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子供に危険な水辺はどこ? 水難事故死が一番起きる河川の怖さ

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
川の急な深みは、陸からはよくわからない(著者撮影)

子供にとって、水辺のどこが危ないのか

 図1は、昨年までの12年間にわが国で中学生以下の子供がどこで命を落としたか、あるいは行方不明になったかを表した円グラフです。河川が310人で最も多いことがわかります。全年齢範囲だと海で亡くなる人が最も多くなるのですが、子供の場合は河川で命を落とすことが多いのです。

図1 警察庁 水難の概況より、過去12年間の子供の水難事故死者・行方不明者数の場所別の統計
図1 警察庁 水難の概況より、過去12年間の子供の水難事故死者・行方不明者数の場所別の統計

 その理由は、「子供の行動範囲にある水辺の多くが河川」だからです。水難学会の調査によれば、水難事故は人間の行動の範囲内で起こることがわかっています。例えば、0歳~1歳は自宅の風呂、1歳~5歳は自宅の池、5歳以降で河川、用水路、湖沼、海と、行動範囲の広がりとともに事故現場も家の外へと広がっていきます。

 今年も夏休みを迎えるにあたって、子供の行動範囲に焦点を当てて水難事故の対策を考えてみませんか?大事な子供を水難事故から守るために、なにをチェックすればよいのか。そのヒントとして、今回は河川と側溝の危険性について解説します。

河川の危険性

 「川には流れがあるから危険」だと思われている方が多いかと思います。でも流れで呼吸ができなくなるわけではないので、真の危険を言い当てていません。真に怖いのは急な深みで、その深みにはまって呼吸ができなくなり、人は溺れるのです。川では歩けるほどの浅い所と急に深くなっている所とが極端にわかれます。それが川の怖さです。

事例1 2012年7月愛知県一宮市の木曽川で、中学生3人が溺死した。服を着たまま岸から中州に渡り、さらに本流に出たところ、1人が深みにはまり、助けようとして次々と溺れた。現場では、中州近くはひざ下ほどの水深だが、本流に踏み出すと急に大人の背丈ほどの深さになる。

 大きな川になるほど、流れが緩やかになり、見た限りではそれほど危険を感じなくなります。しかし、流れが穏やかということは水深が深く、むしろ危険性が高くなります。木曽川は日本を代表する大きな河川です。とくに増水していなければ平野部では穏やかな流れを見ることができます。ところがこのような大きな河川では、大雨で増水するたびに「洗堀」と呼ばれる現象が生じます。洗堀は上流から一段下がった下流に水が流れ落ちると、流れ落ちたところの「河床」と呼ばれる水底が深く掘られる現象です。

 図2を見てください。この図は洗堀された河床のモデルを示します。このモデルでは川の中央部で河床が急に深く削れています。普段流れが穏やかな時に、この場所が川の流れで覆われていると、川の深さの変化が目でみただけではわかりません。河川敷から川に入り、ひざ下くらいの所を歩いているうちに、急な深みにはまってしまいます。深みにはまると体を垂直にして一瞬にして沈み、浮き上がる技能がなければ、そのまま浮かび上がってくることがありません。

図2 川に見られる、洗堀によって河床が深く掘られた様子のモデル。このような深みにはまって溺れる例が多い。(筆者作成)
図2 川に見られる、洗堀によって河床が深く掘られた様子のモデル。このような深みにはまって溺れる例が多い。(筆者作成)

 河川の洗堀されている箇所の様子などは、地元の河川事務所などが把握しています。河川管理のプロフェッショナルの話を聞いて、学区内の河川の危険箇所を把握するとよいでしょう。とくに、道路から河川敷に簡単に下りられるようになっている場所の付近の危険箇所は、夏休み前に子供たちにその危険性とともに具体的に教えるようにしたいものです。

側溝の危険性

 図3のように普段はほとんど水が流れていない側溝や排水路は、上流で発生した大雨で一瞬にして牙をむきます。上流の水が水路に集中していっきに流れ下ってきます。それがコンクリートで覆われている人工の水路の怖さです。このような状況は、穏やかな晴れの日には予想すらできません。そのため、晴れた日に学区内の安全点検を行ってもこのような水難事故防止にはあまり役に立ちません。夏休み前の大雨の時にこそ、子供の通学路や寄り道しそうなところを中心に、地域の安全点検をしたいものです。

図3 下り坂の側溝。いつもはほとんど水が流れていないが、大雨では雨水が激しく流れ下る。手前は集水桝の上の柵のふた。(筆者撮影)
図3 下り坂の側溝。いつもはほとんど水が流れていないが、大雨では雨水が激しく流れ下る。手前は集水桝の上の柵のふた。(筆者撮影)

事例2 2018年5月滋賀県甲賀市の道路脇の側溝で、小1女児が流され溺死した。女児は下校途中で、降雨で増水した側溝に足をつけて遊んでいたところ流された。

 現場は坂道になっている道路で、その脇に設置されている側溝です。側溝に流れがあり、そこに足をつけると水しぶきがあがり、子供の好奇心をかき立てます。流れに逆らって立っていられるうちはよいのですが、流れに負けてしりもちをついた瞬間、ウオータースライダーのように体が流されます。このときの水量としては、水の深さで数cm程度です。見た目では、「このようなところで溺れるわけがない」と感じてしまう程度です。確かにその場所では溺れるほどの深さではありません。ところが側溝を雨水が流れていくと集水桝というふたのかけられた深い合流部にたどり着きます。上から見た間口は70 cm角程度で、垂直に深さが大人の背丈ほどあります。ここまで人が流されてくると、背浮きにもなれません。体を垂直にした最悪の状態で溺れてしまいます。

 昔から坂道の側溝で流された事故はあったため、現在ではそのような箇所を中心に側溝にふたがかけられるようになってきました。ただ、まだすべてにふたがかけられているわけではなく、住民自身がそのような危険箇所に気が付き、自治体に対策を求めていかなければなりません。

おわりに

 河川と側溝は、ともに子供の行動範囲内にあり、親の目の届かない水辺と言えます。その一方で違いは、大きな川では万が一のときには、ういてまての技能で浮いて救助を待つことができるのに対し、側溝ではそれができないことです。つまり、「水に落ちたらあとがない」という箇所には水に落ちないための安全施設を設置しなければならないのです。このようなことまで念頭において、夏休みを迎えるにあたって、大事な子供を水難事故から守るための安全チェックをされたらいかがでしょうか。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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