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ベテルビエフ対ビボル戦の判定は正しかったのか Lヘビー級頂上決戦を英国人記者が分析

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams/Top Rank

10月12日(現地時間) サウジアラビア・リヤド キングダムアリーナ

WBA、WBC、IBF、WBO世界ライトヘビー級4団体統一戦

WBC、IBF、WBO王者

アルツール・ベテルビエフ(ロシア=カナダ/39歳/21-0, 20KOs)

12回2-1判定(116-112, 115-113, 113-115)

WBAスーパー王者

ドミトリー・ビボル(アメリカ/33歳/23-1, 12KOs)

 ライトヘビー級の頂上決戦は予想通り、ハイレベルな大接戦となった。クイックネスに勝るビボルがアウトボクシングで前半を制せば、パワフルなベテルビエフも終盤に猛追。劇的ではなくとも緊迫感のある重厚なバトルの末、ベテルビエフが際どい判定を握った。ただ、ビボルが勝っていたと見たファン、関係者も少なくなく、試合後はそのスコアが改めて議論を呼ぶことにもなった。

 サウジアラビアで挙行された大イベントの終了後、リングマガジンの元編集人であり、現在はスポーティングニュースで健筆を振るう英国人ライター、トム・グレイ氏にこの試合に関して意見を求めた。判定は正しかったのか。そして、この一戦のリマッチは即座に行われるべきなのか。

(以下、グレイ氏の1人語り)

期待通りのハイレベルな戦い

 まず私自身の採点を述べておくと、115-113でビボルの勝利と見ました。その一方で、発表された公式スコアには特に不満はありません。どちらとも言えないラウンドが多く、私の採点が真実だったと言い張るつもりはありません。ベテルビエフの勝利という見方もあり得るのでしょう。

 納得できない点があるとすれば、ジャッジのうちの1人がベテルビエフに8ラウンドを与えたこと。どちらの勝ちにせよ、そこまで差がつくものではなかったからです。

 試合は素晴らしい内容だったと思いますし、両選手が見事なパフォーマンスを見せてくれました。これまで全勝全KOだったベテルビエフは初めての判定勝利を手に入れました。最後までビボルを追い回し、プレッシャーをかけ続けた体力と精神的な強さは特筆に値し、39歳という年齢を考慮すればそれはなおさらでしょう。

 ただ、個人的にはビボルの正確なパンチ、丁寧なディフェンスが上回ったと見ました。CompuBoxの数字によると、ベテルビエフのパンチの的中率は20%。そんなスタッツは今戦を物語るものだったと考えています。

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

 一部のファン、関係者の間ではいまだに攻勢点が評価され続ける傾向がありますが、私はそうではないし、今後も変わらないでしょう。ビボルが多くのパンチをかわし、ガードで受け止めているのであれば、私が評価するのはベテルビエフの攻勢ではなく、ビボルのディフェンス。単なる攻勢ではなく、効果的な攻勢でなければならないというのが私の考え方です。そういった観点で見て、ビボルの方が勝利に値すると思いました。 

 とはいえ、繰り返しになりますが、この試合に関して「ビボルは判定を盗まれた」などと主張するつもりはありません。「盗まれた」という言葉は多用され過ぎています。

リマッチもサウジアラビア開催

 両選手の技量には改めて感嘆させられたともう一度言っておきたいです。井上尚弥以外では、ビボルこそが現役最高のピュアボクサーかもしれません。ビボルはすべてのパンチをトレーナーが望むような適切な形で放つのです。

 一方、ベテルビエフもよく足を動かし、多彩な方法でアタックを続けていました。そんな2人が織り成した12ラウンズは、ボクシングファンなら感謝すべきものだったと思います。

 ボクシングの世界では契約の形態ゆえ、不要なリマッチが行われてしまうことがあります。初戦で決着がついていたデビン・ヘイニーとジョージ・カンボソスJr.戦はその最たる例でしょう。一方、ダイレクトリマッチに値する試合のリストがあるとすれば、オレクサンデル・ウシク対タイソン・フューリー戦とともに、ベテルビエフ対ビボル戦も含まれます。

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

 試合内容が上質かつハイレベルで、明白な形で決着がつかなかったのであれば、再戦は行われるべきだという言い方もできるのかもしれません。

 サウジアラビアのトルキ・アル=シャイフ娯楽庁長官がリマッチを希望しているのであれば、比較的早い段階で行われるのではないかと予想します。またサウジアラビアのリヤド開催でしょう。ベテルビエフ対ビボル2はおそらく6〜9ヶ月以内に挙行されるでしょうから、その時を私も楽しみにしておきたいと思います。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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