。3人が発見された場所は岸から約50メートル離れ、深さが約50センチから約120センチに急激に変わる場所でした。

なぜこのような場所で水難事故が起きるか

 上越市の水難事故現場は別として、他の水難事故現場は大きな川であったり、池だったりして、見た目には危険性を感じません。川は大きいほど流れが緩やかになり、見た限りではそれほど危険を感じなくなります。池も全く同じで特に兵庫県明石市にあるため池はかなり規模の大きな広い池で、急に深い場所があるなど陸から見る限りあまり想像できません。

 しかし、川の流れが穏やかということは水深が深く、むしろ危険性が高くなります。2件の多人数水難を出した木曽川は日本を代表する大きな河川です。とくに増水していなければ平野部では穏やかな流れを見ることができます。ところがこのような大きな河川では、大雨で増水するたびに「洗堀」と呼ばれる現象が生じます。洗堀は上流から一段下がった下流に水が流れ落ちると、流れ落ちたところの「河床」と呼ばれる水底が深く掘られる現象です。図1に洗堀によって河床が深く掘られた様子のモデルを示します。

図1 川に見られる、洗堀によって河床が深く掘られた様子のモデル。このような深みにはまって溺れる例が多い。(筆者作成)
図1 川に見られる、洗堀によって河床が深く掘られた様子のモデル。このような深みにはまって溺れる例が多い。(筆者作成)

後追い沈水による多人数水難

 誰もが、「溺れた人を助けに行くと一緒に溺れる」ということを聞いたことがあると思います。でも、目の前で深みにはまって一瞬で姿を消した友達、家族を見れば、続いてその場に行ってしまうものです。人が溺れた場所では同じことがおこる。これが後追い沈水による多人数水難の原理原則です。頭ではわかっていても、体が動いてしまう。

どうすればよいか

 1人目がすぐに浮いて背浮きの状態になれば、後追い沈水はかなり防げます。なぜなら、最初の溺者の姿が見えれば次の人はどうするか考える時間的余裕ができるからです。その時に必要なことは、最初の溺者が靴を履いていること、ういてまて教室で「災害対応」という緊急浮上の方法を習っていることです。そして周囲の人もういてまて教室を習っていて、こいうときには「ういてまて」と叫び、119番通報をして、浮くものを溺者に渡す、と習った通りに動くことができます。ぜひ、全国の小中学校でういてまて教室を実施して、後追い沈水による多人数水難事故の撲滅に協力してほしいと思います。

参考  子どもの水難事故死を防ぐ「ういてまて」 今すぐできる小学生向けの教え方 

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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