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児童ら27人殺害、サンディフック小学校銃乱射事件から10年。あれから米国はどう変わったのか?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
2012年12月14日。(写真:ロイター/アフロ)

サンディフック── 。

アメリカの小学校で児童をターゲットに発生した銃乱射事件と言えば、多くの人々の脳裏にまずこの言葉が浮かぶのではないだろうか。

ちょうど10年前の2012年12月14日、コネチカット州ニュータウンにあるサンディフック小学校(Sandy Hook Elementary School)で、銃乱射事件が発生した。

母親が所有するAR-15型アサルトライフルなど複数の銃で武装した20歳のアダム・ランザ(Adam Lanza)は、同日午前9時35分過ぎ、自身の母校である小学校に侵入し、6歳と7歳の児童20人(男児8人、女児12人)と、職員6人の計26人を射殺した(男はその朝、自宅で母親も射殺。この事件も入れると犠牲者は27人)。

小中学校で発生した銃の乱射事件としては、米国史上最悪の出来事として語り継がれている。

サンディフック小学校で乱射事件が発生し、小学校の外をパトロールする警察(2012年)。
サンディフック小学校で乱射事件が発生し、小学校の外をパトロールする警察(2012年)。写真:ロイター/アフロ

男は事件を起こした現場で自身の頭部を撃ち自殺した。男が生前に関心を示していたゲームと事件の関係がクローズアップされたこともあるが、容疑者死亡で事件の動機は不明のままだ。

当時のコネチカット州法では、20歳がライフルや散弾銃を携帯するのは合法で、実際に犯行に使用された銃は、犯人の母親が合法的に購入したものだった。

あれから10年が経ち、生き残った子どもたちは10代後半に成長した。彼らの多くに深い悲しみと心の傷(トラウマ)が残っており、罪悪感と不安感に苛まれる人もいるという。そして残された親や遺族の中には、銃規制のための擁護活動や訴訟のために働きかけをする人もいるが、事件で失った子どもの年齢は止まったままだ。

事件を教訓に、この10年で何が変わったのか。

まず今年の11月、犠牲者を弔う記念碑「Sandy Hook Permanent Memorial」が、事件後に取り壊されたサンディフック小学校の代わりに新たに建設された小学校の近くにオープンした。

あれから10年後、記念碑が完成した。
あれから10年後、記念碑が完成した。写真:ロイター/アフロ

犯人のライフルを製造した銃器メーカー、レミントン社に、遺族への7300万ドル(約99億円)支払い命令や、この事件はデマであるという嘘を広めた陰謀論者への14億ドル(約1900億円)の支払い命令など、訴訟問題も10年経った今もある。

子どもを銃暴力から守るため、この10年で数十の組織が結成された。その1つ、非営利活動団体のサンディ・フック・プロミス(Sandy Hook Promise)は、現在全米の多くの学区で実行されている「(暴力介入プログラム)」を考案した。このプログラムは、「銃犯罪が多く発生している都市や地域在住」、「黒人男性は白人男性より銃による死亡が13倍高い」といったデータに基づき、銃暴力によりさらされている児童や人に的を絞り、銃乱射事件の犯人になる潜在的な警告サインを認識できるようになるなどの予防策を教えている。

またサンディ・フック・プロミスは、銃犯罪を減らす政策変更のために議会への働きかけも行い、今年6月に制定された超党派のより安全なコミュニティ法(Bipartisan Safer Communities Act)の内容を巡って、交渉段階で大きな役割を果たすことに成功した。その結果、21歳未満の銃購入者の身元調査の拡大や、メンタルヘルスと暴力介入プログラムへの資金を増やしたとされる。

この法律は約30年ぶりとなる超党派の主要な銃規制法と言われ注目されたが、それから1ヵ月も経っていない独立記念日に、イリノイ州シカゴ近郊のパレードで銃乱射事件が起き、7人が死亡、38人以上が負傷した(22歳の男は拘束)。

また、サンディフックの事件後、一部の教育現場では、セキュリティが劇的に強化されるデザインに変更されたという。しかしUSAトゥデイは、「その施策は、アップグレードする余裕のある教育現場に限られており、アメリカの多くの学校では何も変わっていない」という。「そのような安全面の建築デザイン変更だけで、教育現場での銃乱射事件を完全に阻止、または防止することはできない」とも述べた。

非営利団体の銃暴力アーカイブ(Gun Violence Archive)の記録によると、サンディフック小学校の事件以降に発生した銃乱射事件(犯人を除く4人以上を死亡または負傷させた大規模なもの)は3500件以上にも上るという。

2013年より大きな銃乱射事件を追跡してきたNBCニュースは、10年目の今日「そしてまた、何度も何度も」という特集を組んだ。「事件後、『ネバーアゲイン(2度と起こさない)』と人々はマントラのように唱え続けた。しかしサンディフックの事件後も全米54校で銃乱射事件が発生し101人が死亡、156人が負傷した」。

これら54件の乱射事件はあくまでも教育現場で起こった件数のみであり、それらは全米25の州とワシントンD.C.で起こり、ほとんどのケースの犯人は男性という。

CNNは「サンディフックの事件から10年というこの節目の年に、我が国における銃暴力への対処を目指した擁護と解決について、再び国民の議論を呼び起こしている」と報じている。

筆者はこの事件前後で、アメリカの銃にまつわる劇的な変化をまったく感じないのだが、悲劇から10年という節目にこの国の人々は一体何を考えただろうか。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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