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PFPでもカネロを抜くか 中谷、井上尚弥と対戦も期待される軽量級新星の快進撃は続く

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mark Robinson Matchroom

11月9日 フィラデルフィア ウェルス・ファーゴ・センター

WBC世界スーパーフライ級タイトル戦

王者

ジェシー・“バム”・ロドリゲス(アメリカ=帝拳/24歳/21-0, 14KOs)

3回TKO勝ち

元WBC世界ライトフライ級王者

ペドロ・ゲバラ(メキシコ/35歳/42-5-1, 22KOs)

 アメリカ古都のファンを感嘆させたパフォーマンス

 試合後、会見の場に登場したロドリゲスはまるで軽いマスボクシングでも終えたかのように涼しい顔だった。全盛期は2階級下とはいえ、これまで50戦近いキャリアでKO負けの経験がなかった古豪をあっさり3回で沈める圧勝。特に2度目のダウンを奪ったアングルを変えての右アッパーは出色だった。

 「ハッピーだけど、こうなると思っていたよ」

 破壊的なKO勝利の後、事もなげにそう語っても単なるビッグマウスには感じられなかったのも事実である。通称“バム”の圧巻なまでの強さを目の当たりにして、メインに登場したIBF世界ウェルター級ジャロン・“ブーツ”・エニス(アメリカ)がお目当てだったフィラデルフィアのファンもどよめく以外になかった。

 今年後半は大興行が少ない中で、DAZNが“ブーツ”と“バム”を大々的に売り出したイベントの注目度は高かった。

 「(フィラデルフィアの試合は)間違いなくこれまでとは違った。雰囲気も違ったし、“ブーツ”と一緒に今週を経験できたのはよかった。“ブーツ”もすごい選手だから、ファイトウィークを彼とシェアできたのはクールなことだった」

 試合後、ロドリゲスはそう語ってエニスにも花を持たせようとしたが、この日、最も輝いたボクサーが誰だったかは誰の目にも明白だった。2022年以降、ビッグネームを蹴散らし続けるサウスポーは年齢的にも今がピーク。全階級を通じてもトップレベルのエリートファイターであることはもう間違いない。

 リングマガジンが選定するパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでは、ロドリゲスは先週の時点でオレクサンデル・ウシク(ウクライナ)、井上尚弥(大橋)、テレンス・クロフォード(米国)、アルトゥール・ベテルビエフ(ロシア)、ドミトリー・ビボル(ロシア)、サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)に続く7位にランクされていた。

 筆者もメンバーの一員であるリング誌のランキング選定委員の間では、ゲバラ戦のあと、ロドリゲスをカネロよりも上の6位に据えるかどうかがメインの議題となっている。勝って当然と見られたゲバラとの試合後に浮上は適当ではないと見る選者と、最近の対戦者の質の高さと勝ち方のインパクトを買う選者(筆者を含む)が真っ二つ。リングマガジンの買収にともなうリニューアルゆえ、まだランキングは更新されていないが、ここでは“バム”の“カネロ”超えは十分にあり得るとだけは記しておきたい。 

統一戦か、中谷、井上とのビッグファイトか

 こうして最新の試合を終え、ロドリゲスに関する興味は当然のように次の対戦相手に移っている。

 「できれば統一戦を2試合行い、4団体統一王者になりたい。それが難しかったら、バンタム級に上げるだろう。時期的には(スーパーフライ級で戦うのは)2025年の後半までだと思う」

 試合後のインタビューでは筆者にそう述べた24歳は、プライオリティがスーパーフライ級の統一戦であることをこれまでも繰り返し語っている。大晦日に日本で予定されるWBA王者フェルナンド・“プーマ”・マルチネス(アルゼンチン)と前王者・井岡一翔(志成)の勝者と来春にでも対戦できればベストか。

 井岡が勝ち残った場合には容易ではない予感もあるが、マルチネスと関係が深いPBCが最近は放送枠不足に悩まされていることもあって、“プーマ”対“バム”の成立は難しくはなさそう。マルチネス側のある関係者は「(統一選挙行は)まったく問題ないよ」と断言していた。

 その他、ローマン・“チョコラティート”・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳)との新旧軽量級スーパーファイトを望む声もあれば、1階級上で猛威を振るう中谷潤人(MT)とのビッグマッチを熱望する期待感も消えない。現状では2階級上の井上尚弥(大橋)との最終決戦のリアリティまでが一部で騒がれており、話題には事欠かない。

Photo By Mark Robinson Matchroom Boxing
Photo By Mark Robinson Matchroom Boxing

 正直、37歳を迎えた今の“チョコラティート”にとってロドリゲスは厳しい相手だろうし、井上戦も階級&年齢差ゆえに両者の曲線は交わらなさそう。それよりもスーパーフライ級での統一戦を一度こなした後、バンタム級戦線に踏み込んで欲しいと願っているのは筆者だけではあるまい。

 ご存知の通り、バンタム級の4団体王者はすべて日本人。ロドリゲスが早期に昇級すれば、日本選手と絡む可能性が必然的に高まる。

 「バンタム級の王者はみんな日本人ボクサーだというのはわかっている。階級を上げたら日本で戦うことになるのだろう。バンタム級の王者であれば、どの選手との対戦でも構わない」

 帝拳の契約選手でもあるロドリゲスはそう述べ、日本ボクシングとの絡みも楽しみにしているようだった。今夏、東京でのバケーションも楽しんだようで、日本について話すのは大好きな様子。中でもアメリカでの評価が上がる一方の中谷との激突が実現すれば大注目の一戦になるだけに、その動向からは目が離せない。

Photo By Mark Robinson Matchroom Boxing
Photo By Mark Robinson Matchroom Boxing

 これは個人的な印象だが、“バム”は「ボクシングだけ」という熱い執着を感じさせるタイプではない。もちろんトレーニングは誰よりもハードにやっているのが見て取れるが、前回のインタビューでも「30歳を超えたらもう現役を続けたくはありません。それ以前にやりたいことはやり終えたいですね」と話していた通り、それほど長く現役に固執する選手ではないかもしれない。だからこそか、早い時期にできるだけの大きな試合をやりたいという熱い意欲が感じられる。

 新星のそんな希望は、これからどれだけ叶うのか。そのグロリアスロードに日本選手は関わるのか。最新の鮮烈なパフォーマンスで魅了された後で、今後1年半くらいの間にさらに大きな幾つかのヤマが訪れることを期待したくなる。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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