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「おかえりモネ」気象予報士もうなった 実在した天気シーン3選

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
中央区”晴見”「ウェザーエキスパーツ」ロケ地(中央区晴海にて 筆者撮影)

 表紙の写真は、朝ドラ「おかえりモネ」の主人公モネの就職先、「ウェザーエキスパーツ」のロケ地です。

 今年(2021年)の5月から始まった朝ドラも、明日29日(金)で最終回を迎えます。立場上、”気象”というバイアスをかけての視聴でしたが、最後はハッピーエンドで終わりそうで安堵しています。

 振り返ってみると、このドラマの特徴はドラマの中で描かれた気象のエピソードが実在の気象現象をモデルにしており、それを探すのも予報士としては楽しみの一つでした。

気象予報士の仕事はお天気キャスターだけではない

 この朝ドラは、気象を生業としている者にとっては特別な意味を持っていました。これまで気象予報士を扱ったドラマやテレビ番組は、たいてい”お天気キャスター”だけにフォーカスされて、その縁の下の力持ちである気象スタッフや、あるいは気象予測が基になっている様々な仕事については、あまり触れられることはありませんでした。 

 ところが今回は、”お天気キャスター”が軸にはなっていたものの、朝岡キャスター(西島秀俊)のスポーツ気象への転身や、モネ(清原果那)のふるさとへの帰還を通して、地域防災などの問題意識が通底に流れていたのが新鮮でした。

 気象は、実は多岐にわたる”職業(仕事)”を生み出す可能性に満ちており、そのことを、このドラマは暗に示していたと思います。そのせいか、ずっと減少傾向だった気象予報士試験の受験者数も、今年の夏に行われた第56回予報士試験では、2920人と増加に転じたのです。(下図参照)

気象予報士試験受験者数の推移(気象業務支援センターのデータをもとにスタッフ作成)
気象予報士試験受験者数の推移(気象業務支援センターのデータをもとにスタッフ作成)

 これは明らかにモネ効果だと思いますが、気象に対するニーズが高まっているのも事実でしょう。実際に、三井住友海上火災保険では「2025年までに社内気象予報士を現在の5人から50人に増やす方針を固めた」とのことで、気象予報士の業務は今後、他業種にも増えていくことが期待されます。

実在した3つの気象シーン

 囲碁や将棋の棋士の方は、局面を見ただけでその対局を思い出すことができると言います。気象予報士にとっても、天気図を見た瞬間に「これは何々豪雨の時だな」など、見当が付くことがあります。そうした眼でみると、今回のモネで描写された天気図もピンとくるものがいくつかありました。

 そのあと実際に起きた気象現象と突き合わせてみると、ほとんど一致していて、しかもドラマにありがちな御都合主義的な変更も最小限に抑えられていたので、これは気象を監修した方々が相当苦労したのだろうと想像しました。

 以下、個人的にうなったシーン3つほど述べてみます。

第一のシーン

1995年台風12号の天気図と雲の様子(出典:デジタル台風)
1995年台風12号の天気図と雲の様子(出典:デジタル台風)

 まずはなんといっても、初回放送でモネの母親・亜哉子(鈴木京香)が嵐のなか、船で海を渡るシーンでしょう。オープニング冒頭で画面に「1995年(平成7年)9月」と表示され、ドラマの中の台風情報で「超大型で非常に強い台風12号が~」とアナウンスされた瞬間に、これは実在の台風をモデルにしていると気づきました。

 その後、当時の状況を詳しく調べ台風の位置から、モネの誕生日は1995年9月17日であることが推測できました。(過去記事参照

 さらに物語の中盤で新田サヤカ(夏木マリ)の誕生日が1947年の同じ9月17日であることが判明します。なんと、この日はカスリーン台風が来た日で、台風の進路も12号とそっくりでした。

第二のシーン

2016年台風10号と2021年台風8号の進路図(出典:気象庁)
2016年台風10号と2021年台風8号の進路図(出典:気象庁)

 続いて第55話、56話で描かれた台風8号です。  

 この台風は統計史上初めて、東北の太平洋側に上陸した台風として描かれました。ドラマの中では2016年8月24日の出来事となっていましたが、実際には2016年8月30日に台風10号が東北の太平洋側へ上陸しています。

 この台風は、その進路の迷走ぶりも気象関係者を驚かせましたが、ドラマの中の台風8号は上陸日時が違うだけで、この10号がモデルだったことは確実です。

 さらに偶然にも、放送2日前の今年7月28日には、なんと台風8号が石巻市に上陸しました。この不思議なめぐり合わせには、思わずうなりました。と同時に、近年、台風のコースが変わってきたという研究もあり「東北上陸台風」が珍しくない時代に入ってきたのかも知れません。

第三のシーン

2018年3月1日の天気図(出典:気象庁)
2018年3月1日の天気図(出典:気象庁)

 そして最後は、「嵐の気仙沼」の週(10月11日~15日放送)です。

 モネの同級生で見習い漁師の亮君(永瀬廉)が、正月の初セリのためマグロ漁にでかけます。この日、帰ってくるはずだった亮君は、モネが予測した通り日本海にあった低気圧の南側で発生した低気圧(気象業界では二つ玉低気圧と言います)の影響で、遭難の危機にあいました。

 画面に映し出された1月3日の天気図を見ると、日本海に982ヘクトパスカルの低気圧があって発達中。この気圧配置は関東以西で「春一番」が吹くタイプで、真冬にはあまり現れません。

 この天気図をみて、私は直感的に春一番が吹いた日の天気図を探しました。そして、画面に映し出された天気図と瓜二つの日を見つけたのです。それが2018年3月1日(上図)です。(録画されていた方は、ぜひいま一度ご確認ください(笑))

 この日は関東から西の地域で春一番が吹き、全国的に大荒れの天気となりました。気仙沼でも暴風、波浪警報が発表され夜遅くには最大瞬間風速23.7メートルの強風が吹きました。

 「春一番」は、もともと長崎県で漁師達が春に入って初めて吹く強い南風を「春一」と呼び、恐れていたことが由来のひとつとされていて、気象関係者の間では災害をもたらす天気として知られています。

 遭難するシーンでこの日の天気図を使った(であろう)ことに、大変感心しました。

 他にも細かく練られた気象背景を上げたらキリがないほど、このドラマは緻密にできていたと思います。

 私は以前の記事で「おかえりモネ」の隠されたもう一つのテーマは”水の循環”だと書きました。28日(木)の放送では、気象予報士になったモネがサヤカと再会しこう呟きました。「登米の山での時間があったから、私はいまここに、こうしていられている・・・」

 モネは、サヤカと出会い海と山のつながりを学び、そしてサヤカのもとを離れ、ついに気象予報士・空のスペシャリストとなって戻ってくる。

 この再会こそまさに裏テーマであろう「海と山と空の循環=水の循環」を表したワンシーンであると感じました。

 そしてまた、今回の「おかえりモネ」は、気象予報士の社会的なニーズを掘り起こす功績もあったことは間違いありません。

参考 

5月21日掲載記事「おかえりモネ」百音の誕生日は9月17日か "台風特異日生まれ"に秘められた意味

8月2日掲載記事「おかえりモネ」ドラマの中の台風8号は実在していた 台風コースに異変があるのか

6月18日掲載記事「おかえりモネ」放送開始から1カ月、裏テーマは"水の循環"と確信できる理由

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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